迎え撃つ準備を始めよう -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「この板はすごいわよね」
学院から帰ってきたクラウディアは、談話室に置いてあるテレビを見ていた。
もともと見ていたのはフィーネだけれど、板に映し出された映像から何かの情報が流れてくるので、その中身はよくは解らないけれど、夕方のニュース番組を興味津々に見ている。
「世は一見平和であるな」
新宿の件は今のところまだ何の情報も出されていない。
誰も住んでいない旧23区の、わりと真ん中の方で起きている出来事なので、今は先日の後処理中という注意だけが出ている状態だから、関東地区の人達は普通の生活を続けている。
それもあって、冬の北海道への旅行客が増えているという情報を伝えるコーナーが始まった。
冬の北海道はどうしても雪による交通への影響というリスクがあるけれど、それを覚悟してでも来る程度の魅力があるから、画面にはそんな北海道を楽しもうと多くの人が訪れる空港や駅の映像が流れている。
「すごい世界なのね」
日本に住む人々の見たことの無いような服装に、建物や乗り物などが映し出されて、クラウディアは驚くばかり。
動物の動画くらいしか見ないアンナマリーとは違って、クラウディアは研究者だけあって異文化がとても気になる様子。
この星の地図どころか北海道すら解っていないから、アナウンサーが何を言っているのか解らないけれど、とにかくここはどうなっているのか、知識欲が沸き立っている。
札幌の雪まつりはもう終わってしまったけれど、スキーはまだまだ本番。雪を見ながらの露天風呂も良い。香川県から来ましたと言う子供が雪ではしゃぐ場面も映し出された。
「我の店も内地からの客が増えておるのう」
「番組の影響ってあったんですか?」
あの回の伽里奈は画面内で見切れて映っていたり、フィーネに渡したお弁当が紹介されただけ。
「道民は皆知っておるからのう。あれは所詮戯れよ」
テレビ番組で紹介されなくても小樽の魔天龍は有名だから、どちらかというとフィーネの人となりが紹介された結果となった。
関東のU局で放送されるのも三ヶ月先で、ネットでの見逃し配信はあるけれど、道民と違ってどこまで見ているのかは解らない。
まあ小樽の魔天龍は内地でも有名なので、正直今更名前を売ることは期待していない。
だからフィーネのお店はいつも通りのペース。
あとは、霞沙羅と榊が出てくるので、視聴率では伸びたそうだ。
「小僧、今宵は我の大地の魔術を教えよう」
今日も変わらずにラーナンの星の事を「我の大地」呼ばわりだ。世界の事が解ってから聞くと、フィーネはそうとは解らないように、異世界という概念を否定していたんだなと思ってしまう。
さすがにわからないよねー。
結局フィーネから魔法を教わることになってからは、あのラーナンには行っていない。地球で色々あったのもあるけれど頼まれているわけだから、今度行く時のために料理を選んでおくとしよう。
「そうですか、じゃあお願いします」
「アリシアはクリスの世界の魔術が使えるの?」
「王者の錫杖を解析出来るくらいには、前の管理人さんに教えて貰ってるよ」
「あの子がどういう道を選ぶかは解らないけれど、帰ってきた時に魔術の話が出来るくらいには覚えたいの」
「ただ、アシルステラでヤマノワタイの魔法は普通の手段では使えないよ」
「それでもいいわ」
「そうだねー、じゃあちょっとずつやる?」
本棚にあった教科書は栗栖が持って帰ってしまったので、もうクラウディアの手元には無いけれど、アリサから教えて貰った時に自分でまとめたテキストがある。
伽里奈が教えれば、能力の高い魔術師であるクラウディアなら割と早く覚えることは出来るだろう、間違いなく栗栖より先に。でも何らかの形で栗栖とまた生活することになったなら、共通の話が出来ていいかなとは思う。
「時間がある時でいいわ。今日はそっちを優先して」
「そう? じゃあ準備だけしておくねー」
* * *
夜遅くの函館駅に、本州からの来訪者を運んできた列車がホームに入線してきた。
冬場にやっている駅前のイルミネーションも消灯し、食事が出来るようなお店の多くも閉まり、もう観光もあったものじゃない時間だというのに、新幹線経由でやって来た30人程度の乗客が降りてきて、駅舎から夜の函館の町に出ていった。
こんな時間の便しか指定席が取れなかったのだろうか。わざわざ夜も遅い便でやって来た乗客達は、路面電車もとっくに最終便が終わって、すっかり静かになった函館の町のどこかに散っていった。
この後、深夜帯に到着したフェリーからの客もいつもに比べて多くいるのだから、冬の北海道の魅力には恐ろしいモノがあるな。
と、これを見た地元民はそう思うだろう。
他に空路や、苫小牧や小樽に着くフェリーも連日満席に近い盛況だという。
東京ではまた新たな事件が起きているけれど、一般人はそんな事を知らなくて関係ないから、金星接近が終わった開放感から、残り少ない冬を楽しみに来ているのだろう。
一応、まだ金星の影響の警戒をしている駐屯地のパトロール達は、車両の中からそんな光景を見ていた。
彼らはどこに行くのだろうか。良い旅を。
そう思いながら車を走らせた。
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