あとはぶっ潰すのみ -9-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
白い幻想獣が助けを求めたかった、二子玉川にいる獅子舞顔の幻想獣の方は、今度は伽里奈に脚を切断されて、再度のダウンをした。
そこにシスティーが投げたビルの残骸が降り注ぐ。
「{氷晶群舞}」
さらに伽里奈の魔法が発動し、倒れた幻想獣の上を、鋭く尖った大きな氷の結晶十数個が、ぐるりと回ったところ、一斉に突撃した。
「グアッ!」
全身に深々と刺さった氷が、幻想獣を地面に繋ぎ止めた。
「こっちは後ろに人がいるから、さっさとやっちゃおうか。システィー」
伽里奈の手に青い剣がやって来て、システィー本人は地面に溶けるように消えていった。
何といってもシスティーは大きい。
地球では知られていない星雫の剣が目立つわけにはいかないから、とどめはこっそりやることにした。
「エリアス、折角だし一緒にやろうか」
伽里奈がエリアスをすぐ横に来るように招く。
「何をするればいいの?」
「初めての共同作業ですか? エリアスさんは想定外なので手加減でお願いします」
青い剣を通してシスティーが注意してきた。
「ボクとこの剣を握って、ちょっと力を込めてくれる? ちょっとでいいからね」
「え、ええ」
ちょっとってどのくらいだろうか。
エリアスは集中して、恐らく伽里奈ならこのくらいかなという程度の力を、ほんのちょっとの力を指先に込めて、握った剣に流した。
「おおー、これはちょっと、お二人の愛を感じますね」
「そういう冗談はいいから」
「いやー、エリアスとこういう事出来るの、いいなー」
魔女ソフィーティアを倒すためというシスティーを、結局戦うこともなかったソフィーティアことエリアスと一緒に手にしての共同攻撃。
「ではご両人、ケーキ入刀ということで」
「ちょっとー、変なこと言わないでー」
青い剣を掲げると、二人とも同じ黒のドレスを着てしまって、ウケ狙いなお色直しをしてしまったバカな新郎新婦のようにも見えてしまう。
「はいはい。いくわよ、私の旦那様」
二人で握った青い剣を振るうと
「ライジングサン」
の言葉と共に、地中で剣の姿になったシスティーが地上に飛び出てきて、獅子舞の幻想獣の背中から胸を大きく貫いた。
そこに二人から供給されたの魔力を開放し、破壊の力を幻想獣に無理矢理流し込む。
「ムオオォ!」
悲痛な叫び声を上げるが、容赦の無い莫大な魔力に耐えきれなくなった幻想獣は光となって爆散した。
* * *
「向こうは終わったようだぞ」
二子玉川にいた幻想獣の反応が消えた。その直前に大きな魔力が膨れ上がったので、これは伽里奈達の仕業だろう。
結局の所、川崎市には何の被害も出ることは無かった。
戦闘があった場所はシスティーが建物の残骸を投げまくったせいで、上野よりもかなり酷いことになっているけれど、どうせ元々廃墟だ。
「霞沙羅、こっちもそろそろ終わりにするぞ」
「そうするか」
霞沙羅達は少しペースを上げた。
斬撃の速度が上がり、白い幻想獣はそのペースについていくことが出来なくなり、ザクザクと斬られ、修復が間に合わなくなってきている。
「ぐう、うあアっ!」
こうなったらと、渾身の力を込めて地面を殴ってその付近を吹き飛ばし、へこんだ部分から地面を掴んで、アスファルトの路面をひっくり返すように、打ち上げた。
「おうおう、もうやることもないようだな」
地面とともに空中に投げ飛ばされるような形になった霞沙羅達。
結界の中にいた吉祥院も、立っている地面が剥がされては、さすがに巻き込まれてしまっている。
空中でバラバラになったアスファルトや土も舞っているが、それぞれが大きめなパーツに移動して一時的な足場にした。
「よし、やってみるか」
霞沙羅はライアの動きを参考に、重力の方向を変更し、白い幻想獣に向かって高速に落下していった。
長刀に魔力を流し込んで、更にその光の刀身を長く伸ばした。
「おおっしゃーっ!」
落下しながら、霞沙羅は長い長い長刀を振るうと、幻想獣の頭から股まで一直線にざっくりと斬った。
「ぐああーっ!」
さすがに絶叫をあげつつも、何とか修復に移るが、霞沙羅を負うように足場から飛び降りた榊が、同じように長い長い刀で、霞沙羅がつけた傷のすぐ横を深く斬った。
「ぐおおおっ!」
嫌がらせのような場所を斬られて、再び絶叫する。
「空霜、やってしまえ」
足場を離れ、空中に浮いた状態の吉祥院が空霜を、上空から突撃させて、幻想獣を貫いた。
「こいで終わりだわよ」
空霜の全身から、周囲が見えなくなるほどの眩しい閃光をあげて放電が起こり、白かった幻想獣は中まで真っ黒の炭になり、そのまま灰になって空に消えていった。
「周囲に反応無し。准将、終わったでがんす」
ゆっくりと地面に降りてきた吉祥院が通信端末で司令部に連絡を送った。
向こうの作戦室からはオペレーター達のホッとしたような声が漏れてくる。
少し離れた所にいる、先行部隊達からの追加報告や映像、状況を見て再び飛行を開始したヘリからの報告をもって、周囲の幻想獣の完全排除を確認し、この「安らぎの園」による事件は一応の終了となった。
問題となる通販会社の方は警察任せ。時間はかかるだろうけれど、組織の全容は暴かれ、ついでに芋ずる式に出てきた他の組織の捜査も行われ、こんなくだらない人間達による事件は、しばらく無くなることだろう。
「実際向こうは何をやったんだろうな」
伽里奈達の方だ。
リーダーとなる幻想獣の能力はこっちの方が高かったけれど、向こうは数が多かった。
「エリアス殿が何をしたのか気になるでやんす」
女神であるエリアスは果たして目立たずに済ませたのだろうか。
伽里奈はいつも通りだろう。
後はシスティー。とても好戦的だという話だが何をやったのだろうか。
「あの3人はとっくに帰ったようだぞ」
空霜にはシスティーから連絡が入っていた。
川崎が近いこともあって、軍だけでなく報道機関も結構集まっている事もあって、あんまり長居してもいい事は無いので、さっさと小樽に帰ったようだ。
「私らは横浜に帰るか。軍人には報告義務があるからな…」
一緒になって帰りたいところだが、自分らは軍人。
後片付けは現場担当に任せるワケだけれど、色々と軍事機密となる事情を話さなくてはいけない。
さすがに二子玉川の件は、エリアスの素性以外は誤魔化すことは出来ないだろうが、寺院庁は把握しているからその辺はちょっと協力して貰おう。
「これでしばらく終わりだ。明日食う料理くらい伽里奈にリクエストして、書類仕事に邁進するとするぞ」
面倒くせえな、と思いつつ、組織の決め事でもあるので、霞沙羅達は、集まってきた先行隊の面々に引継ぎをして、横浜に帰っていった。
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