あとはぶっ潰すのみ -8-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「地元民としてアリシア君達には負けられませんなあ」
吉祥院は遠くまで意識を飛ばしたので、二子玉川の方の状況が解った。
あれだけ多かった幻想獣は、もう大きな反応一個しか残っていない。
「な、ナんだ、向こうで何が起コっているんだ?」
白い幻想獣も、神奈川に進撃するよう事前に依頼していた幻想獣達が、もう本人一体しか残っていないことに驚愕した。
「あいつはあんなにタめ込んでいたのに」
仮面の男手引きで、来るであろうこの3人を動揺させるには充分すぎる数の幻想獣が揃っていたはずなのに、それが出てきて数分で全滅だ。軍に一矢報いるどころか、なんの被害も出なかった。
「向かう方向を間違えて、余計な奴を呼んじまったんだよ。これが埼玉か千葉方向だったら大きな損害も出たんだろうが、あっちに向かわれると具合の悪い奴が2人いるんでね」
正直、霞沙羅達への嫌がらせをするとなると選択の余地はなく、首都である神奈川方面一択しかないが。
「通販会社の社長さん、ご愁傷様でござるな」
「ぐぬうぅ」
幻想獣の完成態であっても、旧二子玉川付近で戦っている、強大な力を持っている相手が何なのか、何をやっているのかが解らない。それはそうだ。アシルステラの…、余所の世界の女神だ。
ただただなにかヤバイ相手がいるとしか解らない。それになぜかこの星にただ一つ、すぐ側にいる空霜しかいないとされる星雫の剣がもう一本存在している。そんな話は聞いていない。
「わ、我らの、理想が、夢が」
取り込まれた仮面達の考えが表に出たのだろう。これまでの幻想獣とは違う台詞を口にした。
「このタイミングで警察が会社に踏み込んだらしいな。かなり慎重な組織だったようだが、これでもう次は無くなったな」
軍からの連絡で、警察が組織へと踏み込んだようだ。
これでもう、ダメならまたいつか、の為に残した同志達も終わりだ。長い時間をかけて同志を集めて育てた組織が、もろくも崩れ落ちていく。
「ゆ、許さん」
「どう許さないんだよ、ふざけやがって」
「静かに会社経営をしていれば、人生安泰だったんじゃなかったのか? 張り込みをしていた知り合いからは、社員が生き生き仕事をしていて、踏み込みづらいと言ってたぞ」
「調べれば、いい商品を買い付けて取り扱って、けっこうホワイトな会社経営をしておいて、一体この世の中に何の不満があったべか?」
「狂信者の理屈なんぞ知るか。何を聞いても屁理屈にしかならん」
フィーネの癇に障るような事がなければ、川崎市やその先の横浜市が甚大な被害を被ったはずだ。ならば、どういう会社を営んでいようが、やろうとしたことは立派なテロ行為。
この連中が関わった事件でこちらの被害が出ていないわけでも無い。同情の余地は無い。
「会話をしていても仕方が無い。ウチらでやってしまおうじゃないか」
「余所者に話題を持って行かれるのも何だしな。ほれ行くぜ」
早めに仕留めるために、霞沙羅と榊が突っ込む。2人とも武器のリーチが長いので、お互いの距離を開けて、ほぼ左右に分かれた。
吉祥院は空霜を操りながら、杖から防御壁を出して、前に出た2人の邪魔にならない程度に、防御を担当する。
「コのっ!」
白い幻想獣は、二人に負けじと大きな剣を振るうが、弾き飛ばすことも出来ずにしっかりと受け止められてしまう。
そこでつばぜりあいをしようモノなら、もう片方が踏み込んできて、深々と斬撃をくらってしまうから、すぐに場所を移動しないといけない。
取り込まれた仮面達の、とっくに一つの塊になってしまった意志は「噂でしか聞いたことがないが、実物はこんなに強かったのか」と今更ながら霞沙羅達3人に戦慄する。
なぜこんなに大きさが違うのに、パワーで押せないのか。霞沙羅と榊の2人はまさに化け物だ。
「ぐおっ!」
霞沙羅と榊に集中していると、視界の外から飛来した空霜に左腕をごっそり持って行かれた。
白い幻想獣が地団駄を踏むように何度も地面を踏むような動作をすると、周囲の地面が炎の海になるが、そこは吉祥院が飛ばしていた防御壁の上に、霞沙羅と榊が乗ってしまって回避された。
しかもこれは最近使い始めたという、対マリネイラ用の防御魔法が掛けられてて、幻想獣の攻撃には恐ろしく強固な障壁となる。
さらに吉祥院は自分で結界を張りつつ地面に立っていて、杖を振るって一帯に大量の水をばら撒いて、炎を消化した。
「お、まだ元気じゃねえか。今回は楽しませてくれるねえ」
幻想獣は左腕を再生させた。
と思ったら、防御壁に乗ったままの霞沙羅達がバックしていく。
「グオアッ!」
上空から空霜が豪雨のような雷撃を降らしてきた。
雷撃が終わった後の、白かった幻想獣は真っ黒になっていたけれど、脱皮したかのように表面が剥がれ落ちるような再生を行った。
それにしてもこの3人は大きい存在と戦い慣れている。
これは厄災戦を終わらせた霞沙羅達3人ならではの経験だ。
霞沙羅と榊は防御壁から降りると、お互いの位置を交代、左右逆になって斬撃を加えてきた。
斬られて再生、斬られては再生、空霜に刺されては再生という、防戦一方になってしまった。
「ぐう、クソッ! こ、こんなハズでは」
大火力をウリにしているハズの吉祥院が、前衛の2人の動きを読んで、魔力が籠もった防御壁でしっかりと守り、本人は強固な障壁の中なので、下手に狙うことが出来ない。
そして強固な結界の中からは、空を飛びまわる巨大な空霜を操ってくるので、手数で負けてしまう。
「こ、コノままでは…」
さすが完成態の中でも強力なだけはあって、まだ原型が崩れていくような事も無く、かなりの耐久力を持っている。
それだけに幻想獣はまだまだ倒れることはないが、こうも劣勢が続くと、いつか魔力が削り尽くされてしまうか、弱ったところに空霜の必殺の一撃が来るだろう。
そして嫌なことに、霞沙羅達はペースを変えない。「奴は手も足も出ないぞ」と喜び勇んで大振りで隙丸出しの一撃を加えてくることもない。ただただ淡々と攻撃を加えて、力を削ってくる。
もう一体に助けを求めることは…出来ないものなのか。
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