そのどさくさに紛れよう -7-
あの大魔導士ルビィまで来てくれたので、館で待っていたアンナマリー達の士気もあがった。今のこのメンバーに大陸有数の戦闘力を持つ大魔導士が参加することはとても大きい。
「ヒルダ様とルビィ様のお二人と一緒に戦えるなんて夢みたいです」
「私も砦攻略戦以来です」
オリビアについては、魔女戦争時にルビィとは一度大きな戦いを共にしている。あの時は後方でモートレルを守る役割だったけれど、今回は同じ所から出発し、同じ奪還作戦を遂行出来るので感激だ。
「お父様の協力があるのも忘れてはいけないわ。皆、モートレルを取り戻すのよ」
フィーネからの情報で、錫杖に貯まっていた魔力はじきに尽るとのことなので、あとは霧が消えるのを待つだけだ。それまでは各人仮眠を取ることにした。
消耗してしまっているレイナードとフロイトは、よく休めるようにと空いている男性部屋を使ってもらい、アンナマリーは自分の部屋、サーヤは空き部屋、オリビアは宿泊室をあてがわれた。
「ヒルダ様こそお部屋の方に」
「いえ、私はルビィと話すことがあるから」
「そうだナ」
「しかしどこに寝るのですか?」
やどりぎ館の1階部分にはソファーはあるけれど、ベッドのようなモノはどこにも見当たらない。冒険者としての経験はあるものの、まさか領主が床に寝るというのかと慌てるが、そうではない。
「このソファーって背もたれを倒すとベッドになるんですよ」
伽里奈は向かい合っている2つのソファーの背もたれを倒し、フラット状態にした。あとはここに布団を持って来れば、立派なベッドになる。
「これでいいでしょ。実戦経験は私の方が上です。あなた達は早く寝なさい。少しでも長く体を休めるのです」
「は、はい」
申し訳ないなと思いながらも領主ヒルダからの命令だ。一応ベッドはあるようなので、オリビア達はアンナマリーに案内されて2階の部屋に向かっていった。
フィーネは自分の部屋でモートレルの監視を続けてくれているから、伽里奈はお茶とお菓子を持っていった。
「ルビィも久しぶりですね」
「システィーがまさかこんな事になっているとハ」
ルビィが館に到着してからもお茶やお菓子を出してくれたり、レイナード達を寝室に案内したりと、しっかりと下宿スタッフとしての仕事をしていた。あまり長い付き合いではないけれど、本来の姿を知っているだけに不思議でならない。
それにそもそも人間体はあまり見たことがないから新鮮だ。
「その、あの魔女はどうなんダ?」
「とても穏やかな方ですよ。マスターへの依存が少し多いですが、館のお掃除や洗濯も手伝ってくれますしね」
魔女時代はくすんだ灰色の髪をしていて、頭から羊のような角を生やし、黒い服を着ていた。だが今は角もなく、鮮やかな銀髪に涼やかな表情で、たしかに神々しい輝きを放っている。
「アーちゃん、とんでもない事をしたんだナ」
「現場にいた私もあの行動には驚きましたけどね」
誰もいなくなったので、やっと元仲間同士の話が出来るようになった。エリアスを穏やかな方、と言っているシスティー自体も随分と穏やかになってしまっている。
「アーちゃんは自分の居場所を見つけたんだナ」
家はとても綺麗で、日々の手入れが行き届いている。住んでいるアンナマリーも、超お嬢様なのに何の不満も無いようだ。
元々宿屋の息子だったから、それまでの経験を活かして生活をしているのなら、これはもう仕方が無いのだろう。
「料理も上手くなっているみたいだシ」
5人が集まった日に作ってくれた料理は美味しかった。こっちの世界の料理なんだろうけれど、ラシーン大陸の食材で作ってくれたようだし、あれはまた食べたいと思う。やはり6人の冒険と胃袋を支え続けたリーダーの腕前は健在だ。
「ボクらもちょっと横になっておこうよー」
2階から降りてきた伽里奈は、自分用のマットレスを持ってやって来た。
「2人はそのソファーで寝てて。ボクはこの辺で寝てるから。自分の部屋はあるんだけど、軽く何かお腹に入れておいた方がいいだろうから、準備の為に厨房に近い所にいるよ」
作戦決行は夜中か夜明け前になるから、お茶とハムサンドくらいでいいかと考えている。
「再会していきなり共同戦線とは変な感じだが、パスカール領と国の非常事態だ、仕方あるまイ」
「お隣のね、この世界の英雄さんが、どさくさ紛れにカミングアウトしろとか言ってたけど、まさかホントに事件が起きるとはねー」
「私も出番があったら呼んで下さいね」
「システィーが必要な現場って、モートレルの町中ではないでしょう?」
「青の剣でもいいですよ」
「それならあるかな。皇女とオーレインとかいう人は生け捕りにしないとねー」
帝国残党の裏に何者かがいるという話は聞いたので、その情報は中心人物から貰っておきたい。それがあの錫杖の制作者と関連があるかは解らないけれど、訊いてみる価値はある。
「呼んで下さいね」
「お前やっぱり変わってないナ」
好戦的なところは変わっていないシスティーにちょっと安心する2人だった。
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