人形遣いの最期 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
三郷の警察と連携するために、ある程度の人数を増援待ちとしてマンションに残し、飯能の警察に協力の連絡を入れつつ、霞沙羅達はお龍さんが指し示した農家に転移した。
「ここは予定に無いからな。気をつけてかかれよ」
地図アプリで見ると周囲に何も無い森の一角なので、農家の土地に勝手に住み着いているのかもしれない。
農家に捜査の協力を得るために、伽里奈には何人かの警官を連れて、家の方に転移して貰い、霞沙羅達はすぐ側に見える小屋にいつでも飛び込めるようにして、連絡を待った。
とりあえず魔術の目で索敵を行うと、中には8人の人間が待機しているのが解った。
護身用だろうか、銃器を含めた武器もあり、魔術師もメンバーの中にいる。外見からは解らないけれど、マリネイラ系の神官技能持ちもいると考えた方がいいだろう。
まあ吉祥院の前には関係ないが。
「さっき通信していたオッサンはいないな。あれから移動しやがったか」
きちんと舗装されたような道では無いけれど、近くの道まで車が出入りが出来るような通路があり、何度も車両が通った跡が残されている。
人形は持って行かれていないから、お龍さんはこれに反応したのだろう。
しかし大きな魔力を持った魔工具を感じないので、設計図にあったモノは持って行かれてしまったようだ。そうなると、さっきの仮面の男が別の場所に持って行ってしまったと考えられる。
ならば、中の連中を捕まえてどこに行ったのか情報を吐かせるしか無い。
「生け捕りにするぞ」
「指示をお願いします」
何で私が警官や刑事に命令をしているんだと霞沙羅は思うが、新城大佐の命令には素直に従ってくれるようだ。
どんな人望なんだ。
先日の札幌でも、公園からの引き上げ時に、警官連中からわざわざ並んで敬礼された。
霞沙羅はずっと軍の人間なのだが、警察にも好かれている。本当になぜなのだろうか。
アイドル活動が悪いんだろう。いい加減やめたい。
「アリシア君から了解を得た旨の連絡が来たでやんすよ」
距離に限界はあれど山の中でも電波状況に左右されない利点があるので、以前にヒルダとの連絡で使った、クリスタルを画面に使った小型の通信装置の地球版から吉祥院に連絡が来た。
「逃がさんでござるよ」
吉祥院の強大な魔力を使っての{惰眠霧海}が発動。小屋を真っ白で濃い霧が包み込んだ。
その一分後に、一応警戒しながら小屋に入ると、中にいた8人はひとり残らず深い眠りに落ちていたので、難なく拘束する事が出来た。いくら何でも吉祥院の魔法をもろにくらっては抵抗も何も無いだろう。
「終わったから、一旦そっちに行くぞ」
「そうですか。地元警察もすぐにこっちに来てくれるようですよ」
「解った」
クリスタルで通信後、まずは現場検証の為に人を残しつつ、眠らせた人間だけを伽里奈のいる農家の家の方につれて転移をした。
「わ、我が家の山にこんな人間が入り込んでいたとは」
この状況を見た農家のおじさんは、その潜伏していた人数に驚いていた。1人や2人じゃない、8人だ。
山の土地を持っているとは言っても、農地として全部を使っているわけでは無いので、家族でもあまり立ち入らないのだという。
「何か小屋があったぜ」
「家族で食べる山菜や栗とかキノコを採る時に休憩所として使っているんですよ。今は冬ですからね、しばらくは使っていませんから」
「まあすぐに協力してもらって感謝するぜ」
「相手は金星の虜ですからな。そんなのがいたとなれば当然じゃないでしょうか」
「小屋はこれから警察が調べることになるだろう。そいつらにも協力してやってくれ」
「ええ、解りました」
おじさんはホッとしたような様子で、霞沙羅達に感謝を述べた。
さっき伽里奈が言ったとおり、すぐに増援の警官達がやってきた。
金星の虜が絡んだ件ということで、専門の課の人間だ。
「このようなところに潜伏していたのですか」
潜伏という点では解らないでも無い。ある程度都会から離れてはいるけれど、しっかりした道もあれば私鉄の特急の本数も多い。行き来するには悪くはない場所とも言える。
「この連中は神奈川に連れてくぜ。それと森の中の小屋の調査のために人が残っている。手を貸してやって欲しい」
「ええ、では田坂さん、山に入らせて貰いますよ」
「どこから来たのか気味が悪い。よろしくお願いしますよ」
田坂さんと呼ばれてた農家のおじさんは、協力して当然、という態度で警察達を山に通した。
これで「安らぎの園」の中核部へ一歩進んだ。
「ほんとマリネイラって迷惑ですよねー。あの人達も何を考えて、まともに人の意見なんか聞かない神様なんか信仰してるんだか。ボクも散々ああいうのにお説教したモノですけど、盲信て嫌ですよねー」
あの神様もいちいち人の恐怖まで具現化しなくたっていいのに。
信者も一応神聖魔法に分類される魔法は使えるけど、だからといって反逆神レラと違ってマリネイラが答えを返してくれることは無い。
結局、金星の虜となるような人達は、単にマリネイラが持っている性質の、負の面だけを見ているだけにすぎない。
「山の中で人目につかないからって、勝手に何かの害虫みたいに住み着かれちゃって、農家のおじさんも大変でしたねー」
「え、ええ…、害虫…?」
急にプリプリ怒り始めた伽里奈に同意を求められて、被害者であるはずの田坂さんはなぜか歯切れが悪そうに答えた。
「アリシア君が怒ってござるよ」
「寒波が来ちゃって、小樽が寒くなってエリアスと石焼きラーメンでも作ろうって決めて、チャーシューも麵も作る予定立てて。その邪魔されちゃって、ちょっと前から急に虫みたいに湧いてくる人達に。おじさんもこんな広い畑で作物食べちゃう虫と戦ってるのに、こんな虫より役に立たない人達に生活脅かされちゃって迷惑ですよ。安らぎの園とか言っちゃって、冬で耕作もお休みなのに、大きい害虫が8人も住み着いちゃったら農園は安らがないじゃないですか」
「む、虫以下だと! 彼らがどういう想いで理想のために戦っていると思っている! そんな彼らを迎え入れて、戦いの準備を…」
「オッサン今なんつった?」
田坂さんは不意にしてしまった発言を霞沙羅に指摘されて、ハッと口を押さえた。
「こいつの家を調べろ。邪教徒だ。隠れ家の提供者だぞ」
霞沙羅は近くにいた警官に命令した。変に興奮してわめいたせいで、確かに同じ言葉を聞いた警官達は迅速に動いた。
「農家のおじさん、国営の保養所へご案内」
後ろに回った吉祥院が田坂さんの頭を掴んだ。
「ひ、ひぃ…」
「あの小屋は人が住めるようになっていたし、舗装はされてないが、ある程度整地されて車が通っている道もあったな。家庭用の山菜採りで家族が外からあそこに出入りする必要は無いよな?」
警官達が農家の母屋に踏み込んでいった。
一転して疑惑の人となった田坂さんは事情聴取の為にパトカーに押し込まれ、警官はさらなる増援を呼ぶ始末。
「お前また例の魔法を使ったのか?」
「{戦意高揚}は使ってませんよ。エリアスも楽しみにしてた石焼きラーメンがダメになっちゃって頭にきてたから、あのおじさんも解ってくれるかなと思って愚痴を言っただけです」
「お前…、確かにラーメンの話はしたが、食い物っていうか、料理の邪魔をされて腹立ててたのか」
「そういえばアリシア君は先日の飲み屋のシチューが原因でレイナード君と喧嘩をしてなかったっけ?」
「食い物の恨みは深いな。まあ、お手柄だ」
「お手柄ですかねえ」
結局家の中からは軽く調べただけで怪しいリストや、スマホからも妙な登録先と着信履歴。仏壇の裏からはマリネイラのシンボルが出てきた。
未婚者で妻はいないが、養子縁組したという義理の娘と息子、パートだという数人のスタッフもそもそも素性が怪しく、かなりの疑惑が出てきた。
自宅のPCからは一体何が出てくるやら。
「芋づる式だな」
こういう事になるから、警察が来たら素直に協力して被害者面をしろという条件で、金星の虜の組織に場所を貸していたのだろう。薄情かもしれないが、借りる方もそれ前提と思われる。まさかの時のセーフティーハウス的な役割を担っていた。
「これでしばらくは邪教徒達の活動も減るでありましょうよ」
金星の虜は組織間の繋がりが無いから、各組織のサポートをやっていた人間が確保されただけに、そこから得られたデータは今後の捜査に大きく貢献するだろう。
「新城大佐、ここからは我々に任せて!」
「ああそうだろうよ」
やって来た埼玉県警の刑事も情報を聞いて興奮気味。
ああ見えてかなり顔が広い男だったようで、繋がっている組織は多いと想像出来る。
これは大きな仕事になりそうで浮き足立っている感じだ。
「落ち着いてやれ。この先にいる人間は一人も逃がすな」
「はっ!」
組織が違うのに新城大佐と吉祥院中佐に敬礼して、更なる証拠を求めて刑事達は家の中に入っていった。頼もしい限りだ。
「私らはあの仮面の男の行方を追うとするか。設計図の魔工具がここに無いという事は、持って逃げたか、目的の場所に行ったわけだ」
「幻想獣の完成態なんかどこにいるんですかね。明確に知性があるわけで、大人しく飼われるようなことはないでしょうしね」
「うーん、桜音君には警戒するように言っておくでやんす。封印物件は軍の上層部は知ってても私らは知らぬでありんす」
ひょっとするとまた封印物件が察知されているかもしれない。
後は先程捕まえたアイザックと連絡係のような男からどこまで聞き出せるか、これもまた捜査を待つしかない。
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