あとはぶっ潰すのみ -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「始まるようね」
それはエリアスの方でも観測した。
「そうなんだー。軍の中の状況は解らないけど、阻止できなかったんだねー」
「まあフィーネさんがここにいろって言うくらいですからね、そう決まっていたんですよ」
それからしばらくして、警戒用のスピーカーや、この為に設置されている、いつもは広告を流している大型ビジョンから警報が鳴り響き、そして駅前をゆく人のスマホが一斉に緊急警報を受信した。
この周辺の人間は、とにかく少しでも旧23区から…、多摩川から離れるようにと警告文が表示される。
「な、なんだってっ!?」
人々はスマホに送られてきた情報を確認すると、足早に駅前から去って行く。
この辺はさすがに旧23区に近い場所に住んでいるだけはあって、皆さんの判断は速い。日常的にある程度は避難しなければということが頭にあるようだ。
溝の口駅前は多摩川からは多少離れているからまだいいけれど、近場の避難所を確認し、そちらに向かっていく。
鉄道もバスもすぐに運休になった。
やがて、ここより多摩川に近いところにいる人達も移動してくるだろう。
とりあえず伽里奈達は、駅前にあった商業施設の屋上に移動して、高いところから状況を確認することにした。そこまで高い建物では無いけれど、多摩川より向こうが見える。
足下の道路では、ビルやマンションなどからも人が出てきて、避難が始まっている。
「この辺にいろって事は、上野からこっちに飛んでくるのかなー」
「それは無いでしょう。だったら霞沙羅達にはここにいろと言うでしょうしね」
「私達が本命を倒すようなことはあってはならないですよ。マスターも嫌でしょう?」
「そっかー。あと本来は、この前マネジメントでお世話になった吾妻社長の家族を守れ、って事だしね」
完成態の影響を受けて幻想獣が発生するか何かだろう。とにかく今は、異変が起きるのを待つしか無い。
「エリアス、頼りにしてるよ」
「貴方にそんな事を言われる日が来るとか、誘われて日本についてきた甲斐があるわね」
結局直接戦うことは最後までなかったけれど、大陸を狙う魔女として敵対した相手と、こんな所で共闘するというのが面白い。
でも今回はエリアスが守るべきモノのある戦い。前回とは違うのだ。
イベントを事務所全員で成功させるために、力を使う事にためらいは無い。
* * *
元々野外ステージがあった場所に転移をした3人は、池の中から上半身を出している、白い巨体を見た。
まだ池の中から出てきている最中だから、泥にまみれているけれど、毛のない頭と虚ろな左目、顔の右半分は赤い仮面を付けているようなデザインだ。
体は完全な人型。腕が多かったり、羽が生えていたりもない。泥から出てきた脚も2本だけというシンプルな姿。尻尾もない。
人間を多く取り込んで、その情報を元に人間に近いこの姿になったのかもしれない。
次第に不忍池の水はなくなっていき、底から乾いてひび割れた地面が姿を現した。
「完成態だし、まあデカいわな」
身長は見上げるほど。全高50メートルはある。
東京が現役の頃だったなら、周辺にあったビルに姿が隠れるような事もあっただろうけれど、今は周囲の建物が軒並み倒壊しているから、少し離れた所にいる軍人達にもその姿をさらしている。
「それでどうすんだ、言いたいことはあるのか?」
「ワシはこの者共が願う理想の土地を作る者なり」
幻想獣は自分の胸を大きく叩いてそう言った。
「そうかい。言い返すのは面倒だが、ここを廃墟にしたのはお前らだぜ。幻想獣ごときに町を作るオツムなんぞねえだろうが」
安らぎの園は本当に幻想獣に理想郷とやらを作らせる気だったのだろうか。作れるのはせいぜいが自分が持つ武器だけ。あとはあるモノを利用するだけ。
何かを作る能力というのは、いくら人が想像したところで、マリネイラが叶えることは今の所は無い。
厄災戦がどう始まったかは知っているけれど、だからこそそれは無い。この崩壊したままの町が全てを物語っている。
「それにはお前らが邪魔だ。デハ死ね」
白い幻想獣は取り込んだ物体を使って、右手から青竜刀のような曲がった剣を作り出して、振り下ろしてくる。
それを榊が、機能を起動した刀から発生した光る大きな刀身をもってしっかりと受け止めた。
「ぬう、やはり英雄と呼ばれるだけはある。ヤルな」
3人が日本の英雄である事を幻想獣は知らないハズだ。やはり取り込まれにいった人間の知識がそう喋らせるのだろう。
剣を引いた幻想獣が、続いて南方面に向かって耳をつんざく音量で、大きく吠えた。
「おっと、多摩川方面に大きな反応が発生だわい」
まだ人間形態の空霜が、幻想獣の反応を感知した。
どこにいたのか、完成態の幻想獣一体と、それを囲むように多数の幼態や成長態が発生…、というか地面から姿を現した、らしい。
この白い幻想獣が仕込んでいたか、あの仮面が入れ知恵をしていたのか、そのどちらかか。
先日も討伐をしたというのに、まだ潜んでいたのかとうんざりする。
「ふふふ、ドうする、英雄達よ?」
「安らぎの園」による計画を阻止するために、戦力をここに集中させていることは解っているようだが、こちらとて何もしていないわけではない。
今回は自分の代わりとなる仲間がいるのだ。
「悪いんだが、こっちには話がわかる面倒見の良い神がいるんだよ。お前が仕込んだ場所には人類を滅ぼそうとした女神とそれを止めた英雄、そいつの剣が待っている。残念だなあ、あの程度では話にならんぜ」
「ワタシらは後ろを気にする必要はないんだよね。さっさとやっちゃおうじゃないか」
「考えた末がこの程度だとはな。俺たちを出し抜こうとしたにしては、随分と甘い見通しじゃないか」
「この前は随分とひょろい奴がおったな。今回のお前は少しは楽しませてくれるか?」
空霜は巨大なトライデントに変形し、操作用の小型トライデントが吉祥院の左手に現れた。
吉祥院は杖とトライデントの二刀流状態となった。
「おっし、やるか」
霞沙羅も起動した愛用の魔装具の長刀で攻撃を開始した。
体格としてみれば、この白い幻想獣とは全く違うけれど、発生する刃渡り20メートル近くにもなる光りの刀身でリーチはカバー出来る。
榊が前に出て、長い刀で切りつけるのを幻想獣は剣で受け止める。そうすると上から空霜が突撃してくるので、後退しないといけない。
その隙間を縫って、霞沙羅が追いかけてきてとても長い長刀で突きを繰り出してくる。
それを捌くと、吉祥院の魔法が飛んでくる。
「ぐおっ!」
巨大な火球が胴体に命中し、遠目にも見えるほどの大爆発が起きる。その衝撃に幻想獣はたたらを踏む。
「この、人間が」
幻想獣は自分の周囲に無数の火球を生み出すと、それを無差別に放ってきた。
「ウチにまかせんしゃい」
空霜が大きく回転を始めると、火球は霞沙羅達に降り注ぐことなく、全てを防いだ。
「お前はでかすぎるんだよな」
幻想獣の倍近い長さのモノが回転したので、そのカバー範囲は広い。
その隙に榊が接近して、刀で大きく薙ぎ払い、幻想獣の右の膝から下を切断した。
「おおおっ!」
幻想獣はバランスを崩して、転倒した。その衝撃で周囲の廃墟が大きく揺れ、一部崩れた。
「おのれいっ!」
とはいえ、持ち前の再生力ですぐに右足が生えてきた。
切断された方の脚は灰となった。
その間に幻想獣は空へと逃げたが、空霜にハエ叩きのように叩かれて地面に落下した。
「チトセは操縦が荒い」
「こ、こんなモノでは」
実際これだけ大きいと、どこを狙えば良いか迷う。
霞沙羅が寄ってきたところを、倒れたままの幻想獣は腕で薙ぎ払った。なので、霞沙羅は大きく後退する。
「むんっ!」
白い幻想獣は更に、力を入れて地面を殴ると、幻想獣の周囲が衝撃で爆破されて、周囲の地面や近くの倒壊したビルの破片が飛んだ。
「面倒くせえなあ」
厄災戦で最後に戦った、観測史上最強と言われる幻想獣ほどの力は無い。けれど、「安らぎの園」が大切に取っておいただけはある。
倒せない相手ではないけれど少々手間がかかりそうだ。
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