今後を見据えて -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日はまた両世界の英雄9人全員が揃って、ヒルダの屋敷で鍛錬をしながら、食事をする事になった。
やっと醤油というか大豆ソースを手に入れたので、それを使ってステーキソースを作りたいと言うと、アシルステラ勢は全員興味を示して時間を空けてくれた。
実際のところ、フラム王国で正規に醤油が手に入るようになるのはずっと先になるだろうけれど、アリシアとしてはこうやって各所に営業なり意見を貰うなりしていって、来たる日を待とうと思っている。
特にヒルダは先日作ってあげた天つゆと同じように、新しい味が楽しめると乗り気だ。普通に存在する料理の新しい楽しみ方なんていうモノも悪くない。
大豆ソースについては、冒険中にハバルーク王国を訪れた当時の印象はあまりよくないようだけれど、それは6人全員同じ意見。
そんなアリシアが自信を持って話しを持って来るのだからと、期待は大きい。
多分使い方がよくなかったのだ。それに国によって料理の味は違う。お隣のザクスンだって違うのだから、そこから更に先にある国の味覚がフラム王国と同じなわけはない。
でもアリシアが持って来た料理は例外なく美味しいという実績がある。
そもそもやどりぎ館という異世界で食べた料理も全部受け入れられた。なら大丈夫だ。
「じゃあ残りの2人分だ」
それとは別にイリーナとライアの魔装具のために、霞沙羅がまた外付けの拡張装置を作ってきた。
実際のところは専用の武器を作りたいところだけれど、そうなってしまうと手間もコストもかかるわけで、タダというわけにはいかない。
そういうのはいずれ希望があればだ。
これでイリーナのハンマーからは、目標を直接殴らなくてもオリエンス神の力を宿した衝撃の塊を飛ばすことが出来るようになり、ライアのサーベルからは刀身がまとっている魔力の刃が自由に伸ばせるように変更された。
武器の間合いが狭かった2人だから、それが解消されることになった。
今後一体何に使うのか解らないけれど、戦闘領域が変わったので、戦術バリエーションも増えることだろう。
「今日はお前の女神はいないんだな」
「エリアスは向こうでの大きい仕事が近くてねー」
前回は複数の、恐ろしく頑丈な結界を作ってくれたけれど、今回はいつも通り吉祥院とルビィが担当する。
後で食事をしにフィーネが顔を出すことになっているけれど、女神ということを隠しているから、エリアスの代わりを頼まなかった。
「ハルキスも武器の能力が変わったみたいだから、もう少し高い領域で調子を見る時間も作っておいた方がいいよー」
「個人的にはお前と先生の組と一度やってみてえな」
「料理の準備があるけど、途中までならいいよー」
今回はそんなに時間がかからないステーキソース作りが重要だから、ハルキスのリクエスト通り、アリシアも参加することにした。
* * *
アリシアと霞沙羅のペアはお互いの間合いと能力が解っているので、何も言わなくてもオフェンスとディフェンスがめまぐるしく変わり、絶妙なタイミングでお互いのサポートをして来るので、剣技であれば上のハルキスとヒルダのペアであっても、とても厄介な相手だった。
元々アリシアは戦闘時の全領域をカバーしてパーティーのサポートをやってきたので他人のフォローは上手い。
それもあって霞沙羅は最近、自分たち3人組の中でちょっとやり方を変えようと考えていた。
性格的に一番前へ出てしまって、榊はともかく吉祥院にフォローを任せてしまう事もあって、彼女の攻撃力を生かせていなかった面もあったからいい経験になった。
今回上手くいったのは多分、霞沙羅と同じ事が出来るアリシアだから、自分が後ろに移動してもアリシアが解ってくれていただけだろう。
今後はこの行動を榊相手に出来るか、というのが課題だけれど、戦術が変化すれば3人組の攻撃力は大きく跳ね上がるだろう。
「あのライアというのは苦手だな」
別の回でアリシアとライアの組とやってしまった榊だが、足場となる立体的な建築物が無いにもかかわらず、何をしてくるのか、どこに何が欲しいのかを解っているアリシアが、土系の魔術で足場を作ってくるので、めちゃくちゃに翻弄されてしまった。
単純な斬り合いではライアの腕前は劣るのだけれど、逆さになるどころか、空中を歩き回る常識外れな動きに心を乱されてしまった。
以前にアリシア相手に予習をしていたけれど、それを大きく上回るライアの技量に、まだまだ世界は広いと思い知らされた。
軍ではストイックに修練を積んでいる事に対して「お前は何と戦うんだ?」と言われることもあるけれど、先日のように何が来るか解らないのだから、自分の本気をぶつける事が出来るアリシア達6人とは、まだまだ付き合っていきたい。
「ルビィ女史にはウチの施設に来て貰って、最大出力で魔法を放って欲しいモノでありんす」
施設というか、軍の兵器実験場で気兼ねの無い一撃を撃ってみて欲しい。
「私としては吉祥院さんのその大きな杖が気になっているのダ。冒険中はイリーナだけじゃなくて、アーちゃんにも防御を任せていたところがありまして、そういうのが苦手なのダ」
「同じような立場でいながら、案外役割は違っているのでやんすな。とりあえずワタシの役割を見せてあげようではあーりませんか」
吉祥院は持ってきていた複製品の記録盤を使って、先日の白い幻想獣との戦いを見せて解説をする事にした。
ずっと魔力を放出して、結界を維持するのもなかなかの鍛錬になるけれど、まあその間に討論をするのもいつもの事。
さっきの霞沙羅の動きで、自分に何をやらせようとしているのかは解ったので、吉祥院も動いておいた方がいいだろう。
あの旧23区がある間は何が起きるのかわかったものでは無い。幻想獣は人の想像が具現化したモノだから同じ姿でも能力が変わっていることもあって、より良い戦い方を備えておかなければならない。
前衛が2人いて、そこに全領域をカバーできる人間が機能している状態で、じゃあ後ろにいる大火力の魔術師がどうすればいいのか、それは今聞いたとおり、ルビィがよくわかっている。
吉祥院としてもそういうグループの話は聞いておきたい。
「キッショウインさんはこんな防御をするのね」
2人が何かの映像を見ていたので、イリーナも参加してきた。
「範囲で張ると魔力が無駄になるからだそうだゾ。だがイリーナはアーちゃんのように神聖魔法の改造は考えないからナ」
「そこな神官よ、確かに神聖魔法というものは神からの天啓によって追加されるモノであるが、神の意にそぐわない範囲内で、その場をしのぐ改良をすることまでは禁止してはおらぬ」
そこに割り込んでくる声。
「フィーネ殿、もし神の意にそぐわなければどうなるでありんすか?」
「神官であろうとその声は聞き入れぬ。故に一度でも動いたのであれば、神は許したという事じゃ。お主ほどの神官がやる事であれば、オリエンスとやらは耳を貸すであろう。でなければあの小僧の言葉のみを聞くことはすまい」
急にフィーネがやってきた。
そういえばランチの時間も近づいてきている。
吉祥院はフィーネの正体を解っているので、気まぐれな女神からの迷える真面目な神官への助言を補足した。
神官としては真面目に信仰する事は大事ではあるけれど、それだけではなく神の名を汚してもいけない。神の名を口にする神官が目の前に現れた状況に負けてしまわないように、ある程度の寛容さを神に願う事も大事だ。
「質問が出来る神がおるであろう? まがりなりにもここの最高神、大地神の子じゃ。教義に反しないのであれば、神官としてやりたいことの確認くらいしてはどうじゃ?」
「地球の人もやってるから。やりたいことがあるならボクからエリアスに訊いておくよ。今のイリーナはモートレルにも簡単に来れるし、直接見て貰ってもいいし」
肉焼き用の鉄板の設置にやってきたアリシアもフォローをした。
確かに、アリシアが作り出した小規模の転移設備はオリエンス教の神聖魔法であり、ちゃんとエリアスに確認を取っているような話をしていた。
「そうね。一度まとめてくるから訊いておいてくれる?」
「うん、いいよー」
実に気楽なリーダーだと改めて思う。まあアリシアはなんとなくそういう事を知っていたのだろう。
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