それぞれの状況 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「怖ええ姿の人形だな」
アイザック追跡人形の完全版はそろそろ完成を迎えようとしている。
吉祥院が実家でその作業をしている所を、霞沙羅が様子を見にやって来たのだが、その容姿が予想外のモノだった。
「人形というのは大地や国が変わっても不気味さから逃れられんもんだのう」
この和式な家に住んで長い空霜も、日本人形はあんまりいいモノだとは思っていない。
「この日本人形の良さが最近の日本人には解らなくなっているのでありんす。ああ嘆かわしや、日本国民はどこへ行ってしまうのだろうか」
吉祥院が最終的に使用したのは日本人形。おかっぱ頭の少女を象ったものだ。
「私は持っていなかったが、今でも売ってるリンカちゃんとかバーバラ人形で良くねえか? 通販でも買えるぜ」
「このお龍さんは今後の魔術人形事件をいち早く解く為に活躍する、フラッグシップモデルでありんす。それを安物の量産品玩具で済まそうとか、吉祥院の家としては恥ずかしいだっちゃ」
「お龍とか名前まで付けやがって」
「これは人間国宝の手で作られた最高級品でやんすよ。髪と爪はお孫さんのモノを使用して、この服は京都の老舗呉服屋がわざわざ人形用に仕立てた、まさに本物のお友達、をコンセプトとした一点モノだべ」
「どうせ燃えるゴミで捨てるようなモノとはいえ、生きている人間の生体パーツ使ってるとか気持ちわりいな」
学生時代のTRPG仲間のドール趣味持ちは、工場生産品の、模型屋で売っているパーツを組み上げたモノなのでまだ良かったけれど、今時本物の人間の髪の毛を使ってるとか、伝統工芸品にしても気持ち悪い。
放っておくと髪が伸びそうだ。
まさかあのルーシーとかいう賢者の部屋にあった人形は、もっとヤバイ人間のパーツを使ってたりはしないよなと、寒気がする。
今度その辺のことを、伽里奈にこっそり聞いてみるか。
「お孫さんのパーツが干渉しないようにはなっているでやんす」
「そうかよ。で、実際これはどう動くんだ? まさか徒歩移動だったりはしないよな」
「カーナビかスマホのマップアプリを操作するでやんすよ」
頭が外れるのでその中に対象者と縁のある物体を入れると、それとの縁を通して感知して追跡をしてくれる。
「やることは現代的だな」
モートレルに現れた人形は、どうもある程度の距離からターゲットに向かって歩いてくるそうだから、鎌倉か横浜からえっちらおっちら歩くのを追いかけるのかと思っていた。
「それでは効率が悪すぎるではあーりませんか」
「古風な見た目のわりにやることはハイテクだが、まあ効率はいいわな」
これが指し示した場所に転移して、そこにいるアイザックを追い詰めるのだ。
「やろうと思えば。ある程度近くまで行くと目標に向かって飛んでいくでありんす」
「まあそんなもんだな」
「催涙弾でも持たせて、部屋に飛び込ませて」
「ミサイルかよ」
しかしこんな姿の人形がいきなり部屋に飛び込んできたら、人形趣味のイギリス男も悲鳴をあげるだろうか。
当日は吉祥院と霞沙羅、吉祥院家に仕える魔術師と警察。それからイギリスから来た刑事数名とで奇襲をかける予定だ。
「盗まれた宝物の捜索はどうなんだ?」
「元々あれを研究していた教授が協力をして、魔力反応の捜索を続けているダス。それと並行して、厚木の廃墟から出ていったであろう車両の行方も追っているでやんす」
あの晩に捕まえた、「安らぎの園」の元研究員をはじめとした数人も、厚木の廃墟のことは知っていたけれど、そこから先。組織の技術者達がどこに行ったのかは知らないと供述している。
組織のメンバーは、各々が持っている情報に制限があるので、相変わらず面倒くさい。
厚木に警察がたどりつく前に、あの虫に気が付かれてしまったのが痛い。可能性としては、虫を使っている事に気がついたアイザックが連絡をしたのだろう。
「どっちが先にたどり着くかだな」
あまり時間的余裕は無いから、決行は二日後を予定されている。
吉祥院としては、残った時間を使ってこのお龍さんの探知精度を少しでも高めるだけだ。
さすがの霞沙羅も専門外なので、後は吉祥院に心ゆくまでやらせる事にして、札幌に帰った。
* * *
「体が温まる料理が食べたいわね」
この先しばらく北海道は天気が悪くなっていくという予報があったので、夜は体が温まるような料理も良いかなと、エリアスが提案してきた。
「温まる料理ねー…、辛い料理とか」
「それも悪くないんだけど、冬用の、温度的に温かくなれるような料理ね」
「お鍋とか…、面白みは無いかなー」
何となく思いつきで言ったエリアスもあてがないし、伽里奈の方も思いつかない。
ほうとうはシャーロットが帰ってきてからの方が、入居者達にも新鮮味がなくなって面白くならないし、といいものはないかとネットで探してみることにした。
そしてパッと開いたサイトのニュース欄には「千葉の豚骨醤油ラーメントップ3」という記事が表示された。
「ラーメン」
「ラーメンもいいかなー」
北海道グルメと言えばラーメンは外せない。
道内どこに行ってもラーメン。ラーメンが嫌いな道民などいないと言っても過言ではない。
「前にどこかのサイトで見た、石焼き鍋を使ったラーメンもいいかなー」
熱々の石焼き鍋で提供されるラーメンを想像してみる。
グツグツ煮える鍋の中、ただの丼と違って長い間温かいまま食べられるラーメン。
伽里奈自身は石焼き鍋はあまり使わないけれど、アリサさんが使っていたからこの館にもある。
「いいじゃない」
「そうだねー、味噌ラーメンにして、もやしとか野菜も乗せて、チャーシューも作って」
良さそうじゃないかと、参考にするために改めて石焼き鍋のラーメンを調べたら、少数派ながら出てくる。
石焼き鍋で作るあんかけ炒飯もあるようで、派生品に想像が膨らむ。
「うーん、これにしよ」
「見たことがないわね、こういうのは」
確かにあまり見かけない類いのラーメンだ。
味的には普通の味噌ラーメンと大きな差異は無いだろうけれど、エリアスが希望した「体が温まる」のテーマには合う。
今日も雪が降って外は寒かった。
それであれば作ってみる価値はある。
誰も夜勤が無いような日を選んで食材を集めて、朝から仕込んでみよう。これにしようと決めた。
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