そのどさくさに紛れよう -6-
「領主ヒルダならここにいるわ。それに将軍の娘、アンナマリーも私の手の者が救出しているのよ」
「アテが外れたナ」
ヒルダの顔はターゲットにしたのだから忘れるはずが無い。ここにいるはずの無い人間のいきなりの登場に驚きの反応を示した。
「ど、どうしてヒルダがここに。開始前に屋敷にいたことは確認しているはず。それにアンナマリーも」
「錫杖が盗まれたのを知ってたから備えておいたんだよ、秘密のトンネルを用意してね。もうヒルダとアンナマリーは切り札にならないよ。しかも中で何が起きてるのかも解ってるから、奪還準備中だったりして」
「この後王宮にも伝えるつもりダ。いずれ増援が来るぞ」
「く、だが今王都は魔物に囲まれているハズだ。協力者が我々の決行に合わせて手配をすると言っていた。早々助けは来るまい」
「お前達の関係者が悪さをしているのカ。ほうほう、師匠に連絡しておいてやろウ」
「ちなみに彼女が援軍よ。まさかとは思うけれど英雄ルビィの顔を知らなかったわけ?」
「ル、ルビィだと。ヒルダとルビィが揃っているのか」
予想外の展開に、ここから逃れて仲間に情報を伝えようと、男は何とか拘束を解こうと暴れ始めが、一般人レベルを越えない人間でほどける程、鎖はヤワでは無い。
「ところでキミもあのリーダーさんと同じように利用されてるんじゃないの? 中に入れてくれてないしさ、随分危ないところに配置されてたじゃん」
「それは、外からお前達の動向を伝える仕事があるからだ」
「どうやって伝えるの? さっき持ってたアイテムは部屋の中の会話を拡大してキミが聞くだけのモノだったけど」
「嘘だ、あれを壁に取り付ければ中にある受信装置に声が伝わるハズだ」
「もしその機能がホントにあったとしても、錫杖の魔術を中の町だけに留めておく結界が張ってあって外からは魔術が届かないんだけど。騙されたんじゃない?」
「少しでも魔術をかじっていればあんなガラクタを渡されてそんな指示に従うワケが無イ。どうせ疑わないだろうし、もう用無しだから時間稼ぎの囮に使われただけだロ」
気持ちよく自分達の陰謀を話していたかと思えば、用無し発言を受けて顔が青ざめていった。
「どうせこれ以上の大したことも教えられていないんだろうしナ」
「ち、ちがう。オレは4年も皇女ユリアン様を守ってきた人間だ。そんなオレを使い捨てるなど断じてない」
中にいる皇帝の忘れ形見と思われる少女は「ユリアン」という名前のようだ。
「そうなの?」
ーこの人の性格からすると、今後少数精鋭で帝国を運営していくわけで、先輩風をふかしてチームを乱す可能性があるから始末されそうになってるんじゃないのかな?
「ふ、ふふ、それにお前達は忘れていないか。6人の英雄の内1人が未だに姿を現さないことに」
「その言い方だとアリシアがそちらにいるとでも?」
「アーちゃんそっちにいるんダー」
「アリシアさんがいるんだ、これは大変だなー」
もう1つ仕掛けがあったようだ。今となっては何の役にも立たないけれど、一応聞いておく。
「な、なんだその反応は。魔法騎士アリシアがこちらの手にあるのだ。お前達2人が揃おうとも、奴の持つ聖剣には敵うまい。ってなんでそんなに余裕なんだ?」
ヒルダとルビィが揃っているから、脅しのために秘密のメンバーを発表してしまったが、当の2人は反応が悪い。
「だって、ねえ」
「その発表がもうちょっと早かったら驚いたんだろうが、いや、聖剣と言っている時点でそれは無いカ」
「お前達のリーダーだぞ。魔法騎士アリシアだぞ。世界全てを敵に回した強大な魔女をたった1人で倒したんだぞ」
「ボクがそのアリシアなんだけど」
「お前のようなヤツがアリシアであってたまるか。何だその変な服装は」
「本物はこういうの喜んで着るのよ。冗談か何かだと思ってたの?」
「お前本物見たことあるのカ? アーちゃんは子供の頃からこんなのだゾ」
「キミはバカだなー。もし魔術の知識がそれなりにあったらこの明かりが何か解るのに。意味も無く高いプライドをくすぐられちゃって、こっちがちょっと演技したら全部喋ってくれるんだもん。笑っちゃうね。殺された3人もキミの痴態にお腹抱えて笑ってるだろうねー」
「もう用済みね」
「もういらない人だよ、ヒーちゃん」
これは伽里奈の仕返しだ。最初からルビィにあの光球を作るように言っていたのだ。その上でこの男のプライドをくすぐるような演技をしていただけだ。
それにアリシアとルビィならこの程度の人間の記憶を覗き見することくらいは出来る。嫌がらせでワザとやらなかっただけだ。
「ヒイィ…」
ニコッと笑ったヒルダがためらいも無く男の喉元に剣を向けると、男は無様に涙と鼻水とよだれを流し、体を震わせはじめた。
「オ、オレは、混乱する帝国から、オーレインと共に皇女を救い出し、祖国再興のために、共に戦ってきたというのに…」
「結局あなたが一番いいように使われてきたのね。いいは夢見れたかしら?」
「さっきの惨めな悲鳴を聞かせたかったんだ。3人とも聞いてくれたかなー」
「アーちゃんが怒ってるナ」
話はもういいから伽里奈が指を鳴らすと、男の首回りに電撃が走り、コトンと意識を失った。
「まだ聞ける情報もあるかもしれないし、王宮にも渡すんでしょ、この…、なんだっけ、名前聞き忘れちゃった」
「そうね。もう大して役に立ちそうにはないけど帝国の残党なら国も追っているしね。用無しって事は無いでしょ」
ヒルダはここの兵を呼び、もう用は済んだからと牢に入れるよう指示し、プライドをズタズタにされた哀れな元帝国兵士は担架で運ばれていった。
「じゃあお父様に作戦を伝えて館に帰りましょう」
「私はどうするんダ?」
「ルーちゃんにも来て貰うよ。ボクの下宿からじゃないと中から襲撃出来ないからね」
錫杖の影響はもう少し続くだろう。それまではちょっと仮眠でもとって、体調を整えておこう。
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