人形遣いの最期 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「やりたくなかったんだがなあ」
自分がやった事ながら、霞沙羅はちょっと嫌な気分になった。
「霞沙羅さん、ルーちゃんには言っちゃダメですよ」
「まあこの辺が限界だろうよ。こういうのは悪人がやることだしな」
アイザックのスマホに届いたメールは、これからミーティングをしようという内容だった。相手は当然アイザックが組んでいる組織の人間なのは間違いない。
「まあこいつは、場合によっては人間も操るようだから可哀想とは思わないが」
以前にイギリスから貰ったアイザックのデータには、メインとしては人形遣いだけれど、その技術を応用して人を操ることもあると、そんな項目を見たことを思い出した。
ならまあ仕方がない。自業自得というところだ。
霞沙羅に魔法をかけられたアイザックはメールに返信してPCを立ち上げて、黙々とミーティングの準備を始めている。
「王者の錫杖とやらをボチボチ深掘りしていたんだが」
あの魔工具の構造自体は解明したけれど、小さいながらも国を建国することを可能とするほどの人間を洗脳する魔力をため込む構造や錫杖の素材が解っていない。
元々保管していたフラム王国に危険物として回収されてしまったからだけれど、正直霞沙羅でもそれを可能とする物体を作り上げることは出来そうに無い。
なので、同じ一族が関わっている刀が二本と、最近のシールの件もあったから、とりあえず一人だけに効く魔工具を作っておいた。
あのちょっと恥ずかしい{戦旗高揚}が使いたくなかったのもある。
そこで超小型版の王座の錫杖ともいえる魔工具でアイザックを操っている最中だ。
今のアイザックはこの20分ほどの記憶を忘れ、霞沙羅達のことを味方だと思い込み、目の前にいても気にしない状態になってしまっている。
性能はまだ中途半端なので、人数的に味方だと刷り込めない警察達には一旦部屋を出て行ってもらい、妙な動きをしないかと3人が見守る中、哀れな事に、人形遣いが人形のようになっている。
「私らはなんつう陰険な奴と戦ってきたんだ」
全ては水瀬カナタを追うついでに得た技術の流用となっている。
「大勢の命を守るためじゃないか、霞沙羅」
魔術に対するスタンスが違うおかげで、吉祥院はあんまり気にしていない。逆に「これいいんじゃないか」とさえ思っている。
「人形遣いなんざ影で物陰でこそこそやってるような小心者のくせに、目立ちたがりのロクな人間がいないからねえ」
吉祥院はあんまり手段を選ばない。相手がやるというなら、そういう技術があるなら使おうという考えだ。やられたことはやり返していい。実に胸のすく思いでアイザックを見ている。
伽里奈は対抗魔術の開発をボチボチやっていたので、誰かが手を出すかなとは思っていた。
それが霞沙羅だったのは意外というか、まあ事件に何度か出くわしているから、そういう準備をしている事もあるのかなと思った。
「アイザックだ。そちらの準備はどうだ?」
アイザックと向こうが繋がったようで、会話を始めた。
PCを後ろから覗くと霞沙羅達が映ってしまうので、相手から解らないような位置にカメラを置いて、出ていった警察達はリアルタイムで画面を見ている。
話す相手はPC越しで会話をしているというのに目を隠すような仮面を付けていて、正確な人相が解らない。
それに対してアイザックも「仮面殿」と呼んでいるので、会う時は常にこれなのだと予想出来る。
味方相手にここまでやるとは、なかなかに慎重な人間のようだ。
「お前の作ったパーツはさすがの出来だと聞いている。使えるのが一回キリなので実験は出来ないが、研究班が言うには正常に機能するように組み上がったということだ。感謝する」
「そうか、設計図から考察するしかなかったが、寝る間も惜しんで作った甲斐がある。それで予定通りやるか? こちらもここから援護をする関係から、人形を持って行って貰いたい。俺はこの通り、外に出られる状況じゃ無いからな」
「それならお前がここに寄越したこの人形を護衛として使わせて貰おう」
今のアジトに逃げ込んだ時に送ってきた人形にもまだ出番はあるから、大事に保管してある。
「作戦が始まれば吉祥院も俺を追っている場合では無くなる。そうなればここからになるが、充分な援護をしてやろう」
うーん、上手くいってるなと霞沙羅は自分が作った道具に感心する。
アイザックが「ここが軍に乗り込まれているぞ」といったような合図を出すような素振りも無い。
恐ろしいモノだ。
「お前達の方はどうなんだ? 飯能とかいうところで狭い思いをしていないか?」
「多少はな。ただ、警戒してはいるが、さすがにここまでは警察の手は伸びていない。協力者の山周辺までは幻想獣も出ない。協力者も地元の警察と上手く付き合っているようだ。ただな…」
飯能という地名が出たけれどどれだけの人数が潜んでいるのだろうか。
魔工具作りの研究者がいるようなので、この後すぐにでも乗り込まないといけない。
「横浜の方が張り込まれているようだ」
「さすがに住居もバレたからな。そこを調べられればな」
「他のトンネル会社やペーパー会社に紐付けているが、関係者で引っかかる。おかげで近寄ることが出来ない。だがそれもあと少しだ。お前のコンディションはどうだ?」
「ゆっくり休ませて貰っている。動ける範囲は狭いが、魔術師としてはこういう環境も慣れているからな」
「そうか、では次の連絡は決行直前になる。準備を頼むぞ」
そう言って通信は切れた。
そしてアイザックは気を失って倒れた。
「次の目的地は飯能か。と言っても市の名前だけ解ってもなあ」
「アリシア君が捕まえてきた男を尋問するか、持ち物から場所が解るかもしれないね」
何らかの装置を用意しているというような話があった。それが宝物庫から盗まれた魔工具を組み込んだ、この先にある計画に必要なモノだろう。
「そのアリシア君は何をやってるんだ?」
「話の中に出てきた設計図がありましたよ」
本棚にあった、この部屋には場違いと思われる、「あの歌舞伎役者が不倫?」とか「第四次関東醤油豚骨ラーメン抗争勃発」とか表紙に書かれている情報週刊誌の一部ページがその設計図にすり替えられてた。
なかなか手間がかかっている。
「よく解ったな」
「中身の醤油豚骨ラーメン抗争勃発の美味しいラーメン代表店のページがそこに抜いて置かれてたので。この人はラーメンが好きだったんですかね? あ、ラーメン…」
「何だよこいつは」
吉祥院がその設計図の中身を確認すると
「まあ連中がやる事なんざこんなもんだよね」
「どういう事だよ」
「どこかに隠しているのか、幻想獣の完成態と融合して操る装置だね」
操るというか、意思伝達用だが。
「あの女はここまでやるのか。これまでの集大成な感じだな」
モートレル占領事件に、神降ろしをした杖があったけれど、コンセプトとしてはそれを基本として、ザクスンでの魔族との融合、前回のバングル事件での幻想獣との融合を経て作られた魔工具だと言える。
「最悪の事態は想定しておいた方がいいな」
「そうならない為に飯能にいくわけだけどね」
相手がどこまで行っているか解らないけれど、これが実現出来る魔工具はもう「安らぎの園」で使用する準備が出来ているかもしれない。
2人は別の部屋と外で待っている警察に声をかけて、魔術師達にはもう結界を解除するように命令した。
「飯能と言われましても広いですからね」
霞沙羅から次の目的地を告げられて、警官も何とも言えないという顔をしている。
場所を知っていそうな2人は捕まえたけれど、今行こう、と言われても取り調べはしていないし、それは無理な相談だ。
しかし状況的にはすぐに行かないとダメなので、単純に無理とは言いたくない。
「あの仮面のオッサンが人形を持ってたな。お前の人形に、作った奴のパーツを入れたらどうなるんだ? 丁度そこにいるぞ」
「どうでやんしょか。やってみる価値はありそうじゃん」
お龍さんにアイザックの髪の毛をバッサリ切って放り込んでみると、スマホで地図アプリの何カ所かを指し示した。
まずはこのマンション。それはそうだろうから無視して、横浜大、吉祥院家、魔術協会の研究施設と、東戸塚で回収したアイザックの人形を持ち込んだ場所が示された。
それと埼玉県の別の場所も示してきた。
「お、ここは飯能じゃないのか?」
飯能の秩父寄りの山の方、一軒の農家近くにある森の中をお龍さんは指している。さすがにこんな所に住んでいる人間に解析は依頼していない。
「あの婆さん、とんでもねえもん作ってやがるな」
さすが魔法学院の賢者だけある。
「ルーシーさんスゴイですよねー」
生活は不便だけれど、一年くらいあのアシルステラで生活したら、魔術に対する考え方は間違いなく変わるだろう。
それはさておき、とにかく飯能へ行くとしよう。
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