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あの時言えなかったさよならを -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 儀式開始の時間が近くなり、神官達のお迎えも来て、来賓達は大神殿に案内された。


 大神殿の席は前方が各国からの来賓。セキュリティーのために、少し間を開けて一般参加者といったレイアウトになっている。


 中に入りきれない人達へは、神殿の外には中の投影と拡声用の魔工具が設置されて、広場に並んで、そこで色々なありがたいお言葉と演奏を聴くことになる。


 アリシア達フラム王国からの来賓も、神官に案内されて指定された席についた。


 まだ準備中の壇上にも、会場の脇にも霞沙羅の姿は無い。演奏者がずっと立っているのも変なので、裏で待機しているのだろう。


 やがて鎮魂の儀の開始が、司会の大司祭様によって宣言された。


 そこで始まりの一曲が入り、それが終わるとこの儀式の趣旨の説明が入った。


 今のところ一番新しい全世界に大きな死傷者が出た事件、魔女戦争があるので、まずはそこから言及され、過去のいくつかの戦乱や、個人の起こした大事件の話があり、出席者でその犠牲者に哀悼の意を捧げる祈りが行われた。


 次にザクスンの代表者、ゼーラント国王が登場し、今日の儀式決定に対する国内で起きた若干の混乱を謝罪し、魔女戦争の終結に尽力しつつも命を失った、全ての死者達への祈りを捧げた。


 そこから教皇にかわり、長くてありがたいお説教が始まったけれど、みんな真面目に聞いていた。


 最後に、教皇の号令による、再びの祈りが捧げられ、鎮魂のための曲演奏となった。


 一曲目は、実は司祭だった、この前説明をしてくれた神官が素晴らしい演奏を披露してくれた。


 そして二曲目について、再び教皇が現れて、これから演奏する人物の説明を始めた。


 アリシアが連れてきた異世界人ではありながら、フラム王国の噴火被害を最小限に抑えた事、先ほど話をしたこの儀式前の国内で起きた混乱に力を貸してくれたこと。それからセネルムントでの話と、あの温泉作りにアイデアを出してくれたこと、そしてゼーラント国王が語ったザクスンの混乱において、王都で奇跡を起こした事。


 そんな人物であるという話をすると、さすがにざわついた。


 奇跡の件は、各国にいる神官から噂話として聞いている人もいるけれど、それを教皇が明確に肯定したのだ。


「それではカサラ=シンジョウさん。よろしくお願いします」


 教皇が言うと、舞台袖からキールとエミリアに先導されて霞沙羅が現れた。


 堂々として背も高くてスタイルも良く、かなり見た目がいいので、またざわついた。


「こう見ると、ウチの女子達がまた会いたいって言うのも解るわ」


 エレオノーラは、先日の事件の後に、関わっている騎士団の女子達からまた霞沙羅に会いたいと言われている。


 本当にこういう場面では強い。こっちの世界の人間なのに、アリシアならあの場所に立ってもこうは振る舞えないだろう。


 教皇様からのお言葉とはいえまだ疑心暗鬼も残る中で、綺麗な姿勢で壇上にある大きなギャバン神の像に会釈をしてから、オルガンの前に座った。


「なんかやる気なのかな?」


 何を言ったか解らないけれど、霞沙羅は像に向かって何かを言っていたのを見た。


 そう思っている内に演奏が始まったけれど、相変わらず霞沙羅の演奏は完璧だ。


 それを横から見ているエミリアは、ここに来てようやく霞沙羅が目を閉じているのを見て驚いた。教皇も気がついたし、近くで聴きたいからと壇上にいさせて貰っているさっきの司祭も驚いている。


 そうであるにもかかわらず、これまた見事な腕前で三段の鍵盤と足鍵盤を正確に弾く。本人も同僚の死を見ているので、その気持ちを乗せた演奏は見事で、なぜ異世界人がここにいるのか誰もが疑問が無くなっていき、ゼーラント国王もうっすらと涙まで流している演奏が、解る人には解ったけれど、途中で別の曲に変わった。


「あ、やっぱり」


 アリシアはやどりぎ館に4年近くいるから以前に聴いた事がある。


 霞沙羅が弾いている曲が、地球のものになっている。その曲に込められた意味は「神よ、かつての友に今を生きる我らの声を届けたまえ」だ。そしてこの曲は、またもや神聖魔法を発動させる。


 冷静に曲の意味に気がついてしまったのもあって、アリシアはこの神聖魔法から外れてしまったけれど、自分と同じように王者の錫杖が効かなかったヒルダは、人の上に立つその立場からここに座っている思いが違うのだろう。今回は魔法の対象者となった。


 曲に耳を傾けていたギャバン神がまたもや霞沙羅からのメッセージを受けて、像を通してほんのちょっとだけ、それぞれが会いたいと思っていた者の魂とをつなげてくれた。


 そうして曲に聴き入っている人達は一様に涙を流し始めた。何か心残りがあって、もう一度だけ会いたかった人に再会して、心の中で声をかけているのだろう。


 神殿の外も中も例外なく人の動きが止まった。やってくれたものである。


 やがて曲が終わりにさしかかった頃にギャバンは帰っていき、神聖魔法は解除され、静かに曲は終わった。


 霞沙羅は椅子から立ち上がったけれど、誰も言葉を発する事はなかった。魔法から覚めて早く我に返った人は、自分以外で涙を流している近くの人を見て、あれは何だったのかという表情をしている。


 たった五分程度のパートだったけれど、霞沙羅の神聖魔法にかかった人達はその数倍の時間を過ごしたことだろう。


「確かに今、ギャバン様が…」


 教皇も今何が起きたのか困惑しているけれど、ただギャバンが会いたかった人に挨拶をさせてくれた事だけは自覚している。夢では無い。本当の事だ。


 キールと、信者でもないエミリアも戸惑っている。エルフでもこの神聖魔法にかかっていたようだ。


 そんな中、霞沙羅が静かに一礼すると、静かに拍手がはじまり、やがて大きな喝采へと変化した。


 霞沙羅は確かにちゃんと鎮魂の儀をやってくれたのだ。


「アーちゃん、今何が起きたの?」


 一人だけ平気な顔をしているアリシアには何も起きなかったのだと悟って、ヒルダは訊いてきた。


「霞沙羅さんの呼びかけに、ギャバン神が悔いのある別れをした人にサービスしてくれたみたいだよ。ヒーちゃんは誰かに何かを伝えられたの?」

「ええ、そうね…」


 よく見るとレオナルドやエレオノーラも泣いていたようで、ハンカチで目を拭っている。


 まあこの人達は上の立場に立って、魔女戦争でも多くの部下を失っているのだから尚更そうだろう。


 ザクスン王国でもう一度、霞沙羅が夢のような奇跡を起こして、鎮魂の儀は終わった。


   * * *


「まさに鎮魂の儀だったな」


 騎士として入隊してから将軍になった今までの、これまで経験してきた別れの中で多くの心残りがあったのだろう。それをすっきりとさせてレオナルドは晴れ晴れとした顔をして、帰りの準備を始めた。


 そういえば霞沙羅も甚大な被害を出した大きな戦いをくぐり抜けた軍人だと聞いたので、自分と同じ経験をしているのだろうなとレオナルドは、先程の現象に納得した。国を背負って戦った人間だからこそ出来た技なのだ。


 口は悪いけれど、戦死した人間に対しては自分と同じ思いを抱えているのだなと、霞沙羅の事を見直すことにした。一度ゆっくりと話をしてみたいものだ。


 帰途につき始めた各国の来賓達も、鎮魂の催し物があったとは思えないほど、満足した顔をしていた。


 はじめは霞沙羅を疑ってはいたけれど、あんな技が使える人間をギャバン様が呼んでくださったのだと納得している。


「なんかしらんが、あの国王が手を離してくれなくてな」


 やどりぎ館のことがあってアリシアも帰らないといけないので、霞沙羅を待っていたけれど、ようやく帰ってきた。


「何か言われました?」

「ありがとう、と何度も言われたよ。あの第一王子にもな」


 まあ一国の王や王族だ。しかも武人の国。それこそ誰よりも国の兵達に対して色々な後悔を抱えていてもおかしくはない。


「アンナマリーもしおらしくしてるけど」

「まあ…、気は済んだ」


 誰に言えたのかは教えてくれないけれど、ちゃんと会えたらしい。


「アーちゃんは何も起きてないの?」

「薄情なんだろうねー、ボクは」


 薄情というか多分、自分では自覚していないけれど生粋の研究者なんだろう。あの旅の出会いの中で悔いが無かったかと言われたらそうも言えないけれど、魔術師としての探究心が勝ったから、実際はそこまで強力でもない神聖魔法にかからなかった。


「カサラって向こうでもやってるの?」


 人間嫌いなエミリアは果たして誰だったのか気になる。エルフの魂はギャバンのところには行かない、と前にエリアスが教えてくれた。そしてこの魔法はギャバン系統なので、霞沙羅の呼びかけが届く相手が違う。


 ということは相手は人間か、ギャバンの眷属神が作ったドワーフのどちらかだ。


 彼女はエルフ。人間より長く生きているだけに、これまで色々な出会いと別れがあったのかもしれない。


 性格的にプライドが高くて素直じゃないから、生前に言わなければいけなかった事が言えなかったとかか。とにかく今は儀式前に比べてもいい笑顔をしている。


「ウチの世界で数年前に大きい戦争が終わって、その後に一回だけな。それ以降はやってない。あれは何年かに一回、新たな別れが出た時だけのもんだよ」


 だから今すぐにもう一回やってと頼まれても、間違いなく効果は無い。


 霞沙羅もエミリアに魔法が効いた事が解ったので、完全に他種族が嫌いではない事を察した。やっぱりこうじゃないと。


「じゃあボクらも帰ります」


 レオナルド将軍達は神殿経由でラスタルに帰るので、アリシアはヒルダ達を連れてモートレル経由でやどりぎ館へと帰った。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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