あとはぶっ潰すのみ -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
霞沙羅達の戦闘が始まった裏側で、こちらは川崎市の溝口に向かって、一際大きな幻想獣、その完成態と、無数の大小様々な幻想獣が押し寄せてきた。
旧23区がこんな状況だから、多摩川沿いには軍も待機していたのだけれど、なにせ多摩川沿いといっても距離も長く、ところどころに展開されている状態。
それが急に溝口だけに集中されてしまうと、さすがにすぐには対応出来ないし、対幻想獣部門の人間というのは、一般的な防衛を担う人員に比べると少ない。
通常の銃火器でも対処は出来るけれどそれにも限界がある。成長態ともなれば、手持ちの銃火器では火力不足で無理が出てくるし、マリネイラの魔力を使用した攻撃を防ぐ手段は、ただの人間には無い。
他の隊にも応援を要請しているが、感知器には驚くほど多数の光点が表示され、多摩川に迫ってくる。
「ちょっとお邪魔しまーす」
これはまずい、と目の前に迫る状況に混乱する現場に、黒いドレスを着た伽里奈が滑り込んできて、軍人達を無視して多摩川を跳び越えて、対岸の二子玉川へと入っていった。
その後ろからは灰色の髪に羊のような角を生やし、シンプルでやや肌の露出の多い黒いドレスを着た魔女装束のエリアスと、メイド姿のシスティーが飛んで追いかけていく。
「な、なんなんだ、あれは」
あまりに迷いの無い速さで通り抜けてしまい、誰も止めることも出来ずに、見送るしかなかった。
それに徳佐准将からも連絡が入っている。
報告に該当する人物なのだろう。
曰く、霞沙羅達3人に匹敵する強さを持つ傭兵が現れるという。
その人物が現れたら黙って通しなさい、と言われている。
兵達は呆然と、伽里奈達が去って行った方向を見た。あんな数の幻想獣に3人だけで立ち向かおうというのだ。
「ボク、その姿のエリアスも好きだよ。たまには上下黒セットも着て欲しいなー」
「こんな時に言わないの」
そういえばやどりぎ館に住んでから一度も伽里奈は魔女の姿を褒めてくれたことはなかったから、てっきり嫌なんだと思っていた。
実際はエリアスに魔女時代を思い出して欲しくなかっただけだったりする。
「角はぶつけたら痛そうだけどねー」
「頭突きなんかしないわよ」
フィーネに対して「白が良い」とか言っていたけれど、白が好みというわけではないのだ。
だったら一度、黒で攻めてみようか。
自分はあの1年間の事があってこういう黒い服は嫌いだったけれど、伽里奈が好きだというならいい加減それもありだ。
今後、モデルの仕事をするのなら黒は嫌だなんて言ってられないし、それなら伽里奈のために黒の服も増やしていこうと思う。
「エリアスは、ボクが一時的に漏らした幻想獣を、あの安全地帯のフェンスから先に行かさないようにしてね」
「撃破もするわよ」
「浄化だよねー」
女神なんだから、撃破なんて言うモノじゃない。
「システィーは、変身は最後の一回だけかな。この国には星雫の剣は空霜しかないことになってるから」
「わかりました」
システィーはあの大きな剣の人間形態だけあって腕力だけでも、そこら辺に転がっている、テナントビルの倒壊してむき出しになった鉄骨を投げつけることくらいは楽々出来てしまう。
何といっても周りには巻き込んで困るような住民が誰もいない旧23区。犠牲者が出ることを気にする必要は無い。
投擲する建物も既に壊れているから、壊したい放題だ。
「ほーい、平和の邪魔だよー」
伽里奈は愛用の魔剣から発生する黒い刃を伸ばし、横薙ぎに振ると、軽く10を超える幻想獣が真っ二つになり、灰に帰った。
「まあ私は、旦那様のサポートって事で」
エリアスは控えめに、浄化の奇跡を込めた光を放って、数体の幻想獣を消滅させた。
「人の状態で戦うのは、これまであまり無かったですね」
システィーはその辺に転がっているビルの壁や柱を空高く放り投げて、落下した衝撃で幾つもの幻想獣を潰していった。
これは後方にいる軍からしてみると、恐るべき事態だ。感知器から幻想獣が次々と消えていく。
あまりの早さに一体何なんだ、と言ったところだ。
こんな事が出来るのは霞沙羅達3人くらいなモノだろう。でも今は上野にいる。じゃあいったい誰なのだ。そんなのがいるという話は聞いた事が無い。
准将からは「霞沙羅の指示で動いている者」だというから、傭兵という言葉を信じて良いのだろう。
上野には巨大な幻想獣が発生したと連絡を受けているが、こちらも同様に巨大な存在が進んできている。
とにかく今は、多摩川を越えて川崎にやって来るような幻想獣がいればそれを潰すことに専念する。
軍人達はこちら側への侵入がないか、注意するしかない。
そんな中、空に飛び上がる幻想獣もいるけれど、エリアスの浄化の奇跡であえなく消滅していく。
「ボクの魔法とは全然規模が違うなあ」
浄化というとモートレルで使用した「浄化の匣」があったけれど、あれとは全然違う。
「一応女神なのよ」
エリアスが方向を指さすだけで、その方向にいる幻想獣が、幼態成長態関係なく、なんの抵抗も出来ずに、塵になっていく。あの時、もし天空魔城で戦闘になったとしたら、エリアスはどういう攻撃をしたのだろうか。手加減はしてくれたのだろうか。
「あれってどうします?」
残りも少なくなっていく幻想獣の奥には、全高30メートル以上はありそうな、完成態の幻想獣がいる。
顔はなぜか獅子舞のような仮面になっていて威圧感だけはある。太い尻尾もあって怪獣みたいだ。
そいつの口が開いたら、いきなり猛烈な熱線を放ってきた。
「うわっと」
伽里奈は横に移動して、回避。
後方にある町まで届きそうだったので、エリアスが障壁を張って止めた。
熱線が通り抜けた場所は大きく抉られたけれど、障壁のおかげで多摩川の向こうには何も届くことは無い。
ただ、あんまりエリアスの強すぎる力を見せるわけにはいかないので、早めに終わらせるほうがいいだろう。
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