雪の季節の思い出 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ほれ小童、そろそろあの犬とはお別れじゃ」
「ばいばい、らっきー」
「ワン」
「ニャーン」
やどりぎ館に遊びに来ていたラッキーは、今日はお泊まりをすることになっているアマツと一緒にエリアスに連れられて、ご機嫌な感じでお向かいの家に帰っていった。
「らっきーはやさしくてかわいいね」
「ほんとねー」
「きょうはねこたんといっしょにねるって」
「ラッキー君はネコちゃんに優しくしてくれるかな?」
「ぜったいやさしくするよ」
エナホは一緒に遊んでいたシャーロットにかわいい感想を述べた。
またスキーをしにやってきた純凪一家とは、この後一緒に雪まつりを見に行く事になっている。
純凪夫妻とアンナマリーが帰ってきたら住民全員で、フィーネに空間転移をして貰って会場の大通公園まで転移する予定だ。
「フィーネおばたんもくるよね?」
「まあそうじゃな」
夕飯は、フィーネが知り合いの、小さな飲み屋さんで評判の石狩鍋を楽しもうという流れなので、今日の伽里奈は特に何も作っていない。
そんなにフィーネが勧めるのなら、しっかり味わって今後の参考にしてもいいかもしれない。
「外は寒いから、エナホ君も暖かくしていかないとね」
シャーロットも引き続きエナホの相手をしてくれている。
「おばたん、へんなふくじゃない」
「まあたまにはのう」
自慢の黒いドレスの数々をエナホに「変な服」と思われていた事はスルーして、クマちゃん牧場で買ってきたクマのぬいぐるみで巧みに遊んであげている。
純凪さん達にも、今日は白い服を着て現れた事に驚かれた。
管理人だった十数年の付き合いの中で、一度も見たことが無かったそうだ。
「くまたん」
「暖かそうなクマちゃんの帽子も買ってきてるわよ。それをかぶって雪を見に行きましょうね」
「うん」
やがてアンナマリーも純凪夫妻も帰ってきて、それぞれが防寒対策を整えて、大通公園にひっそりと転移した。
「小娘よ、転移はこうやるのじゃ」
見物人が多数いる場所へ、多くの見物人に気がつかれないように転移させる技術に、エリアスは驚いていた。
どうせ雪像に気を取られているから簡単だ、と言っているけれど、視線が逸れる場所を見つけて、タイミングを合わせるという高等テクニックは、エリアスにはまだまだ無理そうだ。
「うわー、すごーい」
「これ全部雪で作っているのか」
長い公園にいくつも並んだ雪像はいろんな色の明かりで綺麗にライトアップされていて、しんしんと降る雪と一緒になってキラキラと輝いている。
そんな見た事も無い綺麗な景色にシャーロットとアンナマリーは寒いのも忘れて大はしゃぎした。
やどりぎ館の庭に降る雪で作る雪だるまとは桁違いの大きさだ。その像の形がどういうモノなのかは解らなくても、これがすごいことは解る。
「軍の訓練の一環で、雪は別のところから運んできてるんだがな」
それは霞沙羅とは関係が無い部署の話だ。
「ゆき、すごい」
「ママの手を離しちゃダメよ」
走って行きそうになったエナホをアリサが引き留めた。こんなところで迷子になったら大変だ。
「定食屋の子がまだ帰ってきていないから、ふと、うちのエナホも心配になるな」
行方不明の女の子は迷子になったわけでも、誘拐されたわけでも無いけれど、顔見知りなだけにモガミはそのことをずっと気にしている。
エナホは年齢的にも勝手に動き回り始める頃なので、最近はちょっと買い物に出かけても目を離せない。
しかし思春期の子供というのもなかなか難しいものだ。ただの家出であって欲しい。
「そろそろ思わぬところから帰ってくるであろう。人の人生を学んでな」
「フィーネさんの予感ですか?」
「そんなものじゃよ、場所は違うがのう」
フィーネが言うのなら生きているのだろう、と一旦心にしまうことにした。
「まあまあ、見て回りましょうよ」
多少バラバラに行動しても、フィーネとエリアスとシスティーがいれば、この広い会場で見失うことも迷子になることもない。
アンナマリーとシャーロットには案内役としてシスティーが付いていき、純凪さん親子、英雄カップルと、結局4組に分かれて行動することになった。
「両手に花ではないか」
ということで伽里奈は女神2人に挟まれることになってしまった。
「その後のあの社長はどうじゃ? 我の指示通り動いてよかったであろう?」
「そうね。あとは娘さんが小樽校に入学すれば家族関係は万事OKってところね」
「そのあたりも問題なかろう。それよりも小娘、おぬしもヘマをするでないぞ。こんな地方都市でのショーではあるが、ここを拠点とする会社にとっては一大事じゃからな」
「もー、そういう事を言うとエリアスが緊張しちゃうじゃないですか」
「大丈夫よ。私はなんとかするわ」
「奇跡を使えば失敗も誤魔化せそうだけどさー、人前だからね」
当日、会場でエリアスが転ぶようなことは絶対に無いだろう。力を使うのは好まないだろうけれど、女神なりの手段がある。
まあそんな事態は無いだろうけど。
「先に言うておくが、あの館の管理人としてお主らがとある真実を知ることになっても、こだわる必要は無い。結局は普通は出会うはずもない場所におる住民同士じゃよ、我も純凪もおぬしらもな」
「変な場所にある館ですけどねー」
地球にあって、アシルステラやヤマノワタイに繋がっている。とはいえ本当に地球にあるのかも疑問だ。
「何か起きるとでも言うの?」
「まあそうじゃよ。それと小僧、縁というものはな、距離や場所など関係ないのじゃ。元リーダーであったのであれば、堂々と頼めばよい」
「最近ルーちゃんには色々と手伝って貰ったりはしてますけどね」
「そういうわけではないが、声かけをするなら我が手伝ってやろう。小僧はなんだかんだで正解を掴んでおる事を忘れぬようにな」
何かを教えてくれようとしているけれど、この女神様は正確には教えてくれない。ただ、その時が来るという覚悟をしておこうと思う。
「珍しい3人組だな」
あんまりはしゃいでいない大人な霞沙羅と榊が会場を一回りして合流してきた。
残念なことに腕を組んだりはしていない。でも今日のところは率先して2人だけで移動していったので、これはもう合格と言っていい。
「今日は酒が飲めるぜ」
車で来ているわけではないし、明日も仕事は無い。今日は思う存分酒を楽しむ事が出来る。
「純凪さんの子供がいるが大丈夫なのか?」
「いつも通り席を分ければよかろう。あの店は居酒屋の体じゃが、鍋が目的だけの家族客もおる店じゃ。面倒見のよい天才魔法少女もおるわけじゃし、気にせず飲むが良い」
「そういやそうだな」
雪の降る寒い外から暖かいお店に入って、温かい鍋をつつきながらの美味い酒を飲む。
この後には雪国ならではの贅沢な時間が待っている。中途半端に寒い横浜ではこんな体験はできまい。
「美味い日本酒が揃っておるぞ」
「いいじゃねえか」
子供には悪いけれど、大人は酒を飲ませて貰おう。
ただ、お店はここからそんなに離れていないとはいえ、まだ子供達が雪まつりを楽しんでいるので、たどり着けるまでにはもうちょっとかかりそうだ。
伽里奈だってたまには外食して、美味しい鍋を堪能したい。
料理自慢だけれど、美味しい料理は北海道にはたくさんある。だったら一つでも多く参考にさせて貰わないと。
この後しばらく雪まつりを楽しんだ後、お腹のすいた冷えた体を暖めるべく、皆でお店に入っていった。
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