人形遣いの最期 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
探索人形「お龍さん」の最終調整が終わり、アイザック追跡は予定通りに行われる事になった。
実行にあたっては、警察が主導ではあるけれど、一度逃げられている相手ということもあって、吉祥院家に所属する魔術師集団も集めた。
メンバーはかなりの大所帯となってしまったが、現場までは車で移動するのではなく、人形が指し示した土地の近くまで空間転移で移動し、そこから電撃的な作戦を開始する。
当然これには迅速さが要求される。
その為にアイザックを逃がさないための仕掛けも準備し、一旦魔術師協会に集合した。
「ボクも必要なんですかねえ?」
「アリシア君は抜け目がないから、何かあった場合にワタシらが気が付かないような気付きがあればお願いしたいねえ」
「そうですか」
抜け目がないと言われてしまったけれど、これはこれでプレッシャーだなー、と思う。でもわざわざ学院のルーシーに会いに行くほど吉祥院もアイザック捕縛には本気のようだし、しっかり協力はしよう。
「吉祥院様、我々は全員が集まっております」
警察の方も準備を終えて、そう報告した。
「じゃあ動かそうぜ」
霞沙羅も完成した人形が実際にどう動くかは見ていない。さてどういう結果になるのかと思うと、日本人形自体が動くわけでは無くて、人形に持たせたスマホの地図アプリがある場所を示した。
「埼玉か」
三郷にあるマンションだ。近くにはいくつかの倉庫がある、そんな地域の一角。
タワマンのような大規模なマンションではなくて、8階建てくらいの、こぢんまりした少し古い物件だ。
その6階にある部屋を人形が指定した。
「じゃあこうしよう」
ここからはスピード勝負になる。
一旦、少し離れた所にある公園に転移し、そこから4組の結界設置班が指定されたマンション周囲の位置へ短距離転移の後、素早く対転移用の妨害障壁を貼り、吉祥院達本隊がアイザックに襲撃を行う。
伽里奈と霞沙羅はその短距離転移要員で、残り2班は短距離転移が可能な魔術師を連れてきている。
「向こうはまだ結界の中にいるみたいだからね」
試しに持って来た、お龍さん作成前に使った生体探知用の人形は今も無反応。当然ダミーで結界だけ張って外出していたら人形は反応する。という事は、結界の中に入って誤魔化しているという状態だ。
「行くとするよ」
まずは吉祥院が三郷までの長距離転移を行い、全員を目的の公園まで運んだ。
「じゃあ行くぜ」
そしてすぐに霞沙羅達が4班に別れて、マンションを取り囲むように短距離転移を行った。
素早く結界展開用の魔工具を設置し、警察を含めた実働班と吉祥院が最寄りの階のエレベーターホールに短距離転移。
「よし、始めろ」
4班共にタイミング通りに結界を展開。
「それでは突撃します」
「気をつけるざますよ」
目的の部屋からは結界の魔力が変わらずに感じられる。中のことまでは解らないけれど、人形は抱いているナビの目的地を変更することはない。
国際的に指名手配がかかり、先日の横浜大窃盗事件の実行犯の一人。本当にここでいいのだろうかとは思うけれど、吉祥院千年世様のやることだ。警察達は無理矢理ドアをこじ開けて、部屋の中に入っていった。
「いました、アイザックです」
すぐさまマンションの一室にいたアイザックを警察が発見した。人形を抱えていて、何かを察して逃げようとしていたところのようだが、空間転移を邪魔されて、外に行くことが出来なかったようだ。
「お、引っかかったな」
結界による妨害を確認した霞沙羅も、部屋の前まで跳び上がってきた。
「今回でゲームオーバーでござるよ」
本人が張った結界は残されたままで、まだ拘束はされていないが、霞沙羅と吉祥院は部屋の中に入っていった。
「ちょっとせまいでやんすが」
吉祥院は今回もちょと屈みながらアイザックの元に行く。
普通のマンションは吉祥院にとってはやっぱり天井が低い場所がある。二回目だけれど、もう少し良いところに身を潜めてほしいものだ。
「おう、イギリスからようこそ、ジェントルマン。美味しい日本料理は食べたかい?」
「貴様、イヤミか」
ようやく顔を合わせた吉祥院の言葉にアイザックは苦々しそうな表情で言い返してくるが、さすがにもう逃げることは無理だ。
「おいこの薄っぺらいの、あっても無くても私らにゃあ関係ないぜ」
アイザックの結界は防御用ではなくて、魔術の干渉を逸らせるもの。霞沙羅が殴れば簡単に砕け散ってしまいそうだ。
「へいへい、一名様スィートルームへご案内」
吉祥院が放った10枚くらいの人形が結界に張り付いて、あっさりと破壊した。
「噂に違わずデカいな」
「ヘイボーイ、小さなキミのために背の高くなるおまじないをしてあげようじゃないか」
電光石火の動作で吉祥院はアイザックの顔面を握って、その体をぶら下げるように持った。
「ぐおおぉ」
魔術師とは思えない強烈な握力を顔面に受けて、アイザックは足をバタバタさせて悶絶した。
「頭蓋骨が割れそうだからやめて差し上げろ」
「悪い悪い、安物の人形じゃ無かったデース」
霞沙羅のツッコミに吉祥院はパッと手を離して、アイザックを地面に落とした。
「大人をからかっちゃいけないよ」
「ぐう…、し、しかし、ど、どうしてここが」
「お前に言っても理解はできんな」
元の魔術がこの世界のモノじゃないのだから、説明するだけ無駄だ。
それから霞沙羅はアイザックの体や持ち物から魔術の発動体を探し当てて、それを奪い取った。
「それとこれもだな」
このレベルの魔術師はこれだけでは魔術の使用を完全に防ぐことは出来ないから、封印用の腕輪を取り付けた。
「じゃあ逮捕していいぞ」
「はい、午前9時36分、逮捕だ」
こうして手錠をかけられてアイザックは捕まったわけだけれど、そこに伽里奈が1人の男を引きずってやって来た。
「何だそいつは?」
「近くの倉庫から出てきて、このマンションの状態を見て一人だけ急に逃げようとしたので声をかけてみたら、スタンガンを撃ってきたので、殴り倒しました」
「どこの倉庫だ」
「すぐ隣の、あの下にある」
窓から下を覗くと、すぐ倉庫の建物がある。
平屋の、通販会社の倉庫で、今は納品のトラックが到着していて、フォークリフトで本棚が運び込まれている。
「あの会社は」
「ああ」
「だろうな」
ついてきた警官2人が手に持ったタブレット端末を見ながら何かを確認し合っている。
「ん、何だ?」
「いえ、先日の件で出てきた社宅保有者で、捜査対象になっている会社があるのですが、まさにそこなんですよ」
「お前ホントにどこ見てるんだ?」
「交渉事はヒーちゃんかハルキスかライアがやってましたからねー。そういう時のボクは何となく別の所を見てましたよ。冒険者ギルドには9番案件とかあったりしますので」
今回もまさにその状況と変わらない。
霞沙羅と吉祥院が作戦の中心に入るから、伽里奈的には2人に任せて、ちょうどやることが無かった。
確かに、他の社員は男が一人いなくなったというのに気にもしないで仕事中。この男は一人だけ倉庫の仕事をしていないのだろう。
一般社員がスタンガンを持っているとは思えないし、多分繋ぎ役か何かであそこに待機していた可能性がある。
ここの動きが目に入って、何事かと確認しに出てきたところを魔術師の集団に声をかけられたので、どうにも下手を打ってしまったようだ。
「あとその人、一瞬ビックリしてましたよ」
「ああこいつか」
アイザックの事だ。
伽里奈は部屋に入った時、アイザックだけがこっちを見てビクッとしたのを見ていた。
正確にはこの引きずってきた男になんだろうけれど。
「知り合いなんでござろうよ」
伽里奈は男を床に転がした。
「何者だ?」
「さあな」
ここまで来てもアイザックはあくまでシラを切るようだ。
そこに、さっき取り上げたスマホにメールが届いた。
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