フラム王国での出会いと騒動 -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「ルビィは結構動けるもんだな」
背の低い魔術師だから見た目的に運動能力が低そうで、自分達についてこられるのかと不安に思っていた霞沙羅だったが、そんな心配をよそにルビィは普通の顔をしてついてくる。
「鍛えてますかラ」
そう長く走っているわけではないけれど、まだ息を切らせることもない。
「やっぱり元冒険者は違うな」
「多分ボクらだけが特別なんだと思いますけど」
普通の魔術師は研究で椅子に座っていることの方が多いとはいえ、冒険者をやっていたとしてもこんなには走れない。
それは日本でも同じで、軍内でも魔術専門の人間は、本人が望まない限り基本的にインドアな人間が多い。
「おー、なんか大きいのがいるぜ」
「ミノさんですねー」
「ミノタウロスか!」
どこから入ってきたのか、牛頭の大きな魔物が4体、大きな斧や棍棒を持って、騎士や冒険者達と戦っているところに遭遇した。
ゲームによっては大小様々だけど、実物のミノタウロスは小さな怪獣みたいだ。大人の人間の頭が腰くらいにあるので、二倍以上の身長は間違いないという巨体を誇っている。
「いいのか、あれ、やっちゃっていいのか? 私も始めてたぞ、あんな手応えがありそうなのは」
本物かー、と考えると血が騒いできた。幻想獣でも似たようなのとやった事はあるけれど、こっちは立派な生命体。それとTRPGでは何度も戦った相手だ。
「先生はなんでこんなに興奮してるんダ?」
「あの水瀬カナタとかいうのが余計なことをしてくれやがって。私もモートレルで大暴れ出来たってのによ」
「あの日の館にいなかったでしょ? あれに参加したかったんだって」
あの殺人願望のあった男に渡した刀のことかと、後ろからついてきているカナタは苦笑い。
それは悪うございました。
あの犯人は放っといても数ヶ月後には殺しをしたのだし、じゃあ早めに、と実験に利用させてもらった。
実験のために刀に仕掛けた声に従わせて、いずれ襲う予定だった、その辺にいた存在価値が見いだせないチンピラを襲わせて、ついでに本人も早々に現実世界から退場して貰った。
あんなのでも人生の最後にこの新城霞沙羅と、一瞬だったとは言え戦えたのだから、喜んでいるだろう。
感謝して欲しいモノである。
「ぐあっ!」
さすがの王都を守る騎士や、それなりに経験を積んだ冒険者もミノタウロスには苦戦中。冒険者の剣士が棍棒で殴られて吹っ飛ばされた。
「あんなの軽く受け止めろよ」
「あれが普通の冒険者ですヨ」
とても太い腕から繰り出される攻撃に、普通の人間では盾で受け止めようにも腕力が全然違うからああもなる。
「そこの、ソニアは大丈夫か?」
「いえいえお構いなく、霞沙羅さん」
「一匹貰うぜ」
霞沙羅は高く跳び、上空からミノタウロスの顔面に槍を投擲する。
「ウギャアッ!」
槍はミノタウロスの顔面に深々と刺さり、霞沙羅はすぐに、取り付けていたワイヤーで手元まで引き寄せた。
槍をキャッチした霞沙羅は、そのまま落下しながら槍を振るい、頭頂部から股間までを真っ二つに両断した。
「おおっしゃー!」
「やりますわねえ」
カナタは騎士を叩き潰そうと動いたミノタウロスの棍棒を横から殴りつけて、その一撃による衝撃で粉みじんにした。
「ブホッ!?」
「飛ばしますわよ」
何が起きたのかと動きの止まったミノタウロスの腕を掴んで、『気』を無理矢理注入して、全身の筋肉を硬直させた状態にして、軽々と上空に投げた。
「え、何この人」
自分達に匹敵するほどの力があるんじゃないだろうか、と思うも、アリシアは持って来ていたランスを上空に投げて、ミノタウロスの体を貫いた。
「スゴイなこの人モ」
ルビィは杖による雷撃で一体を黒焦げにしたところだ。
「世界を旅する一人者ですからね、このくらいはないとやっていけませんよ」
「おまえら以外にもこんなのがいたのか」
霞沙羅が4体目を燃やしたところで、ミノタウロスは全滅した。
「とにかく、ここは終わったようですわね」
4体いたミノタウロスがあっさりと倒されたので、騎士と冒険者達は一瞬呆然とした。
「あ、ありがとうございます」
苦戦していた騎士から礼を言われた。実際ちょっと危なかったけれど、ちょっと強すぎるんじゃないだろうか。
「ええーと、どうしたらいいかなー」
ここは終わった。ならどこかに移動した方がいいと思われるが。
「ルビィとアリシアなのだが、私らは次の所に行くゾ」
「ああ、あの、どうりで」
その名前を聞いて、そりゃあ強いワケだ、と騎士も冒険者も納得した。
じゃあ他の2人は何なんだろうとは思うけれど、今は気にしている場合ではない。
この町出身の英雄2人と一緒にいるのだから、きっと名前が売れていない強い知り合いもいるのだろう、と納得した。
続いて町の門の方で大きな炎が上がった。
「ハルキスの奴、早速使ってるな」
「あそこにはハルキス様もいらっしゃるのか」
英雄ハルキスが門を守っているのなら安心だ。もう何者も町に入れることは無いだろう。
「というわけだから、落ち着いて次の場所に向かって下さいね」
3人もの英雄がこの町にいるのだ。だったら大丈夫だ。無駄に焦る必要は無い。
「冒険者の人達も、出来るとこでいいからお願いしまーす」
「お、おう」
アリシアはミノタウロスに吹っ飛ばされた冒険者の剣士に強力な治療の神聖魔法を掛けた。
「お前が神聖魔法を使うのを初めて見たな」
「そうですか? そうですよね」
向こうでは使えないから話には乗ってくるけれど、実際に霞沙羅はアリシアが使ったところを知らない。
こう見ると、ホントに自分とあまり変わらない能力を持っているんだなと感心してしまう。
アリシアがそつなく使った神聖魔法で、剣士の怪我は簡単に治り、またすぐにでも戦える状態にはなった。着ていた鎧はへこんでいるけれど、なんとかなるはずだ。
「アリシアというと、大陸を救った英雄の一人でしたわね。こんな人間だったのですね」
カナタはモートレルの件で、アリシアがどうとかという魔装具を作ったのを思い出した。あの時は参考にする本人がいなかったので、小説を読んだ上で、あれを持たせた女優の知識に大きく依存する人格を組むしかなかった。
結局どこからか本人が現れて、偽アリシアは笑いものになってしまったようだけれど、なるほど、こんな人間だったのかと感心した。思っていたのと全然違う。
リーダーだと聞いたけれど、案外前に出ないというか、一歩下がって周りを見ている。
前へ前へと出て、場を仕切ってくる霞沙羅とは正反対だ。
さっき空中に放り投げたミノタウロスをすぐに追撃するとか、カナタが想定していた動きもしてくれる。
あの時作った剣では、本人が出てこなかったとしても簡単に偽物だとバレただろう。
剣の腕前もアオイと互角にやり合えるから、こんな見た目でも霞沙羅とほぼ同程度の力を持っていそうだ。
地球側に住んでいるようだから、これなら…。
「中の方は数を減らしているようだし、一旦門の方まで行って、状況を見て本命の魔工具持ちを狙いに行くか」
それにしても地元民ではない霞沙羅が仕切ってしまっているのが笑う。それとともに、この二人が揃ったらお互いがお互いを補い合える、いいペアになるんだろうと思う。
さて状況として、空からの魔物はいるけれど、そこまで多くはない。ドラゴンでも現れれば状況も変わるかもしれないけれど、霞沙羅を計算から抜いたとしても、この国の英雄が3人もいて、さらに魔法学院の重鎮達もいる。これでは相手にはならないだろう。
とりあえず4人はハルキスのいる北の門に向かって移動した。
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