トラブルの後始末 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
吉祥院の事を話していたら、クラウディアが温泉から出てくるよりも早くやどりぎ館に到着した。
「2月なのにこんな猛吹雪になるとは。北海道は恐ろしいでやんすな」
「2月は冬本番だぜ」
窓には風に乗って雪がぶつかってくる。清々しいほどの冬型の気圧配置で、寒波が来ているというし、今晩は相当の降雪になるだろう。
「神戸から研修に来た子達は大丈夫かなー」
朝になればおさまるらしいけれど、今は宿舎の中から雪の怖さを実感しているだろう。
「どこに配置されるかわかんねえんだから、将来に向けての勉強になるだろ。それでだ、エルフが泊まりに来ているから、そいつが風呂から出たらソファーに座ってろ」
「また久しぶりに驚かれるのでありんすな」
このところはテレビ出演が多かったので、会ったことのないテレビクルーからはその高すぎる身長に驚かれたけれど、実際のところ、バスケとかバレーボールをやっているような背の高い選手が現実にいるので、その驚き具合は全然違う。
「やっぱり大きいですねー」くらいで、初対面で腰を抜かすような大人は日本にはそこまでいない。
「モデル業界では評価が上がってるのよ」
「エリアス殿、なぜでやんす?」
「最近はあの化粧をやめて綺麗になったって事で、注目されてるのよ」
「そういや何でやめたんだ?」
「多分あれじゃないですか? 王都サイアンで、人を避難させる時に化粧落としましたよね。怖がられないように」
ただでさえ大きいのに、混乱している民衆をあの白塗りの化粧で更に驚かせるわけにもいかないので、急遽すっぴんになったのだが。
「それで評判が良かったからか?」
「子供も笑顔でお礼をしてましたしね。そうでしょう?」
「老人とか子供を怖がらせるのは良くないと思ったんだよ」
吉祥院は口調も変わって、そっぽを向いた。
ちょっと照れているようだ。
「特に髪が綺麗なのよね、吉祥院は」
「そういや広報から質問が来てたな。本人に直接聞けよな」
テレビ局では、世間的にかなりの権力と権威を持っている人間だという忖度から何も言われなかったけれど、その実、製作スタッフはテレビ映りが良くなったので胸をなで下ろしていたというのは秘密になっている。
「アイドルになる気はないよ」
「ならねえ方がいいぜ」
そんなこんなで吉祥院の外見に関する話をしていると、クラウディアが温泉からあがってきて、この談話スペースにやって来た。
「これで全員?」
「榊さんていう男性が一人、まだ温泉から出てきてないよ。それからランセル将軍の娘のアンナマリーがまだ帰ってきてないねー。あとこの…、この大きな人は住民じゃないよ」
大きな人、と言われてようやく、座っている吉祥院が立っている自分よりやや高い身長なことに気がついた。
立っていて背が高いエリアスがいるからそうは見えなかった。
「前に言ったと思うけど、この人がたまに学院に来る、この世界の英雄さんの一人だよ」
「エルフは2人目でありんすな」
「エミリアも驚いてたからねー」
「きょ、巨人じゃないの?」
「また言われたでありんす」
ただ化粧の関係で、今回は腰を抜かすほどには驚かれてはいない。やはり薄化粧にした効果は抜群だ。
「いつも話に出る巨人族ってのはどんな奴らだったんだ?」
「それは今度教えてあげるわ」
とっくに滅亡していて、残されているのは骨くらい。今のラシーン大陸では未確認生物として、実はどこそこの山の中に生きている、というような都市伝説があったりはするけれど、アリシアにしても巨人を再現しましたという人造人間とかゴーレムくらいしか見たことは無い。
正確な姿や生活は実際に彼らが存在した時代を見ているエリアスくらいしか説明は出来ない。
「ワタシも教えて欲しいモノでありんす」
確かに、それはこの事件が終わってからでいい。
「エルフよ、お主はこちらの大地で起きておる事件とは何の関係も無い。しばらくではあるが、遠慮せずゆるりと生活するが良いぞ」
ソファーの一番奥にいた、優雅に酒を飲んでいたフィーネが声をかけてきた。
結局まだ「こちらの大地」という言い方は続けたままだ。今なら、こういうことだったのか、と解る。神は、そんなわけ無いであろう、と解りづらい表現で言い続けていたのだ。
「え、ええ、そうさせていただきます」
「こんなしゃべりしてくるけど、この人いい人だから大丈夫だよー」
「エルフよ、お主は酒をたしなむか?」
食事前だというのに、温泉からあがったところで早速酒の話をしてきた。
「ウェルカムドリンクがクラフトビールとか無くないか?」
「何を見ておる、スパークリングワインじゃ」
よく見るとグラスの中で細かい泡が浮いている。かなりきめ細かい泡で、このワインはなかなかお高い感じがする。
これはかなり歓迎している証拠だ。
「ボクはそろそろ夕食を作りますね」
今日の夕飯はオムライス、ではなくて、金沢名物のハントンライスを中心にした洋食系だ。
クラウディアが住んでいた王都カーレーンは日常的にライスも食べる文化だし、特殊な食材は使っていないので大丈夫だろう。
伽里奈が厨房に向かうと、普段は落ち着いているクラウディアもぎこちない感じでグラスにスパークリングワインをついで貰いながら、癖の強そうなフィーネの対面に座っていた。
短期間の滞在とはいえ、ちゃんと人間に馴染もうとする考えをクラウディアは持っているので、エルフとしては変人なのだ。
そんなクラウディアを、霞沙羅達はお酒の話で迎えてくれた。
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