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準備運動 -4-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 全長100メートルを越えるトライデントの姿になった空霜(くうそう)霞沙羅(かさら)吉祥院(きっしょういん)が跳び乗って、戸越方面へと飛んだ。


 急にこんな事をしたのは急に動き出した完成態が地中を移動して、撤退中の、神奈川所属の隊を追っていることが解ったからだ。


 各隊の戦力は充実しているけれど、対処出来るのは対成長態までで、さすがに完成態を相手にするには人材が足りてない。


 数ではなくの人員の質だ。こればかりは仕方が無い。


 完成態と言ってもその中での格差はあるけれど、その追ってくる魔力の大きさ的に今日のメンツではどうにもならないことが推測される。


 他の隊にも連絡を入れ、霞沙羅達への援護はいらないからとにかくもともと来た道を真っ直ぐに振り向くことなく逃げるように、と伝えている。


 各隊共に感知装置を持っているから姿は見えずとも、これだけ大きな力を持つ幻想獣がどこにいるのかは見えているだろう。


「空霜、薙ぎ払ってちょ」

「あいあーい」


 空霜はやや前方を下向きにすると、三つ叉の真ん中の刃から熱線を放った。


当然、逃げている部隊のその後ろを狙い、放たれた光線は地面を大きくえぐり、空高く爆煙が上がった。


「人が住んでねえからやりたい放題だな」


 厄災戦の時は後半になるまでは、この旧23区にもまだ人が住んでいたので、攻撃が大雑把な空霜はなかなか能力を発揮することが出来なかった。


 でも今は誰にも迷惑がかからない。


 爆煙の中からは、全高30メートルほどの一つ目、サイクロプスのような大男が地面を割って姿を現した。


 でも金棒みたいなのを持っているので、どこか和風な感じがする。


「こっちの世界にはいねえだろ」

「ほんと、不思議だねえ」


 アニメか漫画にでも影響されたのだろう。


「日本人の想像力もしっかり働いてるねえ。だいだらぼっち、とか言うのと混同しているんじゃないかい?」

「そんなのいたなあ」


 それは日本の昔話に出てくる化け物だ。


 いや、サイクロプスもこっちでは物語の生き物か。


 完成態はその手に持った金棒で地面を殴りつけると、その衝撃で周辺の建物が破壊された。


 続いての攻撃に対しては、吉祥院が障壁を張る。一つ目から稲妻が放たれたが、見事に防がれた。


「完成態って言ってもまあいつも通りの下の下だねえ」


 能力はどうあれ、強力な完成態を旧23区から外に出してはいけない。多摩川から先には多くの人が住んでいるので、一体だけでも甚大な被害が出るだろう。


「ほんならウチがズババババーンとやってやるわい」

「じゃあやれ」

「やっぱりそれがいいね」

「おうさ」


 言うが早いか、空霜は2人を乗せたまま突然超音速まで加速して、幻想獣の土手っ腹に突撃して、上下真っ二つに切断し、その直後に追い打ちとして柄の後方、石突きから大量の雷の球体をばら撒き、周辺に稲妻が激しく巻き起こる。稲妻が終わる頃にはその場所には幻想獣の残した灰が風に吹かれて、空に消えていった。


   * * *


星雫(せいだ)(けん)は便利で良いわね」


 霞沙羅達の動きを、横浜に帰る道すがら見ていたカナタ達は、空霜の姿も見ていた。


「こちらのは消滅してしまいましたからねえ」


 ヤマノワタイにいた星雫の剣はカナタ達の持ち物では無く、カナタ達の国の魔術協会の持ち物だった。


 それがあの戦いの最後で、戦いの元凶である「星堕(せいだ)の剣」を倒すために失われた。


「運良く姿も拝めたことですし、帰ることにしましょう。次の分を作る時間も必要ですしね」


 さすがに今日一日で終わる作業ではないから、また別の日に再開する予定だ。その為にまだまだあの板を作らないといけない。


「ところでさ、この前カナタがあのファンタジーな所に送った女の子、どうするのよ?」

「そうですわね、評判は良いと噂のエルフになすりつけてきたので、野垂れ死んでいるような事は無いと思いますが、どこかで一度見に行きますか」


 あの芸術で売っているという国の宮廷魔術師は、直接面識があるわけではないけれど、腕前も含めて良い評判は聞いていたから、素性が解らないとがいえ人畜無害そうな少女を見殺しにするような事は無いだろう。それに魔術師なら気になる書類や道具を持って行かせている。


「あのおバカは多少は勉強する気は出ましたかねえ。場所や文明が違っても、魔力の適性だけで魔術師になれるほど業界は甘くないという、現実を受け入れられたかどうか。見習いだけでなく正規の魔術師であっても多くが日々苦労しているというのに、何となくで学生でいるのはやめて欲しいですわね。死ぬほどやれとは言いませんが、あれは何もしていないようじゃないですの」


 水瀬の一族は魔術の才能はあるけれど、誰もがその才能に溺れること無く日々磨きあげてきた。あのちょっと才能の劣るバカ親でさえもだ。


 天才と呼ばれた自分でさえも、5年以上をかけて多くの場所からその土地の魔術をこの身に修めて、ようやく世界の真実にたどり着いたのだ。


 折角本人が行きたいという異世界のイメージに合致しているであろう場所に送り込んでやったのだ。さぞや喜んでいることだろう。


 あんなロクに文明も無い大地であがいている魔術師達の苦労を見るがいい。


 夜は暗い、紙は自由に使えない、電子機器なんてものは夢のまた夢。書籍は大量生産なんか出来ないから図書館では常に本の奪い合い。


 町の周囲は野生の動物だけでなく、場所によっては盗賊や魔物が徘徊し、忘れた頃にはドラゴンが飛んでくる。


 そんな劣悪な環境で勉強する人間の必死さを見て、何も感じないのであればそのまま帰ってこなくていいとさえ思う。


「明日にでも一度見てきますわ」


 目印は付けてあるから見つけるのは簡単だ。


 とにかく作業が終わった今は、横浜に戻るとしよう。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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