彼方から襲来したモノ -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「話しを続けますが、最初に確信にたどり着いたのは、私の母親ですね。共通魔法と名付けた、どの星に行っても使用出来る、この全宇宙共通の、人間から隠された魔法の存在にたどり着きましたわ」
「世紀の大発見なのに発表はしていないのね?」
水瀬の一族は、特にカナタはヤマノワタイで色々と魔術関連の論文を発表しているけれど、今のところこの辺のモノは、推測も含めて一切出てきていない。アリサも水瀬家の論文にはとても興味があるので、その殆どは知っている。
「それが出来ない事にも気がついたんですよね。神から補足が入ると思いますが、ただ人から聞いただけでは知る事は出来ないという知識のプロテクトがかかっていますの」
「よく解っておる。何者も理解出来んようにしておる。考えにすら至ることはあるまい」
フィーネにしても、神々が仕込んだプロテクトを乗り越えてここまでの事実にたどり着いた人間がいた事には素直に関心するしかない。
霞沙羅や吉祥院、伽里奈のような幾つかの世界…、星の魔術を極めたと言ってもいい才能を持ってしても、「異世界の魔法」という固定観念を破る事は出来なかった。
星をまたいで共通の文化がある話しをすることはあったが、結局館を経由したのだろう、という所で止まっていたいたくらいだ。
それを150年を使い、何代かの世代を重ねたとはいえ、水瀬家の所業は相当なものだ。
「ここからが我が家の問題で、私は間違いなく本家を含めた歴代の後継者の中で最高の魔術師ですわ。それが母親にとっては気に食わなかったんですの。第9次堕星戦乱を終わらせた聖法器は私が作ったモノですからね。あの時使用された魔装具などの多くが戦いの中で壊れてしまいましたが、純凪さん達、最前線で戦った人達の手に渡った魔装具にも私の制作物が入っています」
カナタのかなり強気の発言だけれど、純凪夫妻はそれを否定する気は無い。
「そうだったな。オレのは壊れてしまったが、最後の一撃までは耐えたからな。まだ10歳にも満たない子供が作った魔装具だと知った時には驚いたモノだった」
「すごい人だったのでありんすな」
それは自分でもかなわないはずだ、と吉祥院も理解した。
「6歳で大学を卒業した時点で、両親とは会話すら無くなりましたからね。それからですの、あの2人が家業を捨てて他の星に頻繁に行くようになったのは。間違いなく共通魔法を見つけるための行動でしたわ」
「それであなたのご両親の武器が政府に来る事は無かったのね?」
「代わりに私が、お爺様と製造したんですよ。でもそれも悪かった。結果を出してしまいましたからね」
表に出るような仕事では無かったにせよ、出来の良すぎる娘が偉業を成してしまったので、両親は更におかしくなった。
「まあ討伐する際に星雫の剣が一体消滅しましたので、私の聖法器だけの手柄ではありませんわ。と、そんな話が通じることは無く、あの両親はそれから狂ったように星を回り続け、6年前に共通魔法を作りあげて、私に当てつけるように、星堕の剣の力を借りて、星間転移を実施したわけですの」
当時は共通魔法を理解出来なかったけれど、カナタは両親が使用した共通魔法の魔術基盤を記憶していた。それを解析した結果、転移先の座標が新宿であると特定できるまでは、時間がかかった。
「それがあの岩か。なんでここなんだよ?」
「6年、もうすぐ7年前になりますか、新宿があの状態になったのは?」
「厄災戦が終わったからな」
「館から行ける星にしか座標を設定できないと踏んで、私もどこに来るのか探し回りましたが、マリネイラの力に目をつけたのですよ。少し前にようやく、頭に記憶していた星間転移魔法を完全に理解したのですが、アレを目印に目的地設定をしていましたわ。あの濃い魔力が誤魔化してくれてましたが、目標地点として転移魔術を引っ張るための魔工具までもが置かれてましたよ」
「厄災戦が終わって誰も入れないから仕掛けたのか?」
「でしょうね」
「迷惑な連中だな」
「そんなわけで、私の最終目的は星堕の剣ごと両親を葬り去ることですわ。我が家の恥ですからね。まあ向こうも私が追ってくることは予想しているでしょうしね」
出来の良い娘が先回りしていることを予想していたかは解らないけれど。
「結局、ボクの世界っていうか、星とか、この地球で悪事を働いたのってどういう意味なの?」
「共通魔法にたどり着くためですわ。その為には各地の魔術を極めて対比しないといけない。ですがその為には研究を、魔術を使う機会を作らないといけない。その為に、力を欲している、悪事を行うであろう小悪党を、私の技術で釣って表舞台にに引っ張り出していたわけですの。悪を心に抱える人間ほど力を求めますからね。必中とまでは行きませんでしたが、かなり高確率で引っかかりましたね。ちょっと力を与えれば上手くいくと思うモノですよ、ああいうのは」
そんな理由でか、と伽里奈も霞沙羅も呆れてしまう。
「私も自分を正義の人などとは思っていませんよ。ですがまあその社会には実験をさせて貰った見返りとして、成功しないようにしていましたわ。いけると思わせておいて、頃合いに手を引いたり、中途半端な
状態で魔工具を手渡したりね」
しかもひとたび離れてしまうと、カナタ達のことを思い出せなくなるような魔工具を使用していたから、助けを求めることも出来なくなる。
でも一度動き出してしまってはもう引き返すことも出来ない。あとは坂道を転がり落ちるだけ。
「とはいえ色々と準備をしたラスタルの事件が一晩で解決したのには驚きましたけどね。それも今なら納得出来ますが」
まさか町の中に館の出入り口があるとは思ってもいなかった。
しかも出入りしているのは地元民ということで、文明のズレを感じさせるような目立つ行動もしないから、予定していない異変に気がつくことはなかった。更に領主の友人だから、途中で味方につくし、動きも慎重でありながら迅速だった。
更に、最終的には本物の神が出てきてしまってはどうにもならない。
「先程も疑問に答えましたが、王者の錫杖と呼ぶのでしたか? 曾曾お婆さまが作ったあの錫杖を魔力チャージもしないで渡したのはそういうことですよ。先日も杯用の宝物を連中に集めさせたのも、どこかでミスを誘発させるため。彼らが上野に向かう事を通報したのも私ですしね」
最初からずっと疑問だった。
どうしてあれだけの技術を持ちながら最後まで付き合わないのか、というのはやはりわざと失敗させる為だった。
大小はあれど、市中に隠れた危険人物をその気にさせて、ついでに魔術の研究をして、事件に対応する組織には何かが起きそうだと事前に感づかせるようにして、力を貸すフリをしているので結局成功するようにはなっていない。
「だからといって私は正義を語る気は無いですが」
大きなところでは帝国残党や「安らぎの園」はいつかはどこかで大きな騒動を起こしただろう。小さいところでは辻斬り志望なんてものもあった。
現地人には一応迷惑をかけるわけだから、じゃあ社会に迷惑をかけようとする人間達に目をつけはするけれど、動き出したタイミングで負けるように突き放す。予防接種のように。
「人間の邪心を利用させて貰いましたよ」
「くそ、こいつをどう処理すればいいのか解らん」
正義では無いが、悪を望んでもいない。ただ自分の目的を果たすために、周囲の犠牲を考えずに突き進んできたような相手だ。
しかし、このカナタがいなければ新宿に現れた星堕の剣は地球人の手ではどうにも出来そうにない。
星堕の剣との戦闘経験もあって、それに対処した魔工具も魔装具も聖法器も製作が可能というだけあって、早速一時的な活動停止に追い込んでいる。
カナタが言う「共通魔法」はこれまでの経験からすると、いや実際に、霞沙羅や吉祥院であってもどんな魔法なのか理解出来ないので、対処が出来ない。
でもカナタの両親は地球の魔術が解っているので対処が出来てしまう。
文明レベルもヤマノワタイが未来を行っていて、兵器の類いへの知識もあるだろう。
まあこの館には星堕の剣に勝てる存在がいるけれど、地球の神々のテリトリーを侵すことは控えているので、よほど自分に影響が出ない限りは動くことは無いから、計算に入れてはいけない。
霞沙羅としては、この水瀬カナタの力を借りないと、話によればその範囲は旧23区どころでは無く、最低でも関東地方は支配されてしまうという。
ヤマノワタイがそうであるように、時間をかければ勝てるかもしれないけれど、どれだけかかるのか、それまでにどれだけの被害や犠牲が出るのか。
厄災戦後には地方へ逃げた為に、東京圏一極集中から人口の分散が進んだとはいえ、関東にはまだ二千万人以上が住んでいる。
どの程度の速度で侵食してくるのかは解らないけれど、当然のように直接の攻撃もある。これだけの人口を短期間で他の地方に待避させるのは無理だ。これまでのカナタの所業もあるから、どう扱うべきかは悩んでしまう。
さてどうするべきか。
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