彼方から襲来したモノ -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「お前は悩んでないな」
異世界人だからか、大きな組織を背負っていないからか、伽里奈の方はここまで話しを聞いて、力を借りようか、というような顔をしている。
「いやー、ヒーちゃんの事を考えると腹立たしいんですけど、解決しちゃいましたし、帝国残党は処刑されましたし」
「それでいいのか?」
「ボクって自分を優先してここにいるじゃないですか。いい加減なのか、冷たいのかもしれないですけど、まあ人の命が軽い世界の出身でもありますし。何よりフィーネさんがこの3人を生かしているから、必要だと思ってるんじゃないですかねー」
「我は他の星に大きく干渉する気は無いが、使えるモノは使う考えじゃ。多くは語らぬが、こやつらがダメだと判断しておったら、我の大地に来た時点でとっくに消しておる」
確かにフィーネであれば軽い。利用価値があるか、後々の地球にとって真の悪ではないという判断から追っ払うだけで済ませたのだ。
「純凪さんはどうするつもりだ?」
「カナタ君達がヤマノワタイで何かをしでかしたワケではないから何も出来ないが、終われば一応話は聞かせて貰うし、しばらく監視くらいはつけるだろうよ」
純凪夫妻は、技術力ではカナタを信用しているし、本当の悪であればこの6年で行く先々にある多くの国が滅びるような事にもなっているだろうと思っている。地球にやって来た星堕の剣も止めているワケで、両親の所業を止めようとしていることに嘘は無いと判断している。
「カナタちゃん、星堕の剣はともかく、あなたの両親を分離することは出来ないの?」
「それも研究しましたけどねえ、生物的に一つになったアレを分離出来そうな手段はありませんでしたね。アリシアでしたか、そちらは神降ろしの杖で取り込まれた人間を分離したようですが、あれは一時的に人の存在を支柱にして実体化させているだけですから。解りますよね、本来の神降ろしは?」
「本来は、短時間だけ神様の力の一部を高位の神官に降ろすんですが、人間にはさすがに負担が大きくて魔法が終了すると、相当鍛えておかないと死ぬんですけどね」
「まあ分離が前提の魔法なわけです。降ろした相手が神とは違って格下なので、杖が犠牲になって、人は死ぬことは無い設計でしたが、途中で倒されてしまいましたしね。霞沙羅さんは幻想獣と融合する魔工具を見ましたね? 先日の白い幻想獣も同様ですが自分の希望で取り込まれにいった人間も、命が終われば残らず灰になりましたね? ダメなんですよ、あれと同じで戻せないんですね」
なんだかんだで両親を引きずり出そうという考えは持っていたようだ。それが星堕の剣の力を削ぐためなのか、親に対する情けなのかは解らないけれど。
「キミはそこまでやっていたのか」
カナタの6年の旅が遊びでは無い事は解った。
良いのか悪いのか、まだ判断は出来ないけれど、カナタの行動は全部このゴールに向かっていたとは恐れ入る。
「それでお前はどうするんだ?」
霞沙羅としては何をしたくて、今日こうやって接触して来たのかを知りたい。
「協力しますよ。あなた方軍隊はアレを破壊しますものね」
元はといえば…、星堕の剣がここに来たのは…、別にカナタが悪いわけでは無い。
厄災戦後に残ったマリネイラの力を利用してここまで来た、という事は、そもそもの原因を作った、金星の虜の凶行を止められなかった方にも、一応は、責任の一旦はあるかもしれない。
「どういう協力をするんだ?」
まずはそこだ。協力する、という言葉はおかしいが、どう考えても3人ではどうにもならないからこうやって接触して来たわけだ。
「星堕の剣に関するデータを提供しますし、あなた方にだけ共通魔法を教えますよ。使う必要は無いですが、使えるようにしておかないと両親に対して不利ですからね」
「使わなくていいのか?」
「上も下も無いのじゃよ。今、星によって魔術が違う理由はここのような館を運営する際に、館を介して星間移動をした人間が、その先で悪さができんように処置したまでじゃ。一つの星に生きる人間は、生まれた星に紐付いた魔術に支配されるようにした。お主らのように何らかのアイテムを経由して他の星の魔法を使用する者は少なからずおるのだが、その先にある土地の魔術を覚える必要がある上に専用の発動体も必要という条件で、それは許した。共通魔法は上位でも何でも無い。誰でもどの星でも使えるというだけじゃ」
単純に使用制限があるかないかの差しか無い。威力は全く変わらない。
「言葉はなぜ共通なんだ?」
「あれは逆じゃ。元々は星によって、国によっても違っておったが、館を始める際に全て共通とした。ただ長い歴史が邪魔してのう、単語や物の名前、地名や人名など、地域によってローカル色のある言葉が方言としては残ってしまっておるがな」
「なんで館なんか始めたんです?」
伽里奈が管理人を始める時に受けた説明としては、「夢や希望を持つ者や、疲れた者が癒しを求めて一時的に滞在する舘」と聞かされているけれど、そもそもなぜ異星間をつなげているのだろうか。
「本来は、アリシアと霞沙羅、お主らのようにそれぞれの星の良いところ、悪いところを学び、各々が生まれた星に反映させる為じゃ。我々が、妙な事はすまい、という人間を選び、良き文化を移動させ、その駄賃としてその者が持つ夢や目標の達成や休暇の手伝いをする。その為じゃよ」
「ボクのやった事って、正解だったんですか?」
「そうじゃよ。我らが見た中で小僧が一番、館の本来の役割に沿った使い方をしておる。我が星の事でお主に頼み事をしたのは、余計なことはせんだろうと判断したからじゃ。霞沙羅もそうじゃな、お主の知識と技術はアシルステラの人間に良い影響を与えておる。温泉の件はギャバンめが霞沙羅に取り扱いを任せたのじゃ。先日の音楽の件もな」
影響は小さくていい。それでもそれなりに影響力があったり、そのうち影響力を持つだろう人間が一人くらい、他の星の良い文化を持って帰ればいい。そういう場所として、神々が作り出した場所。それがこの館。
「よもや人間ごときが星間移動まで行うとは思わなんだが。カナタよ、お主の親はなぜこのようなことを企てたのじゃ?」
「先程も言いましたが、優秀すぎる娘への一方的な嫉妬心ですわ。自分たちが先に共通魔法を見つけ、この宇宙に異世界など無い事を証明したかっただけですよ。ただ、人の力だけでは星間移動は無理なので、星堕の剣を利用したわけです。彼らは何も残していかなかったので、私はそれを追うのに6年もかかっているのですよ」
「こいつの親、最悪だな」
「私も、親よりは優秀と言われているダスが、それで恨まれることは無いでありんすよ」
「分家として150年もやってますが、それぞれの代の善し悪しはあれど、子孫に技術を残すのを使命としているのですが、それを理解出来なかったのですね。私よりはダメですが、少なくともアオイやあなた方くらいの能力はあるのですから、多くの人類から見れば優秀ではあるのです。これを何度も言ったのですがね」
「それが悪かったのよね、カナタの親は」
「私であっても、何十年か前を歩く彼らから学ぶことは残っていると思ったのですが、それを子供に諭されるのも気に食わなかったようですの」
「まあ、彼ら、と言っている時点で、カナタはもう両親のことを諦めているんだ」
ソウヤはこの両親のことを知らないけれど、ここ何年もカナタを見てきたから、一応ヤマノワタイに連れ帰ろうという気持ちを持ちながらも、主には倒す準備をして来たのを見ている。
「補足ありがとうですわ。そんな感じですね。私も色々と迷惑をかけていますが、星堕の剣の破壊は全力でやりますわ。ヤマノワタイの人間が誰も見ていないとはいえ、我が家の恥ですから」
「お前からの見返りはあるのか?」
勝手に人死にが出るような実験をされて、さらに軍隊までも利用しようというのだ。
「誰かが気がついていると思いますが、人が住めなくなった旧23区に残されているマリネイラの魔力を、全部の除去までは無理ですが、大きく消費させていますでしょう? 現在使用している足止め魔法はさらに十数年分の魔力を消費します。アリシア君はその目で見たと思いますが、私は暗黒系の神聖魔法にも精通していますから、その応用で無理矢理マリネイラの魔力を使用しています。金星の虜に頼んでもそんな事はやってはくれないので、日本政府にはいい手土産でしょう?」
ただ無くなるのを待つよりも、無理矢理使った分だけ復興が早くなる、という話だ。
「先日の上野の事件ははどうやってやったのでありんすか?」
「厄災戦の時のように大勢のお馬鹿さん達が犠牲になってマリネイラに呼びかけたのでは無く、ある一定の場にある魔力をひとまとめにして幻想獣に渡しただけですよ。対応困難な大事にはならないと計算した量だけ。あの仮面達は実際大した役には立っていないのですが、取り込む際の触媒として利用させて貰いましたわ」
「この前のは私らが討伐までやらされたわけだが」
「そこまでマリネイラの力を自由に扱えるのは、すごい技術でヤンスよ」
「我が家は誰にでも魔工具なりを作りますから、良いも悪いも技術はあります。それだけ本気だったと思ってくださいな。それにしてもやけに上手くいきましたわね、組織の壊滅はあの杯にやらせる予定だったのですが」
狂信者達をたきつけて、幻想獣のパワーアップのため、と大勢を巻き込む予定だったのだが、想定していたほど多くの人間が集まることはなかった。
「この英雄様が色々と作戦の妨害をしてくれたおかげで、「安らぎの園」を追い詰める結果になったんだよ」
最初にシールの存在に気がつく事になったから、それが鍵になって、伽里奈が第一弾の襲撃を止めて、更にその後の情報が入手できた。
事件とは全然関係ない技術提供が捕縛用の罠になったり、悪意の無い暴言に狂信者の協力者が引っかかったり意図していない事態も招いたけれど、伽里奈の影響力は大きかった。
「あのシールは何に使うんだ?」
「一般兵が星堕の剣と戦うための物ですよ。本物は長時間戦えるようにマイルドな調整をしているわけですが…、よくあのシールを手に入れた上に、中身まで解析しましたね」
弱点がばれていたから、上野でシールを使った信者達からの被害が一切出なかった。
事件後の報道を通じて戦い方がおかしい事が解ったから、もしやと思ったのだが。
「それもこの英雄様だよ。偶然とは言え時間制のあのシールを長時間保存したのもあるが、別件で未使用品も回収できて、刻まれた人格データをゴーレムの技術で読み取ったんだよ」
「純凪さんもいたので」
「アリシア君は魔術の使い方が上手でありんすから」
「大したモノですわね。言っては何ですが、あまり優秀そうには見えないのですが?」
「そうそう。私と互角に斬り合うから驚いたわよ」
伽里奈は見た目に背は高くないし、体格が優れているわけでは無い。正直あまり頭脳がキレそうな顔もしていない。
それがすすきのの時には、カナタの育てたアオイと互角に剣を合わせられるし、突然の襲撃でよく解らないことだらけの状態でとても冷静な対応だった。
「神々による文明のちゃぶ台返しを防いだ、惑星アシルステラ初めての人間じゃ。こやつは持っておるのじゃよ」
「私を連れ去ったくらいだもの」
「創造物とはいえ、眷属神をですの? だから運営とは無関係な、余所の女神がこんなところにいるのですか」
カナタも神に手をつけた人間は初めて見た。そんなのは物語か、伝説になるほど昔の人物くらいだ。
厚かましいのかいい加減なのか真面目なのか一体どれだ。
「まだ色々と話をしたいところですが、時間がありませんね。まずは概要をお渡ししますので、よろしければ動いていただいてくださいな」
「なんか偉そうだな」
「まあそう言わず」
カナタからは用意されていた星堕の剣との戦いに関するデータをもらい、融合している両親対策の共通魔法を教わりつつ、妨害用の魔工具と、戦力増強のためのシールと戦闘用の魔装具が提供されることになる。
純凪さんは、日本側にまだ存在する人脈を使って、カナタ達を受け入れさせる必要がある。
即決してくれればいいけれど、国という巨大な組織故の遅さが出るかもしれない。
だから時間があるとは思わない方がいいだろう。
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