フラム王国での出会いと騒動 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
しばらくした後、アイスクリームの完成を購入者全員が確認したので、皆さんは笑顔での解散となった。
これでエリック君も叔母さん…、アンナマリーお姉様と同じようにアイスが頻繁に食べられるようになるだろう。
学院からしても折角高値で買ってくれたので、その価値を末永く生かして貰うために、定期的に他のアイスとかシャーベットの作り方などの講習をするようにと、アリシアは言われている。
それにこの後もまだ購入希望者が続いているので、第二弾もやらなければならない。
それはともかく、今はエレオノーラ子爵の希望もあって、お城に向かっている。
霞沙羅もいる。
「なんかこいつは日本人みたいだな」
暇そうにしていたのでクリスも連れてきた。
「そういう部族か?」
「記憶喪失なので」
「そうなのか、ならしょうがねえな」
余所の世界に住んでいる人間の事情だから、頼まれもしないのに首を突っ込むのはやめた方がいいだろう、とまあ霞沙羅はそういう事にしておいた。
アリシアも触れないようにしているし、雇い主であるクラウディアもそっとしておこうというスタンスだ。それであれば、今日会ったばかりの人間があれこれ言うような話じゃない。
「何か市民が通りに座って並んでるぜ」
「ああ、あれハ」
お城の正門に向かって、馬に乗った騎士の一団が進んできて、その後ろには豪華そうな馬車が続き、またその後ろにも騎士が続く。それを市民が見守っているという状態だ。
「王妃様だねー」
王妃様がラスタル周辺にある王家の畑でも見に行っていたのだろう。
馬車の中には王子と王女の姿もある。
「あのペンギンはお前が作ってたヤツだろ?」
馬車の中で王女様は抱いているぬいぐるみに窓から外を見せるようにしている。
多分「お城に帰ってきたのよー」とか言っているのだろう。
「大事にしてくれてるみたい」
「え、この人が作ったんですか?」
急にクリスが声をあげた。
「うん、ボクが作って、この前あげたんだけど」
「えー、いいなあ」
「なんならまた作ってくるけど」
「それは是非」
まあ女の子だし、かわいいモノはかわいいと感じるんだろう。
クリスはなんか境遇的に可哀想だから、また今度作って持ってきてあげようと思う。
そして王妃の一団が正門の中に入るのを待っていると、エレオノーラの馬車がやって来た。受け取った冷凍箱を屋敷に置いてから職場に帰ってきたのだ。
こちらも護衛がついているけれど、王妃と比べればさすがに少なめ。まあエレオノーラは若い時ほどではないけれど、今でもその辺の騎士では相手にならない位の手練れだ。ラスタルの町中を移動するのにそんなに護衛はいらない。
「お先に行っていますので」
エレオノーラは挨拶だけして、先に王宮に入っていった。これからやる事は急な話だったので、人を集めないといけない。
「じゃあ私らも行くカ」
あんまり急いでも仕方がないので、5人はのんびりとお城に入っていった。
* * *
名称は見たまんま【霧雲】と名付けた魔法は、集まってきた女性騎士達の注目を集めた。
桶に入れた水に、今回は紙の札の代わりに薄い木で作った札を放り込むと、指定された範囲に適温に温められた霧が立ちこめてくるので、その霧の中に立って入浴するという使い方だ。
霧と言っても一般的なシャワーよりも細かい水滴の集まりで、その霧はある程度の速度でグルグルと流動していて、その肌触りも柔らかだ。
「これを囲うように布で仕切れば良いだろう」
そのままでは裸体がうっすら見えてしまうので、見えないように囲いが必要だ。
日本の軍では色のついたビニールで囲っているけれど、フラム王国にそんなモノは無いので、外套に使うような濡れることを前提とした布でいいだろう。
「どんな時に使っているのかしら?」
なかなか良さそうだとクラウディアも気になっている。
「私らの軍なら訓練後なんかでさっと汗を流す感じで使ってるな。あとは災害の現場だ。被災者も体を洗いたいしな」
なんとなく汗が流せるし体が温まるので、入浴効果は確実にある。お風呂といえば湯船につかる文化が根付いている日本人には、特にお年寄りにはやや不満はあるようだけれど、その場合は、湯船の中で魔法を使ったりと現地で工夫しているという話は聞く。
「軽く香水なんかも混ぜたりも出来ますよー」
貴族の男騎士も集まってきて、さすがに脱いで入るわけにも行かないので、皆は霧に腕を突っ込むなどして、その感触を確かめた。
「泥とか土とかですごく汚れた時は【粒水滴】の方がいいですけどねー」
そちらはシャワーの方。ルビィの方でアリシアがいない間に書類にまとめられている。
「おーアーちゃん、いいじゃないカ」
ルビィだって女性。一応貴族生まれだから、やはりある程度は清潔に気を使っている。
自宅にお風呂はあるけれど、気分転換にサッと入りたい時には良さそうだ。
ハルキスについてきた猛将のレオナルド将軍でさえも、自分の配下にいる貴族達に対して「これも使えるな」と関心を寄せている。
この辺は男でも感覚は変わらない。野宿の現場でも、移動時に汚れるような事があった時に「タオルってわけには」と不満の声が挙がることもあるから、大した道具も必要ないし、これを仕込んだ札を持ち運んでおいてもいいだろう。
「アリシアは昔からこういう小さい、気が利く魔法が多いわね」
「この人ってずいぶん信用されてますけど、何をした人なんです?」
「クリスは…、そうねえ、そこにいるハルキスとルビィと、あとここにはいない残りの3人とで、この大陸を支配しようとした魔女を倒した人で、そのリーダーなのよ」
「この男の娘な人って、そんなスゴイ人だったんですか? 料理が上手な魔術師だとばっかり」
「いやまあこいつについては半分あってるんだがな。宿屋の息子だから冒険中は他から羨まれるくらいに食事環境は良かったんだぜ」
「だったらこっちの若いお師匠さんみたいな人は?」
「霞沙羅さんは別の世界の人だよー」
「私がこいつの師匠に見えるのか?」
「いやー、なんかこう、物語のジョーカー的な、主人公を差し置いて作中最強の、ボスクラスの敵も圧倒するような無敵なお師匠さんみたいな感じがするじゃないですか。読者人気高い感じの、格好いい感じで」
本当にクリスは変なことを言うなあ、と思う。
「クラウディアさんが認めるようなすごい魔術師なのに、なんでこんな便利グッズみたいな魔法を作ってるんです?」
「まあ、無いからだよ。この世界って不便だし、冒険中はもっと不便だったから、無いんだったらじゃあ作るしかないなって思うじゃん?」
「そ、そうなんですか…」
「霞沙羅さんも、現場で配下の人が戦ってるのを見て、こういうのあったらなって、それで魔工具とか魔装具を作ってるから。クリスちゃんは元は魔術師だったのかもしれないけど、もし記憶が戻ったら、小さいことでも良いから、自分の周りに無いものを探してみると良いよ」
「は、はい…」
「料理を作るにしても、研究がいるからねー。美味しいをモノ食べたいから、火加減とか塩加減とか、この道具をこう使えば便利かなとか、些細なことだけど工夫をするでしょ?」
「…」
クリスは黙り込んでしまったけれど、アリシアの言葉に対して落ち込んでいるのではなくて、何かを考えているようだった。
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