そして英雄は帰る -3-
「何が起きているっ!?」
この計画の首謀者の一人である オーレインは突然の事態に困惑していた。
洗脳した市民に対して、そして集まった同志達に新たな帝国の始まりを告げるセレモニーが行われていたのだが、夜空を焦がす炎が上がったかと思うと、翼のないドラゴンと巨人のようなトカゲが多数現れ、市民達を追いかけ回し始めた。
いくら新皇帝ユリアンに忠誠を誓うよう洗脳されたとはいえ、得体の知れない生き物が大挙して襲いかかればそれどころではなく、多くの一般市民達は恐怖に駆られて逃げ回ってしまう。
しかも市民の大半は戦闘能力の無い一般市民だ。それもあまりに数が多い為、たまたまこの日にモートレルに宿泊してしまった旅人や冒険者、果ては目覚めたばかりでまだ統率が取れていない騎士団の混乱を止めるような余裕はない。
「逃げるな。応戦しろ」
と引き留めようとしても、たった60名の残党だけでは万を超える人数の市民を止めることは出来ないし、謎の竜達も咆哮をあげて襲いかかってくるしで、誰の耳にも声は届かない。
「所詮は地方配置の一般兵か」
魔女によって中央にいた帝国の精鋭達は一人残らず殺され、周辺の町にいたそれなりに優秀な兵達も魔獣に抗しきれず殺され、今いるのは所詮は自分の命かわいさに逃げ出した、帝国への忠誠心が低い兵達だ。
再興後の高い地位をエサに人数だけは集まったが、オーレインは彼らの程度の低さを危惧していた。それなりに腕は立つが初期メンバーであるが故に、この組織の中で尊大な態度を取るようになった男を一人、町の外に置き去りにしたのは、ここから先、まだ安泰とは言えない状況にある組織の足を引っ張ると判断したからだ。
「ヒルダは見つけられず、アンナマリーもおらず、一体どういう事なのだ!」
決行前にこの2人がこの町にいることは確認済みなのだが、洗脳完了後に中央広場に現れることもなく、屋敷にも騎士団にもどこを探させてもその姿はない。
「オーレイン、これはどういう事だ?」
少し前まで演説を行い、新皇帝気分だったユリアンは、4年間自分に帝国再興の夢を語り続けてきたこの魔術士に状況を確認する。
「何者かが我々の邪魔をしているようです」
「ええい、錫杖の力はあの者達の予定通りにこの町を覆ったというのに」
しかしこれはヒルダの仕業ではないし、この町にこんな妙な竜を操れる人間がいるなど聞いていない。そもそも王者の錫杖が効かない人間がいたことが想定外だ。
「ぎゃあっ!」
人の波に流されて、通りの奥に行ってしまった同士が一発の閃光にやられて断末魔の声をあげた。
「雷撃、しかもあの精度は何だ」
魔法としては小規模だが、この市民が逃げ惑うような混乱した状況でも、正確に同志のみを狙った一撃だ。とんでもない制御能力を持った魔術士、いや、魔導士以上の人間がいる。先程の炎もその人間の仕業だろうか。
この町にそんな腕を保った人間は、冒険者を含めていなかったはずだ。魔術師育成の学校はあるが、程度は高くない事は確認している。
「オーレイン様、妙な格好をした赤毛の女と、あれは、英雄ルビィがやって来ます」
望遠鏡で見ていた1人の兵が状況を伝えにやって来た。
「な、何だと。なぜそんなヤツがここにいる。それにどうやってここに入ったのだ。ヤツは王都で魔術師共の足止めをすると言っていたはずだ」
しかも例の協力者が仕掛けた協力な結界は健在で、町の外からの転移は出来ないハズだ。ここまで手筈を整えてくれた人間が、最後の最後で自分達をハメるとは思えない。
向こうでも何か予想外のことが起きたというのか。
オーレインも手練れの魔術士だ。状況の把握をしようと周囲に対して意識を広げていると、町を覆う結界の一部が消えた。目をこらすと城壁の上でも戦いが行われている。
人数も少ない上に、配備したはずの魔剣が全く効果を発揮していない。
地上ではまたもや閃光が走り、1人が焼かれた。そして黒い帯のようなモノが逃げる群衆の中で閃くと、一人の兵士の上半身が飛んだ。
「群衆が、誰もいなくなってしまった」
気が付くといつの間にか竜と竜の巨人に追われて市民達はどこかに行ってしまった。今広場に残っているのは、自分達だけとなってしまい、近づいてくる2人の姿がハッキリと見えるようになった。
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