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久しぶりに変わったことが無い日常 -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 記録盤(デバイス)の話が終わった後は、一番話をしやすくて発言力のある人達に向けて、醤油というか大豆ソースの良さを伝える試食会を行った。


「これが天つゆですよ」


 実際に日本流の天つゆを作るには醤油だけでは足りないので、この国で手に入る互換品や類似品、代用品を手に入れて、不完全ながらも天つゆと呼んでも良い物は出来上がっている。


 天ぷらに塩というのも素材の味がストレートに反映されるのでいいのだけれど、天つゆで食べるとかなり変わる。これに先駆けること数日前に、ヒルダも塩との差を気に入っていた。


 結局は食べる人が好きな方を選べばいいけれど、この天つゆが出来ることで、また別の料理に派生していくので、いつか醤油を交易で手に入れたい。今日はその一歩。


「これの中心になっている大豆のソースは、お店の人に訊いたら、なんか他の国では需要が無くて売れないみたいで」

「そうなのか? 初めて味わうソースだが、なかなかいいではないか」

「それは出汁とか入れているので。素のままで合う料理がこの国には無いですけど、隠し味でもいいですし、こんな感じで扱い方次第だと思うんですよねー」


 エビ天や魚天、野菜天やかき揚げを食べながら、賢者達は満足そうな反応をしている。


 王宮からはアリシアの味方となってくれる料理長のロビンが来ているけれど、面白そうだと言っている。


「ハバルーク王国は先に輸送船を完成させているので、もう隣接国との商売で使ってるみたいですよ」

「ほう、そうか。ただあの国にたどり着くには、飛行船で飛び続けても1日ではきかないだろう?」

「それはでも、解決してません?」

「そうだったな」


 フラム王国の飛行船においては、乗員用の食料の確保は今となっては問題ないから、船内での数日の宿泊といっても昔のようなストレスは無い。


 その内、ミストシャワー用の部屋も作れれば更にいい。


「少し離れた国に行くなら日にちもかかるでしょうから、今より大きい冷蔵箱と冷凍箱がいりますけど」


 実際に行く時は、お隣のザクスン王国の王都サイアンにでも商売ついでに立ち寄って、そこで食料を調達してもいい。


 魚介類が手に入りやすいリバヒル王国住まいのクラウディアも、天つゆで食べる天ぷらを気に入ったようなので、このままこっちの世界でも受け入れられるだろう。


「あの、この国の飛行船てどうなっているんですか?」


 そしてクラウディアが気になる事がある。


「そうか、リバヒルの船は先日見せて貰ったが、こちらのは外だけだったか」

「あれ、いいんですか?」


 いくらクラウディアとはいえ、見せていい物なのか。


「数日後に王宮の船に使いの者を乗せてリバヒルに行く事になっておる。その時王家や高官などにも見せるのだ。先にクラウディア殿に見せてしまっても構わぬだろう」

「そうなんですか」

「今は内装の最終仕上げで学院に置いてある。お前も自分の提案がどう形になったのか見たいだろう?」


 という事で、試食会のあとに飛行船の倉庫に案内して貰った。


「あのベッドは良かっタ」

「ルーちゃんも乗ったの?」

「実験で一泊したゾ。人の目から隠れられる自分だけのスペースというのは意外と癖になル。枕元に本を置くと、寝転がって延々と読んでしまウ。料理もちゃんとしたのが出てきたし、なかなか快適だっタ」

「そこまでやってるんだ」


 自分の提案を国が受け入れてくれたのは嬉しいけれど、ちょっとみんなノリがいい。でもまあ不満もあったのだろう。


 なんと言っても冷蔵箱と冷凍箱で国が動き始めたので、ここには無い技術に期待している現れでもある。


 そして倉庫内には2隻の飛行船が入っていて、王家の船は絶賛工事中だった。


「外装はいつも通りというか」


 クラウディア的にはいつもの木造の飛行船。王族の方のは装飾はあるけれど、まあ美術品というわけでも無い。


 今日見学するのは停泊しているだけの魔法学院用の船の方だけれど、中に入るとちょっとした邸宅のようになっていた。


「船の中よね?」


 食事スペースはわざわざ窓際に移してラウンジのようにしてくれているし、なんと言ってもクラウディアが見たことも無い装置が付いた、本格的な台所が目にとまった。


 用意されている食器や収納器具も普通に家の台所に置いてあるような物ばかり。


「本気で料理を作るつもり? でもコンロが無いから火が出ないわよ」

「あの板がフライパンとか鍋に熱を伝えるんだよ。耐熱対策もしてるから火事にもならないようにしてるんだー。あの箱の中で生の食材の保管が出来るから、補給いらずで休まずに長く飛べるし」

「寝室もいいゾ」


 個室はいつも通り、という感じだけれど、大部屋の2段ベッドはちゃんとキャビン形式の、一定のプライベート空間が保たれた物に変身していた。


 アリシアがプレゼンした日本のフェリーの設備をある程度は模倣できたようだ。


「すごいわね」


 クラウディアはカーテンで仕切られたブロックに入って、その居心地を確かめた。


 実際はただ板とカーテンで仕切られているだけだけれど、他人の視線から遮断されていると安心感が違う。


 旅の間はずっと他人と顔をつきあわせるのだから、寝る時くらいは他人から解放されたくなる。


 中は狭いけれど、ゴロンと横になるにはこんなものでいい。


「そうそう、今は季節的にいいけど、空調装置の話をしないと」

「何の話だ?」

「カーテンを閉めると空気の出入りがあんまり無くなるから、季節によっては中に熱がこもるじゃないですか」

「確かにそうだな。それを解決する手立てがあると?」

「まあそういうことです」


 換気扇とかサーキュレーターとか。とにかく空の旅をこれまでになく快適にしたい。


「それは向こうの船にも言える。ならば王も巻き込んだ方がいい」


 この船がリバヒルに行ったら、中身の充実ぶりにはさぞや驚かれるだろう。


「王家の船は、この前空中でディナーを食べたらしいゾ」

「そんな事やったの?」


 まあ少し前にこっちの船でティータイムをやったけれど、王様達もよくやるものだ。


 これであればリバヒルに行った時に、食事とは言わないまでも、軽食を提供した会談くらいはするだろう。


「それで近日中に、各領主向けに冷凍にした魚介類を届けるための巡回を、何日かかけて行うことになっておる」


 国もアリシアのやりたかった事を理解し始めているのがうれしくもある。


 確かに前にルビィが言っていた港町ブルックスの再開発計画をやろうという話も現実味がある。単に地元ラスタルで魚が食べたいという野望から始まった事案が随分と大きくなったものである。


「平和になってるんだなあ」


文化が発展するというのはそういう事だ。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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