そして英雄は帰る -5-
「王者の錫杖はこれで無効だよー」
降り注ぐ光の粒を見上げ、ステージ上にいるユリアンとオーレインは動揺を隠せない。ワグナール帝国が建国されてからのこの100年、ラシーン大陸の高名な神官や賢者達の誰一人、錫杖による洗脳が解けたことはなかった。この事実があるから、どんなにフラム王国が能力の高い人員を揃えようとも、モートレルにいる万を越える市民達はいつまでも人質としてあり続けるので、新たな帝国となったモートレルに攻め込むのは難しい状況だったのだ。
それが全て無かったことにされてしまった。
しかも妙な剣士とルビィによって、元々多いとは言えなかった旧帝国兵は大きく数を減らしてしまった。
だが残りの同志達はそれでも皇女、改め新皇帝を守ろうと、ステージ前で守りを固め始めた。
「アレを使いなさい。あの者達から貰ったモノが残されているでしょう」
「は、それでは」
「おう、死霊術だナ」
「おじさんがネクロマンサーだったのかー。よくもあの冒険者3人を騙してくれたね」
「新たな帝国の礎となるのだ。ユリアン様の為に命を捧げられて、むしろ喜んでいるだろう」
「そんなわけ無いじゃん」
オーレインが白い石を蒔き、持っていた杖を振り、使用した降霊魔法により、先日よりも多い80体程のスケルトンが登場した。
今回の触媒はあの白い石で補ったようだ。
「そういうのもういいからさー」
アリシアもめんどくさいので慈悲も何も無い魔剣の一振りで全てのスケルトンを破壊した。
「この程度ボクだって出来るってば。誰に貰ったのか知らないけど、そんなインチキな杖を使って魔力を底上げしなくってもねー」
「ではこれはどうだ」
今度はユリアンがウォーハンマーを手にして、反逆神レラの力を借りた殲滅用の雷撃を放った。だがそれ以上に雷撃が得意なルビィに障壁を張られ、あっさりと霧散した。
「レラの神官が使う、黒の神聖魔法なら何度も見ているゾ」
「くう、チビの英雄が生意気な」
ユリアンとオーレインには協力者から魔力を増幅する魔装具が与えられていたはずなのに、それでも2人の英雄にはまるで刃が立たない。
「オーレイン様、ここは退くべきかと」
退くと言ってもどうすればいいかは解らないが、周りを固めている、それなりにこの作戦の中心を務めていた男が耳打ちする。
「まだ手はある」
オーレインは懐から笛を取り出して、空に向かって吹いた。外の町を攻める際に使う予定だったが、完全に予定が狂った今ここで使うしかない。幸い、これの使用を阻んでいた結界はもう無い。
「町に多少の損害は出るが仕方ない」
「まだやるのー?」
遠くで竜が鳴いた。
「何か呼んだらしいナ」
「あらあら、もう終わった感じ?」
竜らしき物が飛んでくる前に、呼んでもないのにヒルダがやって来た。
「んーん、なんかワイバーンでも呼んだみたい」
笛から魔力が放出されたけれど、あの系統は竜を呼び寄せるモノだ。
「じゃあ私の出番ね。いいところに来たわ」
「くっ、ヒルダ、どこに隠れていたのだっ!」
お前など呼んでいないとばかりに、オーレインは叫ぶ。散々探していたのに、なぜ今更出てくるのか。
おまけにヒルダの強さの象徴でもある、巨大なバスタードソードを担いでいる。実物を見たことがない人間でも、あれがどういう威力なのかは有名な話だ。
山をも砕くと言われた豪剣ロックバスターだ。実際に魔女が作った砦や基地の防壁を幾つも破壊している。
「いい友達がいてね、そこにかくまって貰ってたのよ。王者の錫杖もそこまで効果が届かないから。そもそも私って強いから、あんな魔術は効きはしないんだけどね」
「人質になりそうな住民も撤去したし、解呪も終わったようだゾ」
「ルハードさん指揮下の騎士団もゾロゾロ入ってきてるだろうから、この馬鹿げた事件もそろそろ終わりかなー」
「何だと、こうなれば」
空から咆哮を上げて巨大なワイバーンが広場に舞い降りてきた。威嚇ついでに火炎弾を町にばら撒かれてしまったが、その半分くらいはルビィに打ち落とされた。
そこにトカゲ人間に導かれた外の騎士団が通りかかり、元領主のルハードと数名の騎士が隊列から別れてやって来た。
「すまない、ワイバーンに火炎弾を蒔かれるとは思わなかった」
洗脳が解けた、中の騎士団に事情を説明しに行っていたレイナードも現れ、どんどん状況が悪くなっていく。
「あんなの想定してないしね。ヒーちゃんの町だし、そっちで消火して貰える?」
「ええ、そのつもりよ」
「早く、ユリアン様」
新皇帝達がワイバーンの背中に乗ろうとしているので、ヒルダは満を持してロックバスターを一閃。魔剣によってブーストされた巨大な衝撃波が飛んでいき、ワイバーンの体を一撃で真っ二つにしてしまった。
「ひいっ!」
倒れてくるワイバーンの死体を避けきれず、何人かの残党が潰された。
「喧嘩を売っておいて逃げようとか、無いんじゃなくて? 死ぬ覚悟で来ているなら喧嘩は最後までやるべきでしょう」
死ぬ覚悟をもって来ている残党が一体何人いるのだろうか。そもそも王者の錫杖があったから勝ちが確定していたのに、それを無効化されてしまっては、たった60人、いや、今やその半分も残っていない残党ではどうにもならない。
「オーレイン、例の者を出し、あの英雄2人を黙らせるのだ」
「おい、あいつを呼べ、人が揃った今ならば丁度いい」
オーレインは一人の兵士に、役所の建物に待機させて置いた人物を呼ぶように指示した。、
「まだ何かいるの?」
そういえば情報を貰った偽アリシアさんがまだいないなと思った。果たしてニセモノさんはこの状況をひっくり返すことが出来る人物なのだろうか。
ただ裏にいる協力者さんが色々と武器や道具を供給しているようだから、油断はしない方がいい。
「ヒルダ様、状況はどうなってます?」
城壁からエリアスの転移でオリビア達も広場にやって来た。
「何か出てくるらしいのよ。それ待ち」
「そんな悠長な」
「ボクはあの連中の後ろにいる人が気になってね。その手がかりが掴めないかなって思ってるんだー」
「アリシア様まで」
英雄3人が何かを待っている様子なので、オリビアは呆れてしまう。ただ英雄3人が揃ってしまって、ここからどう逆転が出来るのか、それは気になる。
「ん、アリシアだと?」
オリビアが「アリシア」という名前を口にしたので、そんな人間がどこにいるんだ、とルハードが尋ねてくる。
娘の友人だが、3年間姿を見せていないし、先日も晩餐会には5人しか集まらなかったと聞いている。
「ここにいるじゃない」
事情を知っている人間が全員、アリシアその人を指さす。
「あ、その顔は」
「おじさん久しぶりー、何回か会ってるけど」
エプロンドレスを着た少女は確かに見覚えのある顔をしている。そもそも何度か一緒の戦場で戦った仲だ。その特徴的な姿は忘れようがない。
「いかにも武将っていうおじさんが今では孫にメロメロになるなんて思わなかったよ。お婿さんも立派な騎士になってるし、今は幸せだねー」
「お、おう、そうだな」
突然のカミングアウトだが、冒険者仲間だった娘が納得しているようなので、今はいいかとルハードは思う。
「誰か出てくるみたいだぞ」
役所の扉が開いて一人の剣士が出てきた。赤い髪をポニーテールにした可愛い少女だ。
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