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そのどさくさに紛れよう -5-

 先程の男は外の騎士団の施設に運び込まれていたから、3人も移動した。ヒルダは見られる訳にはいかないから、頭からローブを被っての移動を行った。


「まったく、意外と口が硬いな」


男は手足を鎖で縛られて、尋問室にぶら下げられているが、尋問する兵士二人に対して挑発するようにニヤニヤと笑いを浮かべている。


「何も喋ろうともしないの?」

「ええそうです」

「結構簡単に喋りそうな顔をしているがナ」


 歴戦の勇士というような顔はしていない。どこにでもいるような特徴の無い、地方の小さな町でなんとなく門番でもしていそうな、よくある顔をしている。


「出来たてのゆで卵でも口にねじ込んでみる?」

「そんなので喋るの?」

「熱いんだよー。それはともかく、首謀者グループの一角らしいから色々と知ってそうだねー」

「へ、ただの一介の冒険者だよ、オレは。中で何が起きてるとか全く解らないな」

「ではなぜ屋敷の兵士に成り代わっていたの?」


 ヒルダは人払いをしてから顔を隠しての尋問を開始した。


「さあな、なんか面白い事が起きていそうだから興味本位で聞いていただけさ」

「ここの明かりは暗いナ。私がちょと明るくしてやろウ」


 尋問室には窓もなく、明かりは壁にぶら下がっているランタン1つだけだ。これでは暗いからと、ルビィは光球を生み出して、この男の顔面だけを明るく照らした。その行為に対して、男はまぶしそうに顔をしかめただけで、魔法に警戒をすることはなかった。


 それを合図に伽里奈は口を開いた。


「君の所のリーダーはゾンビにされててね、ボクが最後の瞬間に立ち会ったよ。彼はキミ達のことを最後まで心配していたのに、それを裏切るなんて酷いなー」


 伽里奈はちょっと怒りを込めるように喋り始める。ここからちょっと大変だ。でもこれにはワケがある。


「アイツは正義感だけはあったが間抜けな奴だったな。まんまと俺達の隠れ蓑になっていたことも知らずにリーダーをやってたよ。盗賊退治にかこつけて魔剣をくれてやったら勘違いして9番依頼に飛びついてくれて、最後まで役に立ってくれた」


 知らないと言っていたのに、冗談みたいに口が滑り始める。魔術師なら、ルビィの光球が出た時点で守りに入るのだが、その知識も無いのか、なんとも無防備だ。


「あの9番の依頼は、まさかキミ達が仕掛けたウソの依頼? 死霊魔法の道具にする為に?」

「9番の依頼なら命を落としても怪しまれないしな。依頼主は予め殺しておいて、俺達の仲間が操った」

「なんて酷いことをするんだ。そこまで人を陥れてまでやることがあるの? まさかこの町を死霊使いの実験場にする気?」


 ここでちょっと間抜けなことを言ってあげる。


「お前はバカか。そんな事のためにこんな大規模な事件を起こすかよ」


 効果は抜群で、仕掛けたルビィも哀れだなあと苦笑いをしている。まさかこの明かりが彼の精神精神に悪影響を及ぼしているとは思ってもいない。


 今日は各段に効いているなと、伽里奈は思い、ヒルダは一転して黙りに入った。彼女の出番はもう少し後だ。


「じゃあ一体、モートレルの市民をこんなに犠牲にしてまで、何をやっているっていうんだ」


 まさか伽里奈達が中のことを把握しているとは思ってはいない。


 まずは、中にいるあの中心人物のことを知りたいだけだ。ついでに何でこの町を狙ったのかという事も確定させたい。


 見たところかなりの小者だけど、プライドだけは高そうなので、そこをくすぐって、おだててやれば後は勝手に喋ってくれる状態だ。


 ルビィの作った明かりの正体は、本来は戦場で戦う人間を鼓舞していつも以上の戦闘力を発揮させる【戦意高揚(せんいこうよう)】という補助魔法の変異版で、ただただ気持ちを興奮させて精神を攪乱させる効果を持っている。

 光を当てられた男は、長い時間をかけた計画が予定通りに進み、悲願達成は間近となり、自分はその一端を担った大物、という気持ちよさに酔いしれている。

 勝った、という思いが増大し、伽里奈からのちょっとお間抜けな質問には勝者の立場として、口を開いてしまっている。

 だがまんまと魔法にかかってしまっては、自分が術中にはまっていると気がつく事はもう無い。

 ルビィの顔も知らないようだし、表向き冒険者をしていた割に無知にも程がある。まあ知っていたとしても、ルビィの魔法に抵抗できはしないけれど。


 そんな彼の気持ちをくすぐるべく、伽里奈の演技はまだ続く。


「あのスケルトンはワグナール帝国の装備をしていた。まさか滅んだはずの帝国と繋がりがあるのか、キミは?」

「ほう、まさかそんな事まで見ていた人間がいるとは、間抜け集団の中にもそれなりの奴がいたか」

「でも、帝国の人間は魔女戦争でその殆どが死んだはずなのに? 皇帝の一族はいち早く滅ぼされたはず。皇帝の血統もなく、大義名分を失って今更どうしようというのさ?」

「ははは、皇帝の一族が全て死んだと誰が決めたんだ? 皇帝陛下ともあろうお方が、何も考えずに側室を迎えるわけがないだろう。いるんだよ、他国の人間が知らない血統者がな」

「な、そんなのが。まさかキミ達のパーティーにいたなんて」


 ワグナール帝国が奉っていた神は、反逆神レラと呼ばれるオリエンス神の元眷属だ。エリアスと同じく、四大神から一つランクが落ちる神様で、人の邪な心に対応していて、世間では邪教という形で一部の人しか信仰されていない。


 さっき錫杖を手にしていた女の子が前皇帝の子供だというなら、なんらかの宗派の神官を装っていた事になる。そこでレラの力は使ったらばれてしまうし、どうしていたのだろうか。何らかの手法で誤魔化していたと考えられる。道具を使うか、自己催眠を駆けるか、前例は無いことはない。


「皇帝陛下の忘れ形見は俺達と共に市中に隠れ、屈辱に耐え忍びながら、かつての帝国人を集め今日という日を待ったのだ」

「まさかこの中の人達が、いや、でも100年前の建国に使ったあの錫杖は、学院の宝物庫に封印されているはずだ」


 ー皇帝の忘れ形見はもう解ったから、あれをどうやって宝物庫から引っ張り出したのか解ればいいんだけど。


「協力者が我々にまた帝国を作れと、錫杖や結界装置を託していったのだ」

「ど、どんな奴が?」


 協力者という言葉が出た。だったら帝国残党以外にもまだ戦力がいるのだろうか。それにしてもよく喋る。


「素性は俺達にも解らん。だが相当の使い手だとオーレインは言っていた」


 ここで1人の名前が出たことは今は突っ込まないことにした。その事については『オーレイン』に聞いた方が良さそうだから、何とか生け捕りにしたい。恐らく、皇女の側にいる人物だろう。


「そいつは俺達に魔装具や魔工具を作ってよこし、王者の錫杖まで取ってきてくれた」

「なんの理由があって?」

「俺らがどういう結果を残すのかを見たいだけだそうだ。帝国の再興には興味を示さずに去って行ったよ」


 という事は、残党の中にはもういないのだろう。


「だがそのおかげもあって、錫杖を使ってこの中の人間は新たな帝国の一員になるべく教育が始まっている。新たなワグナール帝国はこのモートレルを帝都として始まるのだ」

「でも、モートレルだけではあの帝国が再建できるとは到底思えない。戦力もフラム国王を含めた他の領主が協力すれば太刀打ち出来ないはず」

「英雄ヒルダも勿論帝国の民になって貰う。それにここには王都の将軍の娘もいるそうじゃないか。それも臣民にしてしまえば王宮も下手に手が出せまい」


 伽里奈の予想通り2人を利用する気だったようだ。ヒルダは強いし、帝国側に回ればルビィ達も手を出しづらい。しかもアンナマリーがいるから将軍達も手を出しづらくなる。


「この町を根城にした頃には、まさか将軍の娘が来るとは思わなかったがな。それが決め手となって、俺達はここに集まったのさ。ヒルダもまさか、自分の足下に皇帝の娘が潜んでいるとは予想もしなかっただろうな」


 ーじゃあそろそろいいかな。


 3人は目を合わせると、ヒルダが羽織っていたローブのフードを取った。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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