トラブルの後始末 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
栗栖は純凪夫妻に連れられてヤマノワタイの自宅に帰って行ってしまったので、その代わりに講義のアシスタントをしたアリシアは、放課後にクラウディアを連れてやどりぎ館に帰ってきた。
それとカナタ達は一旦、横浜の店舗に戻っていった。
「生徒は驚いていたわね」
生徒からしてみればまさかアリシアがアシスタントで講義に参加してくるとは思わなかった。クラウディアの講義を受けているのは学院でも成績優秀な生徒だけれど、今日だけとはいえ高位魔術師2人による
魔女戦争時の実体験を交えた講義は、とても充実していたと好評だった。
それを聞いた大賢者タウ達も、ついにアリシアがやる気になったのかと満足そうにしていた。
「まだラスタルには長くいるわけではないけれど、アリシアの講義も期待されているそうよ」
「いやまあでも、館の管理があるからねー。最近忘れられてるんだけど」
地球側の教育をラスタルに持っていきたいのはあるけれど、レギュラーの講義を受け持つというのはなかなか時間的に無理がある。
上層部相手に、時々研究物をプレゼンするのが今のところの限度だ。
小樽校の方では上手くいっているから、その逆も出来ると思うけれど、残念ながらそこまで時間が無い。
やどりぎ館に着いて、クラウディアもアリシアがなんで学院での講義を渋っているのかすぐに解った。
それほど大きくは無いながらも、下宿であるやどりぎ館は綺麗に保たれている。なぜかシスティーが手伝っているそうだけれど、この館はアリシアがきちんと手入れをしている事がすぐに推測できる。
それに住んでいるのもちょっと癖がありそうな人が含まれている。お世話は大変だろう。
こちらの国の英雄とも付き合いがあるので、最近はそれなりに時間を取られているから、ラスタルの方に行くのはなかなか難しくて、アンナマリーがいるモートレルが主になってしまう。
「お、この前のエルフじゃねえか。どうしたんだ?」
ちょうど霞沙羅が帰ってきていた。
「栗栖っていう子がいたじゃないですか。実はヤマノワタイノ出身で、自殺しようとしてたからカナタさんが怒ってアシルステラに置いてきてたんで、純凪さんが回収していって。それで寮で家事をしてくれる人がいなくなったから、急遽ここで預かることにしたんです」
「エルフは目立たないか?」
耳という見た目で明らかに普通の人間と違う部分がある。さすがに霞沙羅でもそれを誤魔化す魔工具は今のところ持っていない。
「やどりぎ館から出ないからいいと思うんですけど」
「まあそうか。これだもんな」
霞沙羅が窓の外を指さしたので、クラウディアが見ると、外は一面が真っ白の雪。
「え、どうなってるの?」
「外はこれから吹雪だって。ここは雪国だから、慣れてない人は出歩かない方がいいねー。アンナマリーも隣の家とか近くの店に誰かと行くくらいしかしないからねー」
ペンギンを見にちょっと遠出をするのはまた別の話で、最近はエリアスやシャーロットなんかと一緒にコンビニまでは行くようになった。
「何これ?」
長いこと住んでいるリバヒル王国は比較的温暖だから、こんなに雪が降り積もっている景色は見たことが無い。
「外はすごい寒いけど、家の中は大丈夫だよ」
確かに家の中は適温が保たれている。
窓は冷たいけれど、室内はどこ吹く風。
更に、外は風が出てきて、まだぼちぼち降っている雪が舞うようになって来た。
雪国に興味が出てちょっと外に出たくなっているクラウディアに宿泊部屋を案内して、荷物を置くなどして貰った。
「それで星堕の剣の対策はどうするんです?」
「純凪さんの名前を出したから上は納得はしたよ」
純凪夫妻も管理人時代には寺院庁と関係があったし、警察関係にも協力していたから、上層部は2人が何者か教えて貰っている。
それで、戦力として協力して貰う気は無いけれど、星堕の剣についての情報は、実際に同じモノとの戦闘を最前線で経験しているわけだから、提供して欲しいという要請は入った。
カナタ達については、その星堕の剣を追ってきて、破壊することを目的としているとだけ伝えてある。
いまだに信用できてはいないけれど、フィーネが止めようとしないので、裏切ることは無いのだろうと感じてはいる。
結局のところ、現在起きているこの事件だけの付き合いになるので、好き嫌いはあっても我慢すればいい。
とりあえず向こうも合わせてくれようとはしているので、この二週間程度ならばなんとか付き合えるだろう。
そんな話をしていると、荷物を置いたクラウディアが2階から降りてきた。
「ここにいる間は部屋は自分用にカスタマイズしてね」
多くの荷物は寮に置いてきてあるから、よく使う書籍や、何日か分の服と杖くらいしか持ってきていない。
それでも快適に住めるように、今日気になったことがあれば、明日持ってきて貰ってもいい。そう長い滞在にはならないけれど。
「温泉に入ってもいいの?」
「来る時に軽く説明したけど、夜間と清掃時間以外はいつでも入っていいよ。男女で浴室が分かれてるから間違えないでね」
「男湯はいま使ってるぞ」
「設備は私が説明するわ」
早速温泉に入るというクラウディアの為に、エリアスがタオルとバスローブを持って出てきて、設備の案内を含めて浴室に連れて行った。さすがにクラウディア相手には、女性であるエリアスがいい。
「それでこれからどうするんです?」
「明日から共通魔法とやらを、あの連中から教えて貰う。ただ、私と吉祥院だけな。フィーネのヤツが限定しろと言うんでな」
終わった後にどうするのかは解らないけれど、人から取り上げた魔法をまた返すような真似はしたくないだろう。
記憶を消すような真似はしないと思うけれど、知ってしまった人間を、あの女神はどうするのか、それは気になるけれど、今はそうでもしないと星堕の剣と融合しているカナタの両親には勝てそうに無い。
これは地球のため。
とにかく、何をしてくるのか解らないという不利に対応するしか手は無い。
大きな事件が終わったすぐ後だというのに、なぜかまた霞沙羅達が中心部に突撃することになっているけれど、やらなければならないだろう。
「これが終わったら、水瀬家とやらの鍛冶を見てみたいがな」
「鍛冶の技術はモガミさんも認めてますからね」
星堕の剣と最前線で戦った人間が認める魔装具とは、どういった出来なのだろうか。それは伽里奈も気になる。
そこにシャーロットが帰ってきた。近いからと吹雪になる前に、コンビニに行っていたので、ドアの前ではらいはしたけれど、もう雪まみれになってしまっている。
「大変な事になってるのね」
「関東だけな。まあこの館に関わっているし、しばらくヤマノワタイの連中がうろつくことになるから事情は説明する」
星がどうとか、共通魔法とかはさすがに内緒にする。
「あと、しばらくだけどボクの友達のエルフが住むことになったから」
「え、エルフ?」
「ボクの世界にいるから。前に話題にしたことがあったと思うけど」
「エルフって寿命が長くて耳が長いあれ?」
「そのエルフだぜ。性格は良いやつだから安心して良いぞ。私は残念だが」
「えー、えー」
あらどうしましょ、とシャーロットはウロウロし始めた。異世界人は人間だけれど、エルフとなるとまた別だ。
でもまあ魔術師としては、会ってみたい相手だ。
「エルフは主神じゃなくて、その内の芸術神の眷属が作った人間だから。妖精とかそういうのじゃないのよ」
そのエルフにお風呂の説明を終えたエリアスが帰ってきた。
「生まれたルーツがちょっと違うボクらとエルフだけど、寿命はともかく人間と同じだよ」
「そういやあいつにはまだ吉祥院を見せていないな」
「そういえばそうでしたね」
吉祥院はモートレルには来るけれど、最近はラスタルには行っていないから、クラウディアと会う機会が無かった。
「この後来るの?」
「3人で今後の会議をするからな」
「でも変な化粧をしなくなったからまだマシじゃないですかねー」
アンナマリーの時は白塗りだったからかなり驚かれたけれど、今の薄化粧の吉祥院なら腰を抜かすほどでは無いだろう。
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