エリアスのために -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
やって来たのは札幌にある大きなイベントスペース。ここがようやく開催される「SAPPORO☆モード」の会場だ。
地方都市で開催されるファッションイベントと言っても、東京崩壊から地方分散となり、札幌開催でも全国から業界人が集まる程度の規模ではあったりする。
「結構大きな話だったんだねー」
前に見せて貰っていた映像では、ランウェイを歩くモデルさん達が中心だったので、会場の方はあんまり見えてなかった。
よく考えたらバスケなどの室内スポーツやコンサートにも使われるような、一万人程度が収容されるようなアリーナを使っているのだ。そんな小さなイベントの訳はない。
それで今回ヘルプでサポート業務に来ている伽里奈は、エリアスがかなり大きな仕事に参加したんだなと改めて実感した。
「小さいだろ、こんなのは」
「霞沙羅さんは慣れてるでしょうけど」
霞沙羅はイベントのゲストという事もあって、オフィスN→Sを手伝うことは無く、運営との事前打ち合わせをするべくイベントスタッフに案内された方に行ってしまった。
伽里奈の仕事は女性控え室に行って着替えとかメイクの手伝いをするのではなくて、簡単にいえば使いっ走り。今回はモデルが3人になって、人的余裕が無くなるだろうという予測の元で声がかかった。
吾妻社長からアレが欲しいとか声がかかれば、その魔術の腕を使って取ってくるということをやる。何分小さな事務所なので、昨年まではメイクの小松川さんの指示を受けて吾妻社長が走り回っていたらしい。
それもあって、伽里奈はお得意の女子アルバイトです、という服装をしてきている。
とりあえずは、用意して貰ったスタッフカードを首からぶら下げて、関係者用の休憩室で雑用の注文を待つことにした。
何も無ければただただ無駄な時間が過ぎ去っていくだけだけれど、実際はそっちの方がいい。でもこれまでの実績があって呼ばれているわけで、実際にはそんな事はないだろう。
しばらくは仕事待ち状況ではあるので、ラスタル騎士団の参考料理とするべく、どこかにいい大衆料理店のメニューは無いかとネットでお店情報をあさっていると、早速メイクの小松川さんから指定された化粧品を買ってこいとメッセージアプリに着信があった。
要点しか書いてない雑な文面なのが現場の状況を物語っているようで、伽里奈は早速指示のあったお店に跳んだ。
「あら、ニーズさんに新しい子が入ったのね。まだ女子高生かな?」
レジの店員さんに領収書に書いて貰う社名を言ったら、新人のモデルと間違われてしまった。その反応から会社は結構ここで購入しているようだ。
「いえ、雑用係なんですが」
「あれ、あなた、どこかで見たような」
店員さんはちょっと考えると、何かを思い出したようだ。
「そうだ! イスゴさんの新しいブランドのポスターの子。そうでしょ?」
「え、ええ、まあ」
「大々的にPRしてるからあれは誰なのって、学生の子達が言ってるの聞くわ。そうかニーズさんのところの子だったのね」
「あのまあ、お手伝いに行ったら現場でたまたま社長さんの目にとまりまして…、ブランドのイメージが固まったって、コンセプトビジュアルみたいになってます」
「あらそうなの。でも人生には偶然も重要よ。あなたかわいいもの。とても自然体の写真で、あれはみんな気になるわよ」
あら噂の子に会えたわと、ご機嫌な店員さんに送り出されて、無事に指定された化粧品を買って帰ると、現場は戦場のようになっていた。
「ひえー、大変だ」
着替え途中で半裸みたいになっているモデルさんがいる事も気にならないほどに、喧噪であふれている控え室Bという所に伽里奈は化粧品を届けた。
男性の姿もちらほらあるけれど、それはメイクさんやスタイリストのようなスタッフの人たち。
今日は別の事務所を見ているようで、前にオフィスN→Sの事務所に来ていた磐田という人もモデルさんに何かをアドバイスしている、というか本番前のご機嫌を取っているようだ。
いい仕事のためにはこういうメンタルケアも重要なんだろう。
そんな控え室に突撃して小松川さんに化粧品を渡すとすぐ次の話が来た。
「あらありがとう。それとこれを会社から取ってきてくれる?」
今度は服の微調整をするそうで、吾妻社長から、ここに持ってこなかった色の糸をいくつか持って来るように言われた。
「はい」
モデルさんに例外はなく、先輩二人も脳天気に声をかけてはいけない雰囲気がしているので声がけはスルーした。
それと、やっぱり緊張しているエリアスにだけは見えるように軽く手を振って、伽里奈は事務所に空間転移をするべく、控え室を出て行った。
* * *
糸の納品を終えて一難去って、休憩室に戻ると、以前に女子ブランドを立ち上げると言って仕事を発注してきた、イスゴという会社の社長までもがやってきた。
さっきその件でちょっとあったところではあるけれど、考えればここにいて当然といえば当然かという人物がやってきた。
「おお、君は吾妻さんのところの。しかし…」
社長さんは座っている伽里奈の全身をなめ回すように見た。
この人は伽里奈が男だと解っているはずだけれど、その目はまるで女子を見ているようだ。
勿論変な意味では無く、アーティスト的な視線が何かを捉え、カッと目を見開くと
「ウチのコートとブーツを着てくれているのか。しかしそれは現行の大人向けの、いや、しかし…、なぜ君はそれを?」
「エリアスが前にサイズが合うからって選んでくれたんですけど」
「おーいいねえ。こう実際に人間が来ているのを見ると、ウチの商品は案外学生にも合うもんだなあと気付く」
伽里奈が男であるとかそういうのはもはや関係ない。10代の女子が、20代の女性向けとして売っている商品を違和感なく着ている。そうとしか見えていない。
いいマネキン状態になってしまっている。そしてマネキンと違うのは、動くということだ。
「ちょっと、いいかな」
社長は自社商品の年齢層が広がりそうな事で頭がいっぱいになってしまって、ファッションイベントの休憩室だというのにスマホで伽里奈を撮り始めた。
「大人を意識する女子だっているわけじゃないか…。大人びた子も…、ちょと背伸びしたい子もいる。さあ伽里奈君、立って!」
「ええーっ」
その気迫に伽里奈は立たされて、適当なポーズを取らされて、ぐるっと一周分撮られた。
「君はまだ吾妻さんのところにいるのかい?」
「エリアスの手伝いで、不定期で事務所に出入りしてるくらいですけど」
「そうか…、だったらまた吾妻さんに話をしておこう」
一体何をさせるつもりなのか、社長は何かに納得したように、今撮ったばかりのスマホの画像を満足そうに確認しながら休憩室を出て行った。
「やな予感がするなあ」
その予感の通り、後日、伽里奈もメンバーに入れた、お店用の新しい仕事が来た。
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