大きな戦いが終わって -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
学校終わりにエリアスがオフィスN→Sの事務所に行くと、霞沙羅の事が話題になっていた。
テレビでは連日取材を受けているし、そのたびに戦闘シーンの映像が少なからず出ることが大きいのだろう。今日も神奈川にある在京キー局からの生放送だ。
「大佐は格好いいわねー」
今回はサポートによっていたために一歩下がっているので、戦場にいるにもかかわらず、案外と吉祥院が映像に写っていないけれど、今日も3人そろってテレビ出演して、もう何度目かになる当日の話をしている。
「吉祥院中佐も、このサイズ感があるせいだけど、実はスタイルはいいのよね」
「そうそう。それにあのサラサラの黒髪が日本人としては羨ましいのよ」
画面に映る吉祥院は相変わらずデカい。他の出演者が子供のように見える。
さらに体の線が出にくい服装をしているけれど、やはり所々にスタイルの良さは見えてしまう。
先輩が指摘している吉祥院の髪は、エリアスもたまにいじらせて貰う事がある。自分とは真逆の暗い色だからあれは興味深い。黒だからといって禍々しいわけでも無い、とても魅力的な髪だ。
何の心境変化があったのか、最近はあの妙な白塗りの化粧をしなくなったので、その結構お綺麗な和風美人な姿に、モデル業界でも評価が上がっている人でもある。
「社長は家族が無事で良かったですね」
吾妻社長の電話が終わったので、エリアスは声をかけてみた。電話の向こうはイベントの事務局のようで、事件の話とは関係ない。
「そうなのよ。新城大佐が何かを察知して、あそこに知り合いを配置してくれてたから良かったわ」
小樽の魔天龍ことフィーネの仕業だと言えば霞沙羅が余計な賞賛を浴びることも無かったのだろうけれど、本人が拒否したのだから、こればかりは仕方が無い。
まあ、軍の作戦で伏兵がいることはあり得ない話ではないので、その辺は誤魔化したところで深く突っ込まれるような事はないけれど。
「ウチの子供も試験前のラストスパートのいい起爆剤になったようだし」
「そうなんですか」
エリアス的にも、社長の反応を見ると、あの時動いて良かったと思っている。
そういう意味ではフィーネという女神は、実に女神らしい動きをする存在なのだなと、改めて評価したくなる。
「明日は磐田さんが来てくれるから、イベント前の最終調整をするわ」
「はい、わかりました」
金星接近では札幌でも色々と事件があったけれど、基本的に町は無事なので、当初の予定通りにファッションイベントが開催される事が決定した。
アンナマリーに王宮での仕草や作法を教えて貰ったり、先輩2人だけで無く霞沙羅にもモデルとしての動きも教えて貰った事は無駄にならなくてよかった。
もうあとはイベント当日に向けて最後の見直しをするだけだ。
この道に入ると自分で決めて、愛する伽里奈にも色々と手伝って貰ってここまで来たわけだから、これまでで一番いい仕事をする。エリアスはあんまりやった事は無いけれど、ここ一番の気合いを入れた。
* * *
シャーロット用に作っていた杖の最終仕上げが行われるという連絡をしたら、それを見る為にルビィがやってきた。
地球側の魔術については、初級段階の習得はもう終わっているので、時間はかかるけれど、頭の中ではアシルステラ側の魔術にするとどうなるのかの変換はある程度出来るようになっている。
伽里奈の時はもう少し時間がかかったので、この辺はルビィの優秀さが感じられるところではある。
「特にこれといった特殊機能が付いているわけではないんだナ」
この杖は何もしなくても雷の魔法が放てるとかそういう設計ではない。
「これは本人の魔術だけを増幅して効率的に放つのが目的の杖だからな。特別な力はつけていないが、ある意味万能型と言えるな」
持ち手の好きな魔法を強力に放つ。霞沙羅が作った魔装具としては地味だけれど、優秀ではあってもまだ魔術師の卵であるシャーロットが持つにしてはあまりにも高級品だ。
それに学院の賢者の中にもこういう方向の杖を好んでいる人間もいる。特殊な機能が無い代わりにオールラウンドな働きをするだけあって、一つの属性に偏らずにこれからの人生において末永く使えるのがいいところだ。
シャーロットは杖を手に取って、その出来を確かめる。
とにかく本人との相性を極限まで突き詰めた構造になっている。だからこの杖はシャーロットにしかまともに使えないけれど、増幅の効率はとても高い。
「学生にしては贅沢な持ち物ダ。この子はなんかすごい人間なのカ?」
「この世界の魔術の中心にイギリスっていう国があってな、そこで15歳で最終学歴の大学に行こうという人間だ」
「15歳…」
「ルーちゃん、前にも言ったと思うけどこっちの教育制度は向こうとは違うからねー」
15歳といえば、伽里奈もルビィも二人揃って魔道士であって、しかも学院の職員を休職して冒険者をしていた年だ。あの魔女戦争が始まった年齢でもある。
ルビィとアリシアは学院を13歳で卒業しているし、大概の生徒は16から18歳で卒業する。
15歳でまだ学生なのか、と考えてしまうのも無理はない。
「そうなのカ」
「吉祥院レベルとなると別だが、魔術師を目指す人間でも一応は小学校というところで12歳まで一般常識の基礎学習がいる世界だ。私でも16歳まで大学通いだったんだぜ」
「そういうことなら、事情はなんとなくわかっタ」
この霞沙羅が、その大学という機関に16歳までいたという事なら、このシャーロットもなかなかの才能の持ち主なのだなという事は理解した。
「それでいいか?」
最終調整としては、杖への本人登録の際に霞沙羅が最後に術式に手を入れた。
「向こうで杖はどうやって手に入れるんだ? 武器屋でも売っているのか?」
「武器屋ってなんダ?」
「無いのか、武器屋は?」
「大きい町だと魔術師がお店をやってたりしますからね、安いのはそこで在庫が売ってたりしますけど、経験を積んで少しでも良いのがほしいならお店に発注することになりますねー」
「あとはカサラ先生みたいな職人や、学院なんかにいる専門家に発注する感じダ。ある程度の魔術師となれば自分で作る事もあル」
「その辺はこっちと変わらないのか」
地球だと、短いステッキのような規格品なら学生用に学校の売店で消耗品のように売られている。
学校を卒業した後は、協会公認の魔術師向け専門店で買ったり、所属した組織課から支給されたり、実力者ともなればそれこそ霞沙羅のような職人に頼むのが普通だ。
「一大産業になるような業界じゃねえしな」
話を聞いて武器屋は無いのか、と霞沙羅は落胆した。
折角ファンタジーな世界に行くようになったのだから、武器屋とやらを冷やかしで見て回ろうと思ったのだが、そんなものは無いとか残念だ。
「霞沙羅はゲームが好きねえ」
「夢があっていいじゃねえか。店内に武器がずらりと並んだ、冒険者や騎士が日々訪れるような商売があっても」
「モートレルとかの大きな町の鍛冶屋さんなら、工房によっては在庫品が売られていたりますけどねー。工房の規格品ですけど、ヒーちゃんが騎士団に支給したりしますから」
「そうなのか? じゃあ今度モートレルを案内しろよ」
霞沙羅が見たところで面白いモノは売っていないと思うけれど、本人が観光気分で見たいというのであれば仕方が無い。最近は伽里奈も、アリシアとしていくつかの工房に顔が利くのでそこに連れて行こうと思う。
「とにかく、これでいいわ」
持ち手や長さ、重量については、ずっと調整をしてきたので、シャーロットには最適に出来上がっている。
魔力の増幅器を内蔵している、宝石を中心とした中枢部分も製造中に時々見せて貰って説明も受けてきたので文句はない。
「うーむ、さすが先生が新規に作った杖ダ」
触ってはいないけれど、見た感じからもルビィも納得の出来だ。
「キッショウインさんのあの杖も、あんな発想のモノは聞いたことがなイ。天望の座の人間も一度触ってみたいと言っていル」
「見て解っている思うが、あの防御壁のギミックのせいで、普通の魔術師が持ち運べる重さじゃないぜ。あいつの腕力と体格あってのものだ」
「さすがに持つ気はないだろうが、構造が気になル」
「あの杖はすごかったわね。あんな機能があるの知らなかったわ」
今回の報道で世界中にはっきりとわかってしまった。ただ数十枚の防御壁を制御しながら、空霜を操って、自分を障壁で守りながら霞沙羅達の戦闘を見ながら時々攻撃をしてくるとか、これを一人でやるのはかなり無理がある。その辺も規格外の魔術師である吉祥院ならではの武装なのだ。当然、仲間の霞沙羅が作ったからあそこまでの出来になったのだ。
「後でルーちゃんにも戦いの記録を見せてあげるよ」
「それは是非見たいゾ」
「まあとにかく、大仕事は終わった。イリーナとライア向けの拡張品も勝手に作ったが、いつかはお前ら向けの専用品を作ってみたいもんだ」
霞沙羅はアシルステラに出入りするようになってから、それからこちらでの大事件をいくつか経験して、いくつか試したいアイデアも書き溜めているので、それの研究を始めたいところである。
金星も離れていき、しばらくは軍の仕事は減るだろうから、研究時間もとれるだろう。
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