大きな戦いが終わって -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
二子玉川に突如として現れた3人組については、軍の人間ではなく、霞沙羅があらかじめ、何らかの陽動的な嫌がらせがあるだろうと予想して頼んでいた傭兵だという事で、その詳細が世間に語られることはなかった。
まさかフィーネがどうとか、伽里奈がどうとか、そんな話が国民に対してできるわけがない。
とはいえ、軍の方にはあの3人がなんなのかという説明は、エリアスの正体はさすがに言えないけれど、霞沙羅からされている。
それは寺院庁の管轄という事で、軍上層部だけの秘密となった。
ただ、鐘の幻想獣の件でサポートしたり、軍用の教育テキストを作ったり、災害現場向けの小道具を作ってくれた人物が、正真正銘、霞沙羅と互角の能力を持っていることが知られることになった。
もちろんそれが、一般兵に知られることはない。やって来たのはあくまで霞沙羅の知り合いとして処理された。
およそ一時間半ほどの会見が終わると、各局は通常の番組に戻った。
ワイドショー番組などは、この件についての検証や考察などをやるようだけれど、授業としての視聴はこれで終しまい。
「すごいことが起きてたんだな」
先日、札幌の町中で起きた幻想獣討伐とは違う、とんでもない能力を持った幻想獣、その完成態と2カ所で起きた戦闘を映像で見た生徒達の反応は様々。
霞沙羅達を格好いいと褒める者。あんなのと戦えと言われたら…、と驚く者。いつかは自分も、と奮起する者。
すべての魔術師が幻想獣と戦うことになるわけではないけれど、多くの生徒は将来、あんなのと戦うことになるから、いい勉強になった、と思われる。
伽里奈の方は、吉祥院の役割が面白いから録画してある番組映像をルーちゃんに見せたいなー、と呑気なもの。
あと、自分の姿があんまり大きく映ってなかったので安心した。
「皆さんそれぞれが様々な感想を抱いたかと思います。今日はその想いを家に持って帰って、これからの自分の方針を考えてほしいと思います」
担任が口にした言葉に、中瀬達クラスメイト達は黙っている。素直に怖いと思った生徒もいるだろう。
でも怖いと思えるという気持ちは大事だ。これから魔法を使うこと、戦うことの自分なりのスタンスを考えてほしい。
それでもって今後の授業を受ければいい。
そういう感覚が麻痺してしまっている伽里奈には縁遠くなってしまった思考なので、今後学院に関わる上で研究してみたいテーマではある。
* * *
今日も放課後には一ノ瀬と藤井、それと今林3兄弟とのお付き合いが待っている。
A組や大学生も先ほどの会見は当然のように見ているので、昨日よりも身が引き締まったような態度でやってきた。
彼らにはいい方向に働いたようだ。この5人は今も、将来的にも、それぞれの場所で戦い続けていくワケだから、気軽に撮れる映像機器がある世界であってもなかなか見る機会が無いという最高ランクの戦いをどう捉えるのか楽しみでもある。
さて、伽里奈としては引き続き土のゴーレムの調整が目的。そのために雪をどけていると、時間の空いている教師達も見にやってきた。
こちらも今度の教育をどうしようかという考えが顔に出ている。
「伽里奈君、大きいゴーレムは出来無いか?」
早速、今林の次男からリクエストが来た。
「あら、いいじゃない」
一ノ瀬もそれには賛成の様子だ。
「大きいのですか? この年始に作ったドラゴンくらいですか?」
「そこまでじゃなくても、いい、かな?」
やっぱりさっきの映像の影響かな、と考えた。
大きいという事はやはり恐怖を伴うもの。この金星接近では、蟹の幻想獣のような大きな敵に出会っているので、いい考えだと思う。
やる気のある申し出に対して、今日はこのところの天候もあって、また雪がこんもり積もっているので、スノーゴーレムに変更した。
でも借りている場所の関係でドラゴンは大きすぎないだろうか。あれは翼があるので、スペース的に無理がある。
ならばと、教師達も見守る中、とりあえず出来上がったのは、ミノタウロス2体だった。
「ブモオオーッ!」
声が出るように設計したので、空に向かって思いっきり咆哮した。
「「ええーっ!」」
身長は4メートルは軽く超える、牛頭の化け物の姿に、全員が後ずさった。
筋肉モリモリの腕には大きな棍棒が握られていて、やる気満々そうにブンブンと素振りをさせる。
「ドラゴンよりは小さめですけど、このくらいからにしましょうか」
「ちょちょちょ、伽里奈アーシア、何なのよこれ」
「ゲームでもたまに見かけるミノタウロスだよー。この前、霞沙羅さんが喜んでたよ。結局すぐ真っ二つにしちゃってさー」
それは本物のミノタウロスの話だけれど。
そして実のところ棍棒は中身スカスカのダミー品。人を殴っても砕け散る程度の強度しか無いので安心設計。
表面は真っ白だけれど、リアルに作ってあるだけあって夢に見そうな威圧感がある。
「大丈夫だって、威嚇するだけで攻撃しないから」
「そ、そうなのよね?伽里奈君のゴーレムだし」
信用はしているけれど。今回は動きがかなりいいので、藤井の目にはやはり危険な感じに見えてしまう。
「棍棒は振り回すから、近寄らないでね。あーでも強度は発泡スチロールみたいなもんだから、当たってもちょっと痛いくらいかな」
ずいぶんアグレッシブな態度をとるから驚いてしまったけれど。伽里奈製のゴーレムだから攻撃の思考は組み込まれていないし、決められた範囲から出ることはない。
「し、新城大佐がどうとか言ってたし」
その新城大佐達の活躍ぶりに触発されているからこんな事を言ったのだ。
日本の英雄3人が余裕の表情で相手をしていた幻想獣はもっとずっと大きい。霞沙羅と榊は軽々と受け止めていたけれど、あんなののパンチ一つで人は砕け散るだろう。
そういう映像を見たばかりの今林3兄弟はとりあえずやってみることにした。
変な蟹やワニとだって戦ってきたじゃないか、と。
まあとにかく、伽里奈が発案したゴーレムの授業は敵と対峙することに慣れることも含まれている。
これまではVR機器を通したシミュレーション頼りだったけれど、それを実際の物体とすることで、幻想獣というモノを脳だけじゃなくて体にたたき込む。
正直、ここで怖じ気づかない学生がいたら、ちょっと頭のネジが飛んだ人だろう。今はこの反応でいいのだ。
「しょ、しょうがないわね」
5人はやる気を出して、攻撃の準備を始めた。
この金星接近を経験して、学生達は少しずつ変わっていくだろう。
ただ伽里奈の方は果たしてこの春以降はどうなってしまうのか。
今のところ伽里奈に出来るのは、自分の経験と技術でもって彼らの背中を押してあげることくらいしかない。
まあ自分が感覚のおかしな人間だとバレないように、学生達をバックアップを続けよう。
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