あとはぶっ潰すのみ -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「それでは我々はここで」
「うむ、ここまで来て申し訳ないな」
「申し訳ないことなどありません。是非成功を。それだけです」
上手く行けば40人全員で融合し、巨大な力の一つとなる予定だったのだが、地上を歩いている時に軍のヘリや航空機が上野周辺を飛び回っているのを見てしまった。
まさかカナタ達が深夜での侵入時に警察に通報をしているせいだとは思っていない。
ただ、あれだけの人間が逮捕されてしまったので、情報が漏れてしまうのも仕方が無いかもしれない、と結論づけた。
だから、これも最初から想定していたように、ここで15人と別れる事になった。この15人は公園内にある廃止となった小さな地下駅の駅入り口から飛び出して、目的地の反対方向に移動し、命をかけて捜査の攪乱を行って貰う。
あのカナタとかいう道具屋から買い取ったシールがここで活躍する。一時的とはいえ貼付した人間の戦闘力を引き上げるあのシールで少しでも、本命である自分達の進行を誤魔化して貰う。
いくら向こうも正確な人数までは解っていないと思う。だから15人もの人数が固まっていれば誤魔化せるかだろう。
仮面の男は目的地まで連れて行くことが出来なかった15人とそれぞれ握手をして、日暮里から外をやや大回りして目的地の不忍池まで移動する道を選択した。
囮となる15人はそれぞれの武器を持って、地下の鉄道用トンネルを進み、仮面の男達25人は外を行く。
上空をヘリが哨戒しているから、気をつけて進む必要はあるけれど、こちらはどこを通れば最短でたどり着けるか解っている。
ヘリはどうしてもエンジンの音がするので、それに気をつけて進めば大丈夫だろうし、多少なりとも幻想獣が出現しているので、そちらにも目を向けるだろう。自分達は焦らず慎重に進めばいい。
「あと少しだ」
「ええ、参りましょう」
仮面達は同志達に別れを告げて、目的地に向けて歩き出した。
* * *
上空にいたヘリから、厄災戦以前に閉鎖された、公園内にある地下駅の入り口が中からぶち破られて、そこから博物館があった方向に十数人が向かっていると連絡が入った。
「そういやあんなところに出入り口があったなあ」
霞沙羅は鉄道に興味が無いから微かな記憶しか無いけれど、厄災戦前には時々あの下にある廃駅に行くようなイベントもやっていたから、扉の封鎖はそんなに頑丈にはされていなかった。
6年以上も誰も管理をしていないのだから、中から鍵を破壊されていても仕方が無い。
「十数人と言ったな?」
オペレーターの報告に准将は反応した。
徳佐准将も旧23区に侵入した人数が、カナタ…市民からの通報のおかげで40人だと解っているから、即座に陽動だと判断した。
残りの25人がどういう動きをするのかは解らないけれど、相応の人員だけを割き、本命の捜索を続けるように命令した。
「あいつらホントに手助けしねえな」
水瀬カナタ達の話だけれど、横浜大での宝物庫襲撃からずっと何もやってない。
教戒の杯という魔工具も、必要な宝物が足りないというのに、その代用品を作ったのはアイザックだ。
設計図は納品時に渡したのだろうけれど、大学に侵入したあの日以前からずっと、「安らぎの園」とは一切接触をしていないという情報がある。連絡すら取れなくなっているようだ。
「見捨てられた感じがするでありんすな」
「とはいえ、渡された道具は本物なんだろ?」
教戒の杯は吉祥院でも解析したけれど、インチキではなくちゃんと機能する恐るべき魔工具であった。
「よくわからん連中だな」
「例のシールはどうなったんだ? あの2人が絡んでいるとなると持っている可能性が高いだろ」
純凪さんが知る、凄腕の人物の行動パターンが書き込まれているシール。
「そうだったな。准将、あの15人がシールを持っている可能性がある。レポートは出したが、一時的に戦闘力の高い剣士の経験を活かせるようになるから、迂闊に近寄らない方がいい」
「その可能性があるか?」
「そもそも有効時間があって、貼っている人間も肉体的に無理をする事になるから、もし使用されたら距離を取って防御に専念して時間を稼ぐのが良いと思うでござる」
肉体的に無理をさせるので何十分と保つわけではなく、その人間の素質にもよるけれど、変に攻めずに十分程度踏ん張ればバテる。
良いアイテムだけれど、効果時間が短いのはその辺を考えているからだろう。本当に最後の切り札、もしくは急襲用か。
知らなければ目の前で急に戦闘力をブーストされて圧倒されるだろうけれど、解っていれば弱点もあるので対策が立てられる。
まずは焦らないことだ。
「15人の追跡班には連絡を入れろ」
「はい」
准将からの指示でオペレーターはすぐさまシールの件を現場に伝える。
神奈川の奥地で、寺院庁が隠していた幻想獣を処分するという極秘任務に、伽里奈を連れていって本当に良かったと思う。
あの時に伽里奈がシールに気が付かなければ、こういう対策はできなかった。
「伽里奈君が、6年前の時にいたら、厄災戦の結末はかなり変わっていたのかもしれないな」
「伽里奈というのは、レンジャー隊用の魔工具を作った人間だったな。榊中佐がそこまで思うほどの人間なのか?」
「戦場では霞沙羅の…、新城大佐の横に立てる人間ですよ。実際にそれで小樽大の事件はあの程度の被害で解決しています」
「戦力とすればもう一人の、考え方の違う霞沙羅と言った感じでござる」
「そこまでなのか?」
霞沙羅を良く知る榊と吉祥院が言うのなら、それだけの人物なのだろう。
「准将、この作戦が討伐に変わった時に、多分どこかの場所にあいつが出てくるだろうが、私の命令で動いていることにしてくれ。軍人じゃなくて外注だがな、あいつではない私の知り合いの傭兵とでもしてくれ」
これを言っておかないと後でおかしな事になってしまう。
伽里奈は軍との契約があって、霞沙羅の管理下にある。
どういう事になるかまでは解らないけれど、派手に動いてしまうと、現場に派遣される兵隊や警察から誤解を受けるか、最悪は攻撃、または逮捕されてしまうかもしれない。
「…うまくやっておこう」
「頼みます」
視線を移すと、現場映像のモニターでは地下から現れた15人との戦闘が始まったようだ。
映像では見えないけれど、15人は以前に伽里奈が作ったゴーレムで見た動きに似ているから、シールを使用しているのは明白だ。
銃弾も回避したり、手持ちのダガーで弾いたりと、一般人を越えた動きを始めた。
しかしこちらの兵隊は、先程受けたアドバイスを元に、無理に接近戦を仕掛けることはせずに、牽制し、距離を取るようにして時間稼ぎを始めた。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。