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久しぶりに変わったことが無い日常 -1-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 アリシアが冒険者時代に、旅の途中でとっていたメモに従ってエリアスが調べてくれた結果、大豆醤油と同じソースを作っている国はフラム王国の東側、ザクスン王国から更に2つ隣の国だった。


 冒険者をやっていた時期には、アリシアとしてはあんまり興味が沸かなかった調味料だったので、メモの中でもあまり重要な位置にいなかった。


 多分、他国民にとっては美味しいと思える使われ方をしている料理じゃなかったのだ。だから日本に移り住んで、和食や中華を通してその有用性を感じた事で、ようやく気になる食材に昇格した。その為に、これから料理を持ってこようとした時にかなり重要な調味料になる。


 エリアスからの話では、そのさらにお隣の国も同じように醤油を作っているそうだけれど、それは両国が文化交流した結果もたらされたモノなので、やはりここは歴史も長い、元祖の国に買いに行くことにした。


 そこはハバルーク王国という国。海岸線が無い内陸という立地で、作物としては穀物や豆の生産が多いようで、それでどこかのタイミングで豆を使っての醤油にたどり着いたようだ。


 エリアスにはあんまり時間に余裕が無いから、一国の中で一番商品が多く集まるだろうと、王都の食料品街にやってきた。


「あ、売ってる」


 探し始めてすぐに、その一角にあるお店で目的の大豆醤油は売られていた。


 大きな(かめ)の中に入れられている醤油を柄杓(ひしゃく)一杯いくらという単位で販売している、という事をエリアスから聞いているので、アリシアは小さな(かめ)を持ってきている。


 値段的にも、結構生産料が多いのか、お高くは無い。日本のように庶民でもじゃぶじゃぶと当たり前に使えるかというとそこまでではないけれど、日常使いにはまあまあ許容範囲と行った価格帯だ。


 輸入すればこれよりは多少値段が高くはなるだろうけれど、これはいける。


 フラム王国では見ることの無い光景を、前に来た時はローカル調味料の一つだとしか思っていなかったけれど、特別感も無く売られているこの状況は、日本を知った今となっては実に羨ましい感じだ。


「買って帰るのはいいけど、何を作るつもり?」

「国の人にアピールしやすいステーキソースとか中濃ソースとか、後は醤油ラーメンとか餃子とか中華料理系もいいかなー。実家の唐揚げの下味にも足せるし、天つゆもいいかな。いずれはすき焼きも」

「天ぷらはヒルダさんも気に入っていたわね」


 種類は湖で採れる小ぶりのエビと魚と、どこにでもある野菜と鶏肉くらいだけれど、来客があると会食時のお酒のあてに出しているそうだ。


 それと最近はラスタルで海の幸が手に入りやすくなったから、王宮でもそこそこ重宝しているとも聞いている。


 でもつけるのは塩だけなので、世の中にはこういう物があるのだと伝えて、輸入してもらうという考えもある。


 そう意気込んで空を見上げると、この国の飛行船がどこかに飛んでいくところだった。


「輸送船だよ。ウチの王様は自分の船よりも交易を優先してねえ、商人を募って商売させてるんだよ。今日は隣の国に行くようだねえ」


 店員のおばさんが教えてくれた。


 王家が国の見栄を後回しにして実用方面に舵を切るとか、なかなかのやり手である。


「いいですねー。このソースは他国にも売ってるんですか?」

「いやー、あんまり他国の人間は使わなくてね。お姉ちゃん2人は外の人だろ? どこか販売に良さそうな国はないかね」


 お姉ちゃん2人では無いのだけれど、わざわざそれを訂正はしない。


 お店の看板を見ると、どこかの醤油工房の直売所のようだ。


「フラム王国とか」

「ちょと遠い国だけれど、需要はありそうかい?」

「多分近々、魔法学院を通して話が来るんじゃないかと」

「なんだいそれは?」


 なぜ商売の話をしているのに魔術師の話になるのか。


「あのほら、アリシアっていうのが帰ってきたじゃないですか。魔術師ですからね」

「あー、あの英雄さんね。料理好きだっていう」

「数年前にここにも来てますからね。多分それがこのソースに合う料理をプレゼンして、王様に話しをするんじゃないかと」

「へえ」

「というわけで、そのために買いに来ました」

「なんだい、あんたがアリシアかい」


 料理好きとの噂通り、わざわざ買いに来るとはと店員はあきれた。


 ただアリシア話の通りだと、本格的な交易が始まる前に、少量ずつながらも魔術師が空間転移を使って買いに来るかもしれない。


「ウチの国と飛行船での交易が早く復活するといいですね」


 それを自分がぶっ壊したことから渋い顔をしたエリアスの背中をアリシアはポンポンとたたいた。


「もういいじゃん、そういうの」

「もう」


 終わった事、終わった事。


 バラバラになりかけた人が、ひとときのかりそめかもしれないけれど、とりあえずの平穏を迎えているのだ。


ただ沸いてきてしまった罪悪感を抑えるために後で、誰もいないところでぎゅーっとしよう、この英雄様を。


 それはともかく、この大豆のソースをちょっと味見させて貰うと、東日本によくあるさらっとした感じの製品だった。


 今いる通りを見ると、ぱっと見だけで3軒ほどの、大豆ソースを取り扱っているお店があった。奥まで行くとまだあるかもしれない。


 それぞれで味が違うのかは解らないけれど、今日はこのお店の大豆ソースを買っていく事にした。


 アリシアは小さな瓶が満杯になる程度のソースを買った。


「販売拡大のためになんかいい料理があれば教えて欲しいもんだね」


 これだけ買うということはアリシアには勝算があって、国の上層部に広めるつもりだろう。じゃあその勝算となるような料理を持っているのであれば、原産国としてはぜひ教えて欲しい。


「上手くいったらそうしますよ。でもその代わり他の国よりちょっとお安く販売して欲しいなー」


 買ったソースはもうちょっと小分けにして冷蔵保存すればいい。


 それと将来的な販売の為に、仕入れてから長持ちするように酸化を押さえる貯蔵用の魔工具を考えよう。


 アリシアとエリアスは早速味見をして貰うために、ヒルダが待つモートレルへと戻った。


 まずヒルダに天ぷらを天つゆで食べさせて、いけるようなら学院に相談して、ダメそうならこっちの人間向けに改良することにしよう。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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