大きな戦いが終わって -9-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
シャーロットが小樽校に復帰した翌日には、横浜校から2年A組の生徒35名がやってきた。
別に小樽校生が歓迎で出迎えるわけでも無く、空港からやってきたバスが演習所に入っていくだけで、生徒同士が会うようなことは無い。
とはいえ小樽校の注意事項の説明があるので、一部の生徒が教師に付き合うことになっている。
授業にいてもいなくてもいい生徒が。
「手の入ってない雪ってなんか美味しそうよね。綿菓子とかショートケーキのクリームみたいで」
金星の接近もあって、今年の冬は期間が限られてしまって、本来なら年始すぐから始まるこの雪体験の研修も今回は遅れてしまって、野外演習場には雪本番のためかこんもりと雪が積もってしまっている。
シャーロットの言うとおり、広い演習場に積もった真っ白な雪は表面が一面真っ平らで柔らかそうで、何やら美味しそうにも見える。以前に泊まりに来たランセル将軍も夜に、雪の積もった庭の景色に見とれていたと言っていた。雪が珍しい地域に住んでいる人には、視界一面の雪というのはとても魅力的に映るモノだ。
これから人の手が入るので崩れていくのだろうけれど、天気予報では今夜は雪なので、また明日の朝には表面が綺麗になっていることだろう。
説明の為に連れてこられたのはシャーロットと伽里奈。2人は座学の授業に出る必要は無いので、教師の手伝いで連れてこられてしまった。
それとは別に、もう大学へと進学していく時期が迫ってきている3年A組の、成績は学年トップだという依田という女子生徒が付いてきた。
「次はせめて神戸校を抜きたいところね」
3校による選抜大会は毎年6月にあるという。
競い合うといっても国内に魔術師育成高校は3校しかないけれど、ここ数年の小樽校はずっと3位。1位は当然ずっと横浜。この辺はどうにもならない。
「伽里奈君、シャーロットちゃんは…春までしかここにいないんだろうけど、今の2年生と1年生をよろしく頼むわよ」
「大学でも同じような大会があるんですよね?」
「時期は違うけれどあるわね」
「じゃあそっちは霞沙羅さんに任せることにしましょう」
「大学の方は大佐がやっているのね?」
「勤務の関係で霞沙羅さんがプロジェクトのリーダーじゃないんですけど、春からのカリキュラム改良に向けて監修してますよ。どうしても横浜大に一矢報いたいようなので」
予算のためには授業内容だけで無く、教育で結果を出さないとダメだ。
「また始業式の時みたいなイベントが定期的にあればいいわね。たった数ヶ月でこの学校はいい方向に変わったわ。出来ればもう1年早かったら良かったのだけれど、大学も変わるのならそれに期待ね」
先輩の依田はこんな事を言っているけれど、シャーロット的にはいい時期に来たモノだと思っている。
伽里奈がやったことがどうなるのかを見届ける事は出来ないけれど、レポートを読んだ父親だけでなく試験で説明した大学の教授達も関心を寄せているので、まずはこの高校で参加させて貰った設備作りをロンドンでも使えるように、日本にいる限りは研究していこうと思う。
さて、宿泊施設には既に横浜校の生徒達が入っていて、部屋に荷物を置いて座学用のセミナールームに集合している。
今日からここで実習をするにあたっての注意事項と、自由行動の為に小樽市街地の説明を聞いて、それから外に出て、まずは雪中歩行訓練となると聞いている。
施設の2階にあるセミナールームから見える一面の雪原に生徒達は驚いているけれど、ここは小樽。歩きで観光が出来るくらいだから道内ではまだまし。
ますは宿泊施設については、いつも使っている小冊子を配ってから、小樽校の教師が説明を行った。
横浜校に通う生徒といっても、関東以外からも集まるし、たまに北海道出身者も混ざっている事もあるけれど、町は坂道になっているから、自由時間に外の道で転んで怪我をしないように歩き方の注意もする。
「小樽校って、海外の子もいるんですか?」
見た目が明らかに日本人ではないシャーロットと伽里奈がいるので、生徒が聞いてきた。
「彼女はロンドンからの留学生ですよ。ホールストン家のご息女です」
横浜校のA組生徒ともなれば、現代魔術の本場であるイギリスにホールストン家という名家がある事は知っている。
というわけで、依田はちょっと自慢げに言ってみた。
「そんな子がいたんですか?」
「新城大佐に専用の杖を作って貰いに来たので、ここで学んでいるんですよ」
そういえば新城大佐が北海道にいた。
ホールストン家の人間が留学ともなれば、本来なら横浜校に来るのが当たり前だと思うけれど、そんな理由なら仕方が無い。
「そっちの…、男子? 女子っぽい生徒は?」
顔は女子。服装は男子なので、どっちなのか解らない伽里奈については、初めて見る人間からしたらどう言っていいのか解らないようだ。
「彼は…、横浜大の卒業資格持ちなんですが、本人の希望でこの高校の生徒としてシャーロットさんの指導をして貰ってます」
「な、なんですか、それ?」
大卒者が高校生とはどういうことなのか。
しかも姿は年齢的に自分たちと同じ高校生。
でも横浜大卒業者ということは、つまりは本物の魔術師。もう生徒である必要は無い。
「吉祥院中佐の推薦で、一年ほど前に横浜大の大卒試験を受けて、歴代トップクラスの…、新城大佐に次ぐくらいの成績をマークしたみたいなんですけど、どうしても高校の授業を受けたいという希望で、小樽校が受け入れまして、年齢的にも、まあ」
教師達もなんともまあ曖昧な説明しか出来ないのだけれど、とにかくそういう事。
ただまあ、小樽校の教師的にはそんなのがいるという説明をするのが楽しいようだ。
ある事件を境に、割と最近知ったことなのだけれど、ここ最近の横浜校にもいないレベルどころか、あのイギリスが誇る名家の天才少女を指導出来るようなハイスペックな学生が小樽校にはいるんだぞ、という自慢。
横浜校から来た教師達はこの後、このことを横浜大に問い合わせるのだろうか。ただ、吉祥院中佐という名前を出してしまっているので、間違いではないとは思っている。
小樽校という事で、どうせ田舎にある3番手の高校なんだし、とちょっと舐めてかかっていた生徒と教師がざわつきはじめた。
「あの…、ボクと研修は関係ないですから、のびのびとやっていってくださいね。雪国に赴任する事だってあるわけですから、安全に歩ける方法を身につけるだけでも大きいですから」
「え、ええ、そうですね」
「それと小樽運河のところとか、雪が積もって明かりがともって綺麗ですから、息抜きに見ていってくださいね」
「そ、そうします」
あれ、これだと次回の大会まずくない? という危機感をそこはかとなく抱いて、横浜校から来た2年A組は研修を始めることになった。
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