彼方から襲来したモノ -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
水瀬カナタからの「私は宇宙人です」的な発言を受けて、霞沙羅達は呆れてしまった。
…のだが
「人間はそれを知る事は無いと聞いていたが、よく気がついたもんだわい」
先程から話が通じている空霜だけはその発言に感心していた。
「いいですの、異世界などというモノはありませんの。我が一族はそれの探求に100年以上かけましたからね。最初に確信にたどり着いたのは、あの中にいる私の母ですが」
あの中、カナタはまた岩を指さした。
「そのせいもあって、アレはヤマノワタイからこの地球にたどり着いたのですよ。私への当てつけで」
「空霜、キミは何を知っているんだ?」
長いこと吉祥院の家にいた空霜の前で何度も異世界がどうとか、皆が口にしていたし、伽里奈もルビィもこっちにいるのに異世界という話しを否定するようなことは無かった。
「もうこの人間から聞いたからには言わせて貰う。皆が異世界と呼ぶ場所は、他の惑星だ」
「お前、これまで一言も言った事はないだろ」
「ウチは異世界という言葉を口にした覚えは無いのだな」
そういえば空霜は異世界という単語を口にしたという記憶は無い。それに自分達だけでなくシスティーに対しても、いつもなんか妙な言い回しをしていた。
それとなぜ、星雫の剣という単語と存在がアシルステラやヤマノワタイにもあるのか、なんとなく合点がついてきた。
「言うなと言われているし、無いモノは無いのである。ではそこの人間、どうしてそれを知ったのかや?」
「ヤマノワタイにある我が家の敷地内には廃墟になった館がありまして、住居としての機能は無いにせよ、扉には幾つかの移動先の記憶が残されておりまして、土地を買った先祖は異世界だと思ったそうなのですが、ある時におかしな事に気がついたのですね」
「どういう事だ?」
「それはあとで説明しますわ。やはりというか星堕の剣が長い空間転移から目覚めそうですので、もう少し寝て貰いますの」
岩の方から魔力が高まり、軽い地鳴りのようなものがし始める。何かが目覚めるかのようだ。
「星堕の剣は落ちた星の一部を自分のモノとして、支配しようとしますので、今のうちに活動を一時的に止めます。空霜とか言いましたわね、広範囲に魔法を使用しますので、ちょっと上空まで運んでくださいな」
「おい、人のものでありんすよ」
よそ者のカナタが勝手に空霜を使って話を進めていこうとするので、吉祥院も抗議をするけれど
「あまり時間も無いのですよ。もうゆっくりと支配が始まっていますわ」
「全世界を、てワケにはいかないけど、この関東一帯くらいは軽く支配権に置いちゃうわよ。速度はそんなに早くは無いけど、後で戦うことを考えれば支配圏は狭い方がいいわ」
カナタだけでなく、隣にいるアオイも状況説明をして来る。
ただ、今の霞沙羅達には何も解らないし、その星堕の剣とやらの特性が本当だとすると、今後の対策に支障が出かねない。
もうちょっと純凪さんに聞いておけば良かった。ただ、ヤマノワタイが平和になってしまってあの夫婦が助けを求めていなかったので、昔話程度にしか聞いていなかったのもある。
「…空霜、しゃーない」
仕方がないので、吉祥院達は空霜に気絶した観測員達も乗せて、新宿上空に飛び上がる。
よく見ると眼下にある岩のすぐ足下から、いつの間にか建物の残骸が消えていき、草原が少しずつ広がっているのが確認出来た。
距離的にはまだ10メートルくらい。
「あれがか?」
「星のなり損ないと言いましたが、まさにその通りで、遙か昔にヤマノワタイが出来る際に取り残されて、長年アステロイドベルトを漂っている意思とでもいいましょうか、星雫の剣とは似て非なるモノといいましょうか」
「ウチらは宇宙を旅する彗星だわよ」
カナタはどこから取り出したのか、180近い本人の身の丈ほどもある木の板をいくつも上空に放り投げると
「[未だ微睡みの中]」
カナタは霞沙羅にも吉祥院にもどういう効果か解らない魔術のようなモノを発動させると、放り投げた板に打ち込む。
その板はカナタの予定した、新宿周辺の場所に飛んでいき地面に刺さった。
そこにアオイが上空に一本の杖を投げて
「[願適廻玉枝]」
と叫ぶと杖から枝のように魔術基板が広がっていき、それぞれの先端が木の板に到達すると、巨大な結界が形成されて星堕の剣と呼ばれた岩を包み込んだ。
「これでしばらくは動きが止まりますわ」
カナタが言ったとおり、結界に包まれてから草原の拡大が止まっている。
「周囲にあるマリネイラの力を転用していますわ。とはいえある程度の濃度以下になると星堕の剣からの干渉に負けて結界が崩壊してしまいますが、計算的には半月程度は保つでしょうね」
「な、何の魔法だ?」
見た事の無い術式だし、ヤマノワタイやアシルステラの魔術も広く知る霞沙羅と吉祥院にも何が起きているのか解らない。知っているどれとも共通しない魔法だ。
「あとで説明しますが、この魔法の存在が異世界が無い事の証明ですよ。我が一族は共通魔法という名称で研究をしてきましたの」
「これが解らないと、あの中にいるおばさん達に対抗できないのよ」
とにかく星堕の剣と言われた岩の動きは止まった、というか、一時停止状態になっている。
「一つ訊きますが、館にはアシルステラの英雄が住んでいますわね? この間、二子玉川で幻想獣を止めたという」
「ああ、管理人としているぞ。お前は半年前に起きたモートレル占領事件の後ろにいた奴なんだろう? あいつの知り合いと入居者が巻き込まれているから、かなり険悪になるぜ」
正直霞沙羅も散々引っ掻き回された相手だから、ようやく目の前に現れた水瀬カナタを殴りたいところだけれど、案外冷静に受け止めている状態だ。
「その辺りの説明もしますわ。ただ喝采の錫杖を作った曾曾お婆さまの件は、完全な悪意なんですけどね」
「喝采の錫杖?」
「そういう名称だったのですが、例の皇帝が王者の錫杖と呼んだそうですわね」
「そうなるとカナタ氏に悪意は無かったと?」
「本気の悪意があれば魔力を満タンにして渡してますわよ」
王者の錫杖はその能力を発揮するためには数十年単位のチャージが必要な作りだけれど、一つの地方都市の一部を覆う程度の、とても中途半端な状態で手渡されている事に疑問を覚えていた。
なるほど、わざと補充しなかったのか。
では、ある仮説が成り立ってくる。
「俺にはこの話は魔術的な解らないが、軍人としてはとりあえずこの5人をどこかに預けるのが先決だろう」
榊は霞沙羅達に会話を任せていたけれど、とりあえずはこの気絶している観測員を、一応無事かどうか確認しないといけない。
しかしそれだとこの3人を軍まで連れて行くことになってしまう。
この状況を説明して貰うために、いつかは連れて行かなければならないけれど、異世界だの異星人だのの部分がはっきりしない状態では、どう扱えばいいのか解らない。
とにかくワンクッション置きたいところだ。
「霞沙羅達はその兵を置いてくるがよい。この来訪者共は我が預かろう」
空を飛ぶ空霜の上にフィーネが現れた。
地球で起きている事件の現場に現れる事は非常に珍しい。
「ラーナンの邪龍神、ネルフィナ!」
まさかの相手の登場に今まで飄々としていたカナタが狼狽えた。
「ほう、いつぞやの小さき冒険者共ではないか。ヤマノワタイの神々より聞いておったがついにここまでたどり着いたか。その偉業を褒めてやろう」
「お前ら、こいつを知っているのか?」
確かにこれまで色々な世界ならぬ星を訪れていたのなら、可能性としてはフィーネの星、ラーナンに行っていることもあるだろうけれど、果たして神であるフィーネと直接会うようなことがあるのだろうか?
「ええ、まあ」
「こんなのまでいるの? 星が違うでしょ」
「…」
カナタ達3人はちょっと腰が引けている。
これは以前に一悶着あったのだろう。
なにせフィーネは神でありながら結構人間の社会に干渉していると聞いている。
大方、事件を起こそうとしたところを見つかったのだろう。そうなるとどう頑張っても人間に勝ち目は無い。
「以前我の大地にこの異郷人共がうろついておったのでな、追い払ってやったわ。我が預かる、という意味はお主らにはわかるであろう。霞沙羅の方はその兵を置いてやどりぎ館に来るがよい。もう既に純凪の2人を呼んでおる」
そう言うとフィーネはカナタ達を連れて消えてしまった。
「あまり余裕は無いようだわい」
空霜的にも早くしたほうがいいと。勝手に新丸子の方向に移動を始めた。
「以前からあの邪龍神の台詞もおかしかったんだな」
何せいつもあの不遜な口調だったのでその言い回しをいちいち気にしていなかったのだけれど、今ので明確に解った。
確かにフィーネは自分たちに対しては「異世界」という単語を口にした事は無かった。今も言ったけれど「異郷」という言葉をよく使っていた。
結局自分たちには解らないように話を合わせていたのだ。神の奇跡を使って気がつかれないようにしていたのかもしれないが、ああやって隠していたわけだ。
「まあとにかく話しを聞くべきだな」
「魔術を知らない榊が羨ましいでありんす」
魔術師2人にとっては結構衝撃的な展開だったのに、榊は冷静なままだ。
当然無関係だとは思っていないけれど、ここにいる人物達の話しを余計なフィルターを通さずに、ありのままとして聞いていただけだ。
それよりも軍の人間としては、まずは怪我人の救助を優先することにして、観測所に撤退していった。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。