エリアスのために -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
あれからまだまだミネラルウォーターを買ってくるように頼まれたり、持ってきたのとは別の色の口紅を頼まれたり、なぜかすぐ側にいた別の事務所の雑用に行かされたりと雑用をこなして、ようやくイベントの開始時間になった。
伽里奈はアリーナに入ることは出来無かったけれど、休憩室には定点とはいえ、アリーナの様子がテレビに映し出されていたので、それを見ることにした。
開幕から派手な音楽が鳴って、MCからの説明、それとゲストの紹介がされた。
やっぱり霞沙羅が紹介されると、大きな歓声が上がった。今日は軍の制服を着ているけれど、相変わらずの凜々しさに、女性達からは感嘆のため息が聞こえてくる。
これにはこの前起きた上野での件も影響しているだろう。久しぶりに格好いい霞沙羅の活躍する姿が日本全土に映し出されたのだから。
そんな事よりも
やっと本番が始まり、音楽とともに照明も派手になり、早速モデルさんが出てきた。
「エリアス、大丈夫かなあ」
次々にお綺麗なモデルさん達がキレッキレな歩きを披露しながらランウェイに登場してくるけれど、そういうのは伽里奈には関係ない。
目標はただ一つ、ただただエリアスが出てくることだけを待った。
「きたー」
時間的にショーが折り返し頃になったところに、オフィスN→Sの3人が現れた。
順番的にはエリアスは3番目。先に出ていった先輩2人の場慣れした歩きは見ていて安心できる。で、少し遅れての出発になったエリアスはと言うと
「ちゃんと歩いてるー」
キレの方はそれほど無いけれど、まるで王宮を歩くかのように、ランウェイをお上品に歩いてくる。
これまでの人からすると、なんか違和感はあるけれど、とても綺麗な動きだ。吾妻社長は何を思ってエリアス一人だけこの歩きにさせたのか解らないけれど、その分目立つ。
アンナマリーに特訓して貰っただけはある。というか、アンナマリーのお嬢様としての底力はすごいんだなと思ってしまった。
これはもうパートナーとしての贔屓目を抜きにして、最高なんじゃないかと。今日の優勝者はエリアスしかいないだろう。
優勝者なんてないけど。
個人的にはとっても長かったけれど、短い時間は過ぎていって、エリアスは最後にそれなりに挑発するような目で会場を一瞥をしてからランウェイから消えていった。
伽里奈はちゃんと挑発されたからこれでいい。かれこれもう4年前、魔女戦争の時はラシーン大陸全土に「愚民共は私の支配を受け入れなさい」と宣戦布告が出来たんだから、大丈夫だよ、エリアス。
「良かったなー、エリアス」
これは成功と言っていいだろう。贔屓目もすごいけれど、伽里奈は満足した
事務所に入ってまだ1年だけれど、これからもまだまだ打ち込めることが出来そうだ。
* * *
「伽里奈君、色々と駆け回って貰ったのに申し訳ないわね」
長い間準備してきたイベントは始まってみれば拍子抜けするほどに何事も無く終わり、オフィスN→Sのご一行はこれから打ち上げに向かうのだが、伽里奈は行けない。なぜなら管理人だから。住民への夕飯の準備がある。
「まあボクは下宿の事がありますし、やっぱりこの日の為にずっとやってきた事務所の人で一気にこう、発散した方がいいと思います。なぜかこの人は行くみたいですけど」
「なんだ、お前のエリアスを育ててやった私が行ってはおかしいのか?」
やっぱりああいう場所は嫌いなのか、イベントが終わってみれば霞沙羅はストレスマックス状態。早く酒を飲ませないと暴れ出しそうだ。
本当は伽里奈の方をお店の予約人数に入れていたらしいのだけれど、空いたそこに霞沙羅が滑り込むことになった。
「霞沙羅さん、憧れてるあの2人がいるから、素は出さないようにしてくださいよー」
「そういうのは大丈夫だ。クダを巻くのはお前か榊くらいだ」
先輩2人は憧れの新城大佐と仕事抜きに一緒に飲めるのがうれしいようだ。お酒を入れて色々と秘密の話を訊いてしまおう、という雰囲気がある。
「エリアスは飲めないことになってるけど、場に飲まれないようにねー」
「同じ管理人なのに、悪いわね」
「ボクもあっちでやってるからいいじゃん」
アシルステラで仲間とよろしくやっているんだから、エリアスも事務所の同士達とたまには一緒に食事をした方がいい。
エリアスはこの中でぶっちぎりの最年長だけれど、高校1年生という事になっているから、アルコールは無し。まあエリアスは用がなければお酒を飲まないからいいけれど。
それにしても、今日は伽里奈の動向をいちいち追跡するほどの精神的余裕は無かったけれど、控え室で時々走り回っていたことはチラチラと見えている。
色々と振り回されて、今日の成功を支えてくれた伽里奈が事務所の打ち上げに参加できないのはおかしいな、と思っているけれど、これも事務所の人間としての付き合いなのだ。ここで出ないとしらけてしまう。それにエリアスもやり遂げたみんなの中にもうちょっといたい。
今日でもう大きな仕事が終わったから、今晩は伽里奈のベッドに潜り込んでゆっくり寝よう。思う存分甘えよう。
「伽里奈君になんか色々言わなきゃならないことがあるけれど、とにかく今日はありがとう」
最後に吾妻社長が礼を言ってくれた。
「こいつ反則級に便利だったろ?」
「それはもう」
空間転移という高位の魔術師しか使えないインチキ魔法は今回、本当に便利だった。便利すぎて結局他の事務所の買い出しまでやらされてしまった。
まさかこの若さでB級というエリート魔術師が会場にいるとは、と驚かれてしまいつつも、バタバタした状況を打破するために色々とこき使われてしまった。
その後、イベントが無事に終わって正気を取り戻した他社事務所の人達にも色々とお礼を言われた。
でも実際、こんなところに呼ばれて仕事は何もありませんでした、よりかは満足度は高い。
自分もあのイベントの一部になれたというだけで、依頼を受けた甲斐はある。
「ではまあ、お疲れ様でした」
伽里奈は一人、やどりぎ館に帰って行った。
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