遠くの場所から来た女 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
日本では何かが起きようとしている中、アリシアは大豆ソースの件でラスタルに来ていた。
鎮魂の儀から帰ったレオナルド将軍が、早速マーロン国王に報告すると、大豆ソースをベースにしたステーキソースを実食したハルキスにも意見を聞いたり、ロビンから話があった天つゆの件を総合して、じゃあ一度食べてみよう、と声がかかった。
それとは別に、先日の魔獣騒動でレオナルドが見た『気』について、ランセル将軍とジェラルド将軍も興味を示した。
だから今アリシアから伝授が進んでいるハルキス達にどこまで進んでいるのか見せて貰う事にもなった。
「先生は仕事なのか」
「なんかねー、やっとゆっくり出来そうになったんだけど、また首都の方に行っちゃった」
霞沙羅は何が起きたのかまではアリシアに伝えていない。そもそも本人が何も解ってないから言えなかったのだけれど。
場所はラスタルの中にある騎士団の鍛錬スペースだ。そこには現在途中まで鍛錬を行っているハルキスとヒルダとイリーナと、天ぷらが食べたいライアもやってきた。
「ウチの娘もいるようだが」
こんな話の場だけれどアンナマリーもついてきているから、「まさかウチの娘が?」と父親のランセルもちょっと期待してしまう。
「アンナマリーにも教えているので、他の人のを見て貰った方がイメージしやすいかなって思いまして」
あと、醤油にも慣れている。
「アリシア君はウチの娘にも教えているのか?」
娘も色々やっているのだなと、魔法の事といいやっぱりアリシア君の所で預かって貰って良かった。
「あの、私はまだ全然なんですけど」
毎日短時間とはいえ、気を練るという事は続けて貰っている。
今では数分長くして、本人も飽きずに続けているので、技に転化できるほどの量の『気』は練れてはいないけれど、体の方は練気に慣れてきていて、着実に良い方向に進んでいる。
アリシアとしてはさすがに自分たちのようになる事は無いだろうけれど、いずれ、ある程度は剣術のサポート技能として使えるようになりはするだろうと思っている。
アンナマリーがラスタルを出て行ってから結構になるけれど、引き続き娘なりに成長しようとしているんだなと、ランセルは感心した。
それと娘を夢に導いてくれるアリシア君には、そろそろ屋敷に招いてお礼のディナーでも、と思うのだけれど、やっぱり料理をつくって欲しい気持ちが勝ってしまう。
じゃあ何か報いることが出来るとしたら、今回の大豆ソースの件は国内だけの問題ではないし、アリシアには権力や政治力の方は全く無いので、将軍の一人としてその辺をバックアップしてあげようと思う。
「ルーちゃんは解らないところがあったら言ってねー」
ルビィについては気の鍛錬はやっていないので、地球の魔術について、日本の軍に提供した中級者向けテキストを持ってきた。
「おウ」
ルビィにはこの時間に読んでいて貰おう。
「じゃあ始めるわよ」
ハルキス達4人で『気』の方の披露を始めた。
練気については、4人とも日々真面目にやっているからか、すぐに完了した。ちょっと強さに貪欲すぎるんじゃないだろうか。
「う…」
見た目は変わっていないからなんだか解らないけれど、将軍達は4人から突然発生した圧のようなモノを感じた。
続いてそれぞれは、霞沙羅から貰った練習用の武器に『気』を纏わせて、用意されていた大きな丸太を一閃すると、表面が磨かれたように綺麗な断面が見えるように真っ二つに切り裂いた。
ハンマーで殴ったイリーナの方は、丸太が爆散した。
「おぉ…、これが『気』というやつの威力か」
魔法でもない、新たな技術に将軍達も感心した。
「この前の霞沙羅さんは肉体の強化に使ったんですけどね」
「あの馬よりも速く駆けていったあれか」
レオナルド将軍の目にも鮮烈に映った。
「アリシアはどこまで出来るんだよ」
ハルキス達はまだ武器に纏わせる初歩の技しか教わっていない。まだ初期でもあれとなれば、将軍達もその先が気になる
「ボクはまあ、このくらいに」
アリシアは剣も何も持たないで、広げた手ををシュッと振り下ろすと、ちょっと離れた所にあった丸太が真っ二つになった。
アリシアなら風系の魔法でも使ったのでは? と思ってしまうけれど、そんな素振りは無かった。
「そういえば壁の向こうの人を吹き飛ばしてたわね」
「そうそう、占拠事件の時のね」
今度は丸太を2個くっつけて、手前の丸太に手をあてると奥の丸太がズドンと飛んでいった。
「この技は何に使うのだ?」
確かにすごいけれど、果たしてこんなシチュエーションがあるのだろうか。それにレオナルド将軍的にも、敵を倒すのであれば切断した方がいいのではと思う。
「鎧を着た相手の中身だけに打撃を与えるんですよ、殺さないように」
「な、なるほど」
そう考えると場合によるだろう。
「こんな技をカサラさんは使えるのね」
ライアは一応、霞沙羅と榊を降参させたわけだけれど、条件あってのものなので、今度はそういうのはなしで単純に斬り合いをやってみたいと思っている。
けれどちゃんと足場があった場合は『気』を使ってくるだろうから、それの対策をしなくてはと考えている。
演劇で何か使えないか、と始めた鍛錬だけれど、最近は以前のように剣の腕を競い合う事が楽しくなってきて、真面目に鍛錬する時間を持つようになった。
「あれですよ、こいつの所の元住人がすごかったんですよ。ものすごい速度で殴り合うだけじゃなくて、肉体を鋼鉄の鎧に変えるとかで二人で延々殴り合ってるんですよ」
「ほお、それは面白い」
「あれってアリシアは出来るの?」
ハルキスの話を聞いてあの時のことを思い出して、出来るのかどうかを訊いてくるのがイリーナというのが、聖職者としてどうなのかとは思う。
ただ、刃物を持たないで悪をねじ伏せるという事情があるから、神官向けでもある。
「あそこまで堅くはまだ無理だけど。あの2人は武器も鎧も持たない拳士だから、基本技なんだよね」
「いくところまでいけばそうなるらしいんですよ、将軍」
「ほお、すごいな」
「なるほどな」
ランセルとジェラルドは部下の誰かに…、と思っているけれど、レオナルドはまず自分からとイメージしていたりする。
ただアリシア達はちょっと特別仕様だからこんな簡単に習得しているだけだろう。
まずは一般人代表のアンナマリーがどうなのか見ていきたい。
「この前先生がやってたあの速く走るやつ、教えてくれよ。あれは日常的につかえるだろ?」
「え、うんまあいいけど」
今日のランチは料理を作るわけではなくて、ステーキソースと天つゆを作るだけだからそんなに時間はいらないので、ハルキス達に脚力強化を教えつつ、レオナルド将軍には準備段階である練気の日常練習法を教えた。
やどりぎ館の管理人になって、そこでの住民達との交流で色々な世界の魔法や戦闘術を身につけたアリシアが言うのもなんだけれど、それにしても自分達はこれ以上強くなって一体何と戦うのだろうか。
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