大きな戦いが終わって -7-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
今日の夕飯はシャーロットの希望でほうとうにした。
シャーロットがロンドンに帰っていた間に高校で料理実習があったから、楽しみにしていたのに作る機会が無くなってしまって、折角外も吹雪いていて寒いので、今日になった。
ほうとうの麺も本場山梨県の製麺業者のオンラインショップで買ってある。
杖を見に来たからその流れで魔装具の件で霞沙羅と話をしているのでルビィもいるけれど、癖のある味付けでもないし、食材も野菜とお肉だけだから多分大丈夫だろう。
ただ、酒飲みもいるから、ほうとうだけだと口寂しくなりそうなので、ザンギも用意した。
喜んで厨房に入って野菜を切っているシャーロットの手つきはまだまだだけれど、こうやって率先して料理をしようという気持ちは、来た頃とはかなり違っている。
「結局実家では何か料理をしたりしたの?」
「まあ、袋麺とかレトルトを使ったパスタとか。チャーハンの素は面白かったわね」
「何でもいいから料理を作ろうって思えるのは良いと思うよ」
「家族の人は袋麺もチャーハンも慣れていないでしょうから、頑張ったと思いますよ」
「そう? そうかなー?」
実家で作ったのはインスタントな料理だけれど、コンロや調理器具を扱うのに慣れるという事が大切だと思う。そのためには、まずどんな料理でもいいから台所を使ってほしい。
シャーロットも褒められてまんざらでもない顔をしている。
「野菜が切れたらこっちの出汁に入れて煮込んでいこうねー」
出汁にざっと野菜と肉を入れて、良い感じに煮込まれたら麺と味噌を入れて、また煮込む。
割とざっくりとした料理だけれど、インスタント麺よりはやる事が多い。それに「作っている」感は全然上だ。
「揚げ物も作りたいわね」
ほうとうの煮込みを見て貰っているので、揚げ物の方は伽里奈がやっている。
「そうだねー」
今後どの程度この館にいるのか解らないけれど、シャーロットはもう大学進学が決まったから、それまでの勉強のついでにもうちょっと料理を勉強するのもいいと思う。
レポートの中には料理の授業の事も書いてあったし、何より本人が望んでいるのだから。
これとは別に、料理に興味のあるライアの方は、自分で調理をする気は無いけれど、どうやって作っているのかは知りたいようなので、時間があれば芸術都市ベルメーンまで行って教えてあげようと思う。
* * *
「このミソとかいうものはフラム王国でも作れるのカ?」
「こいつが絶賛作ってなかったか?」
「分校の部屋で作ってる最中だよ。原料になる麦とか大豆もあるからね」
味付けにはそんなに癖のある料理ではないから、ほうとうはルビィでも問題なく食べることが出来た。
味噌もそんなに存在感を主張してくるわけ種類ではないし、入っている野菜もアシルステラでも似たようなモノは出回っているから未知のモノでも無い。
このもちもちした感じの太めの麺はこの出汁を吸っていい感じの風味を持っているから、向こうにはなかなか無いからルビィも珍しそうに食べている。
「体が暖まるな」
アンナマリーも野外演習でこういうのがあってもいいかなと思っている。
素人目にもこの麺はあんまり特別な手間がかかってなさそうだし、料理自体も正確さを求められる事はない。鍋一つに全部放り込んで簡潔しているのも面白い。
具だくさんでボリュームもあって充分にお腹を満たしてくれる。野菜が多めなのも体に易い感じ。
それにしても館の中は暖かいけれど、外の雪景色を見てしまうとなんとなく暖かいものを食べたくなってしまう。そういう意味ではこれはいい。
シャーロットはまた家族に料理の写真を送ろうとしている。地味で贅沢な見た目ではないけれど、今回も自分が色々と手伝った料理だ。
この鉄の鍋に入っている姿はなかなかの様式美を感じる。郷土料理というやつだ。どことなく田舎くささも感じるけれど、一人一鍋で出てくるのは面白い。
「今度は大豆醤油を手に入れに行くのよ」
伽里奈が、冒険者時代に行ったことのある国で食べたというので、エリアスの方で調べたら見事に互換品があったので、2人で買いに行く予定だ。
「お前、イベントの準備はいいのか?」
北海道・東北地域のファッション業界では大きなイベントだから、オフィスN→Sにとっても年明けからいきなりクライマックス状態。エリアスも頻繁に事務所に行っているからそんな時間はあるのだろうか、と霞沙羅は心配した。
「ほんの少しの時間なのよ」
「いやまあ…、そうだろうな」
確かに現地で手間取らない限りは、この女神にとってはどうという事も無いだろう。
「ところでアーちゃんはミソとかショウユとか色々やっているが、王宮ではブルックスの再開発に力を入れるとかで、呼び出しをくうかもしれないゾ」
「えー、そうなの?」
「冷蔵箱の改良も必要だし、この前もって来た大きな冷凍箱が町の発展に貢献しそうなんだト」
国に一つしか無い、海に面した大きな港町だけに、そこで獲れる魚介類の流通エリアが増えるという事に、ブルックスの未来がかかっている。
最近は飛行船も出来て、運搬用の飛行船の製造も急遽決まり、より多くの人間相手に商売が出来そうな事には漁業関係者の期待も上がっている。
例えばヒルダとか、地方領主も魚が新鮮なまま内陸の町に運べるなら買いたいと言っているようだ。
仕事が増えれば人ももっと集まる。増えた人口に対しての地元商売も始まる。周辺に畑も牧場も作る必要も出てくる。
漁港だけでなく、貿易港や軍港としての価値も上がる。そして広く魚介を売るためにも新しい料理が欲しい。なにせ内陸の町は川魚くらいしか料理が無い。
「あの国はそれなりに広いと思うのだが、なぜ港湾都市が一つしか無いんだ?」
「岩手県の太平洋側をイメージしてくれるといいんですけど、海側が山がちなんですよね。天然の要塞っていわれるくらいの崖が続いているんです」
「ブルックスは大きな川の終着点で、山が削られて、運ばれた土が堆積して小さい島々を巻き込んで広い平地が海に張り出してるのよ」
さすがに女神エリアスは地理を理解している。
「函館みたいなもんか?」
「広すぎですけどそんな感じですね」
「例えはよくわからないが、王国内にある町の産業が拡大するというのはいいな」
アンナマリーも子供の頃から何度も行っている町なので、漁業をやっている人間の収入源が増えるのはいいことだと思う。
なんと言ってもラスタルで食べる料理も増える。
この家に来て、魚料理にも色々とあるのを知って、伽里奈がやりたいことがあれば、親に口利きして貰ってもいいかと思っているくらいだ。
「伽里奈ってすごいのね」
「単に実家で魚が食べたかっただけだろ」
「えー、ひどいなー」
魚の流通が広がれば漁師達の仕事が増えるかなー、という考えはあったけれど、それが町の再開発にまでいくという考えは全く無かった。
「アリシア様、魔工具一つにブルックスの存亡がかかってますよ」
「アンナ…、アンナマリーは貴族育ちだからそう言うけどさー」
「小僧も貴族ではないのか?」
「そうなんですけど…」
「生け簀の作り方も考えた方がいいんじゃないか? 三浦の方の知り合いを紹介するぞ」
榊の言うとおり、海で獲ってきた魚を一時的に置いておく生け簀を湾の中に設置するのも、あの世界ではそんなに広くはやっていないけれど、まあそれは先の話。
なんとなく急に平和になった感じがするけれど、これが続くのかどうか、それはまだ解らない。
解決してないことがあるし。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。