準備運動 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
埼玉の三郷にあるマンションに籠もり、アイザックは横浜大の宝物庫から奪えなかった魔工具の代用品の作成を行っていた。
吉祥院の追跡から身を隠すために、張り続けている結界の中での少し不便な生活だったけれど、その甲斐あって吉祥院からの追跡は回避出来たと確信している。
そうでなければここもいつバレていてもおかしくはない。
その為、部屋から出ることは無く「安らぎの園」関係者に、指定した素材を持て来て貰ってひたすら作成に没頭、という生活を送っていた。
幸いスマホやイPCは問題無く使えるので、インターネット経由を使って飯能にある急造のアジトからの情報も貰い、なんとか一度しか使えない代用品は完成した。
本当のところは後に続く他の同志達のために、その後も使える方が良かったのだが、諦めかけたこの魔工具が一度動くだけでも御の字だ。これでいい。
しかしこれを設計した人間は、一体何を考えているのか。
これは噂でしか聞いたことは無いけれど、幻想獣の成長態と人間を融合させる魔工具が存在したらしい。
例によってそれを使った事件は霞沙羅と吉祥院に阻止されて、魔工具は協会に持って行かれ、今は封印されているようだが、見る事が出来るなら一度見てみたいものである。
「これがそうですか。さすがは噂の魔術師だけある」
代用品は使いの者が受け取り、すぐに飯能まで運んでいった。
「しかし吉祥院千年世の追跡を逃れるためとはいえ、いつまでも結界に閉じこもっているわけにはいかんだろう」
PCの画面には例の仮面の男が映っている。彼も魔工具の代用品が出来たことを今確認したので、喜んではいるが、アイザックがこのままマンションの一室に閉じこもっている状態は良くないと思っている。
得意とする魔術の性質上、前に出てくるタイプでは無いけれど、これでは自分達が人形による援護も受けられないので戦力が低下する。
「一応持ち運びが出来る小型の結界と言えばいいか、探知を妨害する魔工具は作っておいた。ある程度近くに来られるとバレる可能性はあるが、遠距離ならば位置がバレることは無いだろう」
「おお、そうか」
「決行の日が決まれば教えて欲しい。全部は回収出来なかったが、人形はまだ充分に手元にある」
それに吉祥院の意識を他の方向に向ければいい。実際にこの計画が発動すれば自分にかまけている暇はないだろう。
「疲れただろう。それまではゆっくりと休んでいてくれ」
なにせこの金星接近中に間に合わせなければならないから、ここ数日は寝食を忘れるように製作作業に集中していた。ここは一つ、本番に備えて体を休めておきたい。
まずは軽く何かを口に入れて、一眠りするとしよう。
「何か用があれば連絡をくれればいい」
「ああ解った。頼りにさせて貰うよ」
* * *
幻想獣の討伐に向かった部隊は、それぞれが順調に目標を撃破している事が報告されている。
ある隊は実際に成長態との交戦も行われている。ただそれは事前にいる事はわかっていたので、メンバーも装備品も対応するモノを編成して行っている。苦戦はすれど撃破は可能だ。
本当に便利な道具が出来たものだと現場は喜んでいる。
そして戦闘の結果、怪我人は出てはいるけれど、吉祥院の手元に繋がっている感知器からのデータからも、幻想獣は着実にその数を減らしている。
「二人の出番は無いかもしれないな」
このプロジェクトを指揮している、神奈川側の大佐が声をかけてきた。
「その方がいい」
厄災戦終結からもう6年が経っているから、一時的に減ってしまった軍の人材も少しずつ充実はしていっている。
いつまでも一部の人間に頼るという体制は終わりにして欲しい。
霞沙羅がいつまで経っても前に出たがるのも悪いけれど、それだけ特別な戦闘力の持ち主だからというのもある。ただそれも、この金星接近が終わってから次までに時間はあるから、次回以降はもう少し楽になることを期待している。
「神奈川勢は戸越、東京勢は三軒茶屋までの目標は撃破出来たようで、ほぼほぼ終わりと言っても良さそうじゃん」
もう少し中の方に前進しても、今の所は特に何の反応も無い。だったら調査のために少し深入りしても、という欲が出てくるけれど、今日はこれまで何度も戦闘を行っている事を考えると、ここまでにした
方がよいと思われる。
今回参加した彼らも、これだけ実戦も行ったのでし中々いい経験を積んだだろう。その経験は次の機会に生かす為に誰も欠けることも無く持って帰ってきて欲しい。
この良い感知器とはいえ停止している幻想獣には反応しないから、過信してはいけない。
何が埋まっているか解らないこの旧23区を戻ってくるという事も危険が無いわけではないから、各個人の魔力や弾薬などもまだ残っている今、ここまでにするべきだ。
「上空からの観測はもう少し先まで残しておこう」
大佐は調布の方にも連絡を取り、このプロジェクトの一応の完了を告げて、各隊に撤退の指示を出した。
「ここに帰ってくるまでは油断は出来ないがな」
金星の影響を強く受けている今だから、何も観測されない帰り道も緊張は続く。
それぞれの隊が撤退を始めたので、大佐はまさかがあった時の指揮のために、観測室に戻っていった。
「霞沙羅、遠くのことなので定かでは無いのだが、新宿の手前くらい、渋谷辺りかな、そこに完成態の反応があったよ」
「視ていたのか。それでどうなんだ」
「すぐに消えたよ。その直前に別の魔力が動いて、完成態の反応がゆっくり消えた」
「あんなに奥までは人は出していないだろう。どういう事だ?」
専用の設備を使えば、もっと遠くまで正確に観測が出来るのだろうけれど、今日は吉祥院が個人で意識の拡大で旧23区を視ているので、その辺はいまいち細かく情報は取れなかった。
それに場所も悪い。新宿に近くなるほどに、魔術師の探知は、残存して漂っているマリネイラの力で吉祥院程の魔術師であっても視ているビジョンが歪む。
航空機から直接望遠鏡ででも見れば何かは解るのだろうけれど、あの辺は安全のためにあまり低くは飛べない事になっている。
「そんな事より空霜、ちょっと乗せて行ってくれないかい」
「ほう、そろそろ出番かい?」
さっきまで机に突っ伏して寝こけていた空霜が起きている。
「ウチのこと、忘れられているのかと思ったわい」
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