それぞれの状況 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
その日の夕食終わりに、ロンドンにいるシャーロットから連絡が入ったので、折角だからとリビングの大きなテレビをPCモニター代わりにして、オンラインミーティングをすることになった。
アンナマリーも最近はちょっと寂しそうにしていたので誘って、入居者全員で談話スペースに集まることになった。
「これはすごいな」
遠隔地と会話が出来る魔工具はアシルステラにもあるけれど、設置しているのは王家の領地の間だったり、魔法学院くらいしかないので、アンナマリーにはあまり馴染みが無い。
しかもこのテレビは画面が50型であって映像が結構大きいので、シャーロットの姿が大きく映し出されて圧巻だ。
向こうのロンドンは時差のおかげでまだ午前中。外から明かりが差し込む明るい部屋には、色々なクマのぬいぐるみが、ある程度整然と置かれているのが見えた。
「すごい部屋だな」
クマ好きなのは解っているけれど、この状況に霞沙羅はちょっと呆れてしまった。
とはいえ、本棚にはぎっしりとハードカバーの魔法書が収納されているから、その辺はちゃんと棲み分けしているようだ。
まあでも整理整頓が苦手なルビィには、同じ魔術師としてぜひ見習って欲しいくらいには纏まっている。
じゃあ繋がったんだな、とアンナマリーが手を振るとシャーロットも嬉しそうに手を振ってくれた。
「それでどうだったんだ?」
聞いていた試験スケジュールは、ロンドン時間でいう昨日のお昼に終わっている。
「全部ちゃんと出来たわよ。提出したレポートに関するディスカッションも、今後のテーマと研究方針説明も、勿論実技もね」
「そうであって貰わねば困るぞ」
フィーネはワイングラスで赤ワインを飲みながら、膝に乗せたアマツの背中をナデナデしている。
いつも通りに黒いドレスを着て、部下の報告を受けている悪の首領のようだ。
「その結果はいつ頃出るんだ?」
「何も問題無ければ数日で。気になることがあったらまたお呼び出し、っていう感じよ」
「気になることがあったらっていうのがなんだけど、シャーロットが手応えを感じてるんだったら、大丈夫なんじゃないかなー」
「それはもう、準備は万全ですから」
試験が終わったというのもあって、シャーロットも緊張が解けて、機嫌が良さそうだ。
まあ多分、フィーネが何も言わないので大丈夫だろう。
それに伽里奈だけじゃなくて、霞沙羅も吉祥院も勉強については色々と手伝った。
シャーロットの元々の才能もあるし、この世界で最高の環境下と言える状態で頑張ってきたのだから、これはもう大丈夫だろう。
それでなくてもシャーロットは出来る子だ。
「結局のところ、シャロはいつ帰ってくるんだ?」
アンナマリーはやっぱりこれが気になる。
伽里奈や霞沙羅に対して魔術とか剣術とか装備の整備とか、そういう事で話しをする機会はあるけれど、やっぱり同じ女の子で同年代だと話の内容が違うので、終わったのなら早く帰ってきて欲しいなと思っている。
「結果を待ってからになるんだけど、金星の接近中じゃない?」
「関東の方で事件の気配があるからな。恐らくここ数日は日本にいない方がいいかもな」
世界中が火星の影響を受けているから、イギリスにいれば安全かと言われればそんな事は無いけれど、住み慣れたロンドンにいる方が、何かあった時にも避難するなり、戦うなり、助けを求めたりの対処がし易い。
「人形遣いのアイザックはどうなったの?」
「吉祥院が捕まえる準備してるぜ。一旦は追い詰めたんだがなあ、数秒の差で逃がした」
「え、そうなの?」
そんなところまでたどり着いたのかと驚いた。父親や祖父達、協会上層部である「編纂者会議」も手を焼いている人物だ。
一体何をやったのだろうか。
「潜んでいた場所は押さえたから、今後の捜索に必要な、あいつの持ってた道具やら髪やらを入手して、こいつの所の賢者に道具の提案をして貰ったからな。最終調整後に吉祥院家配下の人間を連れて捕まえに行く予定だ」
「事件は北海道とは関係ないから、アイザックを捕まえたら、シャーロットの危険は無くなるかなー」
実際の所、ホールストン家のご令嬢に危害を加えようとする危険性は見当たらないのだけれど、念のためだ。
「捕まえたら連絡するぜ。いずれそっちの国への引き渡しもあるだろうしな」
「その事は、パパに言っておくわね」
「にゃーん」
「あーん、ネコちゃん、早くなでなでしてあげたいの」
アマツもシャーロットの声を聞いて、会いたくなったようだ。
「帰ってきたらペンギンと熊を見に行こうぜ、ここの英雄様に」
「そう、クマちゃん牧場! クマちゃんにおやつのリンゴを投げてあげるのよ」
実家に帰った後も、試験対策の合間の息抜きにクマちゃん牧場のHPや、行った人が投稿した動画を見るなりして、シャーロットの中での期待は上がっている。
残念ながら施設の近くにある温泉には全く興味は沸いていない。とにかく、沢山のヒグマを見に行く。それをモチベーションに試験を乗り越えたのだ。
「そうなるとシャーロットは次の料理実習は無理そうだねー」
「え、あれ、いつやるの?」
「二日後だよ」
「えー、ほうとう…」
「ほうとうくらい、麵は山梨から通販で買っておくから、帰ってきてから家で作ろうねー。温かい食べ物だから、まだまだ寒い日は続くし、皆も食べる気満々だから」
「はーい」
山梨からの便が関東での事件に邪魔されなければいいけれど。今の道路網は東京を通らなくても良いように整備されているから、大丈夫だろう。
「なあ、これって、明日とかでも出来るモノなのか?」
話が終わりかけて、アンナマリーが聞いてきた。
どういうモノかと参加してみたら、単に話しをするだけだから気軽に出来るモノだと思い始めた。
「この会話のこと? 明日も言ってくれればこの時間を空けておくけど」
アンナマリーはシャーロットと話をしたいらしい。
「なんだったらこのPCを使えば良いだろう。お前の部屋に持って行けば、二人だけで話しが出来るぜ」
「画面は小さくなるけどねー」
「そ、そうなのか」
これまでは試験勉強と本番の試験があったから、悪いかなと思ってシャーロットに連絡を取っていなかったけれど、もう終わったのならその辺の遠慮はいらない。
アンナマリーが話をしたいのなら、時間的には時差があって限られるけれど、何の問題も無い。
「ならば明日は小娘共だけで話すと良い」
「お、おう、よろしく頼む」
「明日は家にいるワンちゃんを紹介するからね」
「ああ…。犬もいけるのか?」
「だってネコちゃんが映ってるでしょ」
よく見るとこっちの映像が右下に小さくワイプで映っていて、そこに小さくアマツが映っている。
「この辺にあるカメラの範囲に入ればなんでも映るのよ」
「そうだったな」
PCを繋いでさえしまえばアンナマリーが操作をする事は、最後に終了させること以外には無いから、セッティングだけはしてあげよう。
新たに一人が入居したけれど、すぐ一人が抜けてしまってちょっと寂しくなったやどりぎ館に、久しぶりにシャーロットの明るい声が響いて、賑やかな夜になった。
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