それぞれの状況 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日の高校では一つの連絡があった。
金星接近も今はもう最接近時期を終えていて、時期的には半分以上すぎた。
今の金星は太陽の前を進んでいるので、まだ見ることは出来ずに、じきに明けの明星となっていき、そして離れていく。
ここから先はだんだんとマリネイラの力も弱まっていき、幻想獣の出現も減っていくから、日常的に起きていつ出現はピークは過ぎていき、あと少しの辛抱だ。
連絡というのは、小樽校の生徒にはあんまり関係ないけれど、横浜校から「雪」を学びに生徒がやって来るという事。
小樽校生は基本使う事の無い、野外演習場横の宿舎に泊まって、雪中訓練が行われる。
一回の訓練は三泊四日。それが何組かやって来る。
「横浜校の生徒とは校内では会うことは無いでしょうけれど、もし会うことがあっても妙なライバル心を抱かないように」
B~E組の生徒には関係ないけれど、A組の生徒になると、年に一度の学校対抗戦みたいな競技会があったりするので、次回に向けてどういう奴らがいるのか、お互いに牽制しあったりする事があるそうだ。
「オレ達の小樽校の授業は見せないようにしましょうぜ、先生」
「それがいいわね」
生徒達が言う。
始業式の日のような豪華な授業はさすがに行われてはいないけれど、全てのクラス向けに新式の結界装置が使用されるようになったり、先生達もゴーレムを作るようになったので、そういう変化を他校の生徒には見せたくはないなという気持ちが働いている。出来ればしばらく小樽校だけの物にしたい。
「そうね。新城大佐からもなるべく見せるなって言われているから」
実際は野外演習場と高校エリアは離れているから、向こうは向こうで実習をしていて、こっちの授業が見られることは無いと思われる。
それに向こうの生徒の多くは雪が当たり前にある生活に慣れていないから、わざわざ歩いて見に来るほどの余裕はないだろう。
「ところでシャーロットはいつ帰ってくるんだ?」
中瀬が訊いてきた。
仲間内でラーメンを奢るような話になっているから、そろそろかと気になっている。
「昨晩に話をしたんだけど、試験は終わってて結果待ち状態なんだけど、世界的にこういう状況だから、もうちょっと向こうにいるって」
「あー、まあそうか。確かに家にいる方が安心か」
「地元にいる方が何かあった時に安心だものね」
早藤も残念そうだけれど、今は帰ってこない方がいいだろうと納得した。
「伽里奈君、シャーロットさんの予定が決まったら言ってちょうだいね。お祝いとかしたいし」
「わかりました」
* * *
放課後になると、また一ノ瀬達の特訓に付き合う事になっている。
ここの所は、大学からわざわざ今林家の長男もやってきて、兄弟三人セットで特訓をしていくようになった。
3人でいるメリットを、先日の札幌駅の件や、このところのお仕事で良く理解したようで、今はより良い連携を目指しているという。
今後、学校を卒業して会社に関わった時に、チーム編成を考える上でのいい経験になるだろうし。
とにかく、あの失敗から立ち直ってくれて良かった。
「ほらー、早く作ってよ」
「はいはーい」
5人とも新しい魔法として{重震弾}は身につけたので、今はそれの練度を上げべく、伽里奈の作ったゴーレムを壊すという事をやっている。
それで 今も破壊されたところで、伽里奈はまた新しいゴーレムを作らされている。
そしてこのゴーレム、教師達に打診して、雪解けした春以降に使用する予定の、土のゴーレムを一足早く使用している。
雪と土とで素材が違うだけだけれど、その部分での術式と、頑丈さに振るパラメーター部分に違いが出てくるので、その調整を行いつつ、一ノ瀬達5人はこの調整に付き合って貰うという理由で、グラウンドの一角を使わせて貰っている。
後日、何種類かのサンプルを提出して、それを教師達に検証して貰って、春からの教材として高校と大学で使って貰う予定だ。
降り積もっている雪は伽里奈が撤去して、、この一角だけ土の地面が露出している。そこに崩れた土塊から、伽里奈の魔力を受けて、再度ゴーレムが立ち上がった。
とりあえずは、まだパラメーター調整のために、その姿はとてもゴーレムらしい、ライターというか、積み木を組み上げたようなカクカクした箱形の人型状態となっている。
当然、今回も攻撃するような行動パターンは組み込まれていない。
「ゴーレムっていいよな」
大学の講義でちょっと触れたけれど、何か古くさいよな、と思っていた長男も、使い方次第だよな、と見直している。
三年になったら、一つくらい遠隔操作系の魔術の講義を受けようかなと思い始めている。
「じゃあどうぞー」
出来上がったので伽里奈がそう言うと、5人で攻撃を始めた。
今林兄弟は三人の中で予め役割を決めて来ていて、今日はその役割に従ってトレーニングをしている。
次男が{重震弾}で穴を開けて、残り二人がその穴に別の魔法を放つ、という感じ。
ゴーレムはバージョンアップして、外骨格的な固い面と、それほど固くない柔軟性のある内部を持つという二層に構造になっている。
先日現れた大きな蟹を参考に、より実戦的な戦略を立てて貰おうかなという、伽里奈の考えだ。
これをアシルステラに持って帰って…。
「あの対マリネイラ魔法を試せるようなゴーレムは作れないの?」
一ノ瀬が聞いてきた。
「それねー、吉祥院さんも考えてるんだけど、どうやってマリネイラの力を含ませるのかっていう、マリネイラ系の神聖魔法って、さすがに信者じゃないと使えないでしょ」
「考えてはいるのね?」
それは伽里奈としても、練習用に、アシルステラで反逆神レラの属性をなんとかこめられないのか考えている最中だ。
「折角いい魔法なんだし」
「あれ、活躍してるんだ」
「とりあえず{楯}の方は重宝してるわよ」
「解りやすいものね」
「あれって伽里奈君が考えたのかい?」
今林家の会社には今は神官がいないので、先日の勉強会に参加していないけれど、現場で他の業者や警察からかけて貰ったので、その効果の程は解っている。
「あれは吉祥院様よ。伽里奈アーシアは神聖魔法が使えないもの」
「あんたは毎度そこを強調するわね」
実際に地球では神聖魔法が使えないのだから、一ノ瀬からの扱いには黙っておいた方がいいと思っている。
それに付き合いの上で、ちょっとくらい相手を上げてあげる方がいい。
「でも理解はしてるのよね?」
理解しているから対レラ魔法からの変換を手伝っているわけだけれど。
「まあそこだけ教えてもらってたから」
そうこうしているうちに、このゴーレムは無事に破壊されて、また土塊に戻った。
例えば、幻想獣を倒した後の灰。あれが消えてしまう前に回収して、土塊に混ぜて微弱ながら属性だけを付与することは出来るだろうけれど、あれを回収をした魔術師は今の所いないと聞いている。
あの幻想獣の石を作ったカナタなら出来るかもしれないけれど、どこにいるか解らない相手に訊くわけにはいかないし。
ただ、変にマリネイラの力を利用するようなことをしては、幻想獣を呼ぶような事態を招きかねないので、正直何もしない方がいいだろうとは思う。
そこは注意して、ダメならダメで研究を打ち切ればいい。
「伽里奈アーシア、次よ」
「はーい」
その辺は日常的に現れる幻想獣の討伐で使って貰って、また次の金星接近の準備をして貰うのがいいだろう。
今はやる気を出している一ノ瀬達の相手をするのが大事だ。
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