フラム王国での出会いと騒動 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
水瀬カナタは、少し前に自宅の山で勝手に自殺をしようとしていた、魔法学校の落ちこぼれ学生である「栗栖ユズリハ」の様子を見にアシルステラにやって来た。
例の扉の行き先は、アシルステラであれば、リバヒル王国の王都にセットされている。
これまでの5年間ほど、この国を拠点に活動してき中で、優秀で穏やかそうなエルフの魔術師がいたので、そこの家に投げつけてきた。
国の重要な位置にいる魔術師が普段どういう生活をしているのか見て、落ちこぼれどころか、自分が何もしていなかったことを理解するがいいさと、勝手に預けてきたけれど、果たしてどうなっているだろうか。
場合によっては、少なくとも魔術師の卵であるなら、自分の顔くらいは知っているだろうから、何か適当な理由を付けてヤマノワタイに連れて帰ろう。
何も感じていないのなら、そのまま一生いて貰ってもいい。どうせ死のうとしていたんだから、残りの人生や家や家族などに未練はないだろう。
「ここにはいないようですわね」
王都カーレーンに入って、放置する前に栗栖に取り付けたネックレスの反応を調べたけれど、この都市には無い。
じゃあどこかというと、隣のフラム王国から感じる。しかも場所的には王都ラスタルだろう。
「どうしたのでしょうね」
魔術師エルフ、クラウディアの家には誰もいないようだし、旅にでも出たのか、それとも外交か何かで一時的に向こうに行っているのか。
「仕方ありませんわねえ」
あそこも何度も行った場所だから、カナタにとっては転移は楽なモノ。
人がいない路地裏に入り、すぐに転移を行った。
「大夫近くなりましたわ」
鍛冶屋街の近くに転移をしたカナタは、ネックレスの反応が城の中にあるのを感じた。
どういう事なのか。リバヒルの王宮魔術師に勝手に預けたから、とりあえず世話係として雇われて、連れられているのかもしれない。
それならいいのだけれどと、ネックレスのある場所を中心に城の中を「視る」となるほど、メイドの服をした栗栖が、人だかりの中にいる。
そこでは騎士団と魔術師とが何か小さな魔術の実験に見ているようだ。
その魔術には皆興味津々といった様子なのだが
「はあ?」
拍子抜けしてしまった。
系統としては水を操る魔術のようだけれど、あまりにも規模が小さい。簡易サウナでもやろうとしているのか、熱い霧を扱っている。
でもまあこの中世のような古い世界だ。お風呂だって各家庭にあるわけでもなく、貴族の屋敷くらいにしか浴室はないだろう。
そういう意味では画期的な魔術だ。設定された水滴のサイズ、温度、霧の流動速度にはやたらとこだわりがある。
…しかしこのパラメーターは、ある程度発展した文明を知らないと導き出せるモノでは無い。温度も水滴のサイズもその流れる速度も、実物を知らないで導き出したパラメーターではない。
ただとりあえずカナタは「視る」のをやめた。近くには例のエルフがいたから、栗栖は無事に拾われたのだろう。
こんな近くからあまり長く「視て」いると高位の魔術師だというエルフに気が付かれる可能性がある。
とにかく栗栖は見た感じとしては奴隷扱いで虐待されているわけでもなく、上手くやっている様子。今は魔術の勉強をしているかどうかは解らないが。
「なら、もう少し放っておいてみますか」
全てが終わって、あの廃墟を破壊する前にもう一度来ますか、と結論づけて自宅に帰る為にまたカーレーンに戻ろうとしたけれど、やめた。
「まだ残っていましたか」
残党の残りか、それとも使わなかった魔工具を拾ったのか解らないが、近くの森で自分が作った「魔繰の鈴」が使用された。
「喝采の錫杖がまたここに戻っていますしね」
魔法学院の宝物庫から取り出して、帝国残党を表舞台に引っ張り出す原動力になった錫杖が、また元の場所に戻っているから、アレを取り戻そうというのだろうか。
「どうでしょうかね」
あの宝物庫は、魔術もロクに知らないような素人が侵入しての生還は無理だろう。そのくらいは噂話で聞いているだろうに、あまりにも自殺行為すぎる。
…ド素人だから知らないのかもしれない。しかも入る事さえ出来無いだろう。
とりあえず、何が起きるのか静観するとしよう。
* * *
ラスタルの町に魔物接近の警戒を告げる音が鳴った。
町に設置された魔物の探知装置に反応があったらしく、各箇所に設置された警報装置が作動したようだ。
数匹程度ではさすがに鳴らさないのだけれど、これが鳴るという事はそれなり以上の魔物が町の周囲に現れたという事だ。
見ると城壁の上で警戒している騎士達が、弓矢を手にしてある入り口方向に向かって走っている。
その警報音を聞いて、レオナルド将軍はハルキスを連れて、自分の隊がいる場所に走って行ってしまった。
「ど、ど、どうしたんです?」
その不穏な動きに、クリスは近くにいたクラウディアにしがみついた。こういう時の音というのは基本的に不安を煽るように出来ている。
「結構大きな集団で魔物が…、来たみたい」
アリシアがちょっと町の周囲の魔力確認をすると、町の北側の森からかなりな数の魔物の反応が近づいて来ている。
「あれですね、水瀬カナタが作ったっぽい魔工具が使われてますねー」
「そんな感じだな」
霞沙羅の方も一応探知しておいた。
「え、どういう事ダ?」
「そうか、お前はヤマノワタイの魔術を私のレポートでかじっただけか」
王者の錫杖を解説する際に、ヤマノワタイの魔術をレポートに記載したけれど、実際に何かしらの魔術を見たことは無いので、ルビィには妙な魔工具の反応を感じる事は出来ても、どういう力が動いているのか解らない。
直接ヤマノワタイの魔術が使用されているわけではなく、それをコンバートする装置を通っているワケだけれど、その元の魔術も、アリシアと霞沙羅は理解することが出来る。
「や、ヤマノワタイって…」
「クリスちゃんには関係ないんだけど、霞沙羅さんのとは違う他の世界から来た、悪意のある人がウロウロしててね」
「み、水瀬カナタって…」
消え入りそうな声でクリスが言う。
「とりあえずアーちゃんが行った方がいいんじゃないカ? アーちゃんと先生じゃないと何が起きてるか解らないのダ」
「あれがいるようなら吉祥院でも押し切られた相手だからな、こいつだけじゃなくて私も行くぜ」
「あのキッショウインさんガ?」
「魔術をキャンセル出来なかったらしいんだよな」
それは結構な相手なのでは、とルビィは戦慄する。
「道具が一個だけだから、本人がいるかは解らないけどね。でもなんか急に来たなー。いつもだと結構計画的だと思うんだけど」
モートレルの時は確かに急だったけれど、後で考えるとそれなりに前兆はあったし、ザクスンの時も同じ。
何の前触れも無いというのは今まで無かった。
「と言っても、使ってるのは大した魔工具じゃなさそうだな」
道具が持っている魔術は、魔物を使い手の支配下に置くもの。でもその出力はそれほどでも無い。
カナタほどの人間がわざわざ道具を使う必要はないレベルだ。
本人じゃねえだろ、とは思うけれど、札幌では大した事件じゃなかったのに、証拠隠滅でカナタが出てきたことがあったので、警戒はしておきたい。
「アリシア、カサラさん、すみませんが行ってきて下さい」
「子爵も、お城の方をお願いしますね」
今のエレオノーラはここにいる女性騎士隊の指揮権があるわけではないけれど、緊急事態なので、代理で借り受ける気のようだ。
「クラウディアさん達はこちらに」
「は、はい」
戦闘向きではないけれど、あの魔女戦争をくぐり抜けて、ある程度の経験はあるから、何かあればクラウディアも戦うけれど、とりあえずはこのエレオノーラについていくことにした。
「うあぁ、ヤマノワタイの…、とかいうところの魔術が使えるんですか?」
「私らは知り合いがいるんだよ」
「だからクリスちゃんはお城の中に下がっててね。このお城に入ってくることはないでしょ」
「は、はあ…」
クリスはクラウディアに手を引かれて、建物の中に行ってしまった。
「ルビィも来い。私はこの町じゃあんまり顔が知られてない」
ガーディアンの時もそうだったけれど、顔が売れている人間が側にいれば、見慣れない霞沙羅が誤解を招く事はない。
「お、おウ」
まず3人は城内から町の方に跳んだ。
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