侍にご褒美を -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
フィーネのお店があるガラス工房は、番組ロケがあるので午前中はお休みしているけれど、映像作りのためにお店自体はシャッターが上がった状態なので、エリアスが予め現場でマネージャー業務をしている吾妻社長に連絡をしてくれていたので、中に入ることは出来た。
お店は小樽運河近くの観光エリアにあるので、中で何をしているのか気になる人達が足を止めたりしているけれど、撮影している番組側のタレントは道民以外は知らない人ばかりなので、観光客が店舗前に長い時間滞留しているようなことは無かった。
3人はお店の中に入れて貰うと、占いブースでカメラが回っている最中だったので、吾妻社長がいる撮影の邪魔にならない場所で見学することにした。
そうしたのだが、スタッフの一人が霞沙羅の姿に気が付いて、今は撮影に使っていないサブの小さなカメラが一台、こっちを向いた。
霞沙羅はつい先日、金星接近の件で地元キー局を回ったから、何となく何かを期待するような目をしているけれど、とりあえず構成通りのシーンを撮っている最中なので、黙っていた。
内容は、今年は始まったばかりで、MCの男の今後一年の運を上げる為にフィーネの指定するラッキースポットにこれから行くぞというくだりだ。
この少し前には結構辛辣なことを言われていて、場面作りは出来ている。
そして榊の目はやっぱりMCの男に注がれている。
「新城大佐はこれからどうするの? どうもスタッフに見つかったわよ」
「どうもこうも、広報には連絡してあるよ。時期も時期だしな、放送は今の金星接近が終わってからになりそうだが、今後のために軍のPRをしていいなら使ってもいいとよ」
「榊中佐もいるようだけれど」
「関東でも何県かのU局で放送してるんだろ。三ヶ月遅れだが。まああっちでの視聴者は少ないだろうが、何かしらの宣伝にはなるだろ」
「解ってるわねえ、新城大佐は」
放送前にVTRの監修は受けなければならないだろうけれど、ここの局だって軍とのやり取りは慣れているはずだ。その辺は上手くやるだろう。
そしてシーンが終わったところで、出演タレント達は、恐らくフィーネは来ていることが解っているとして、一息ついたところで、カメラが一斉に違う方向を向いたので、何事かと思ったようだ。
「えー、新城大佐が」
「わー、大佐が見てた」
「え、何、なに?」
出演者達がまさかの人の登場に驚いた。
そしてタイミングを計っていた番組ディレクターらしき男性が吾妻社長に近づいてきて、説明を受けていた。
「放送してもいいんですか?」
「大佐の方で、広報に一報は入れているそうよ」
この吾妻社長が霞沙羅と親交があったり、軍の広報にも顔が利くことは知っているから、ディレクターもその発言を疑うことはない。
「そうですか。おい、社として一応連絡しておくんだ」
指示を受けてスタッフの一人が広報の窓口に確認を取ると、霞沙羅から予め話が来ていたので、テレビ局として仮の了承も簡単に取る事が出来た。ということで
「じゃあいいんだろうよ」
「そうですか、ではハプニングシーンとして、番組で使わせて貰います」
「ついでに、ここにあのバンドマンのファンだという榊中佐がいるぜ」
ディレクターが霞沙羅の横を見ると、コートのフードで顔を隠した榊中佐がいた。
それを見たディレクターは意地悪そうに笑うと、すぐに頭の中でシーンの構成を組み上げて、霞沙羅と榊の2人にどういう事をして欲しいかを伝えた。
なおPRはこのシーンとは繋げにくいので、この場面が完結した後に別撮りにしたいという。
実は占いシーンの最中で、MCのバンドマンが今年こそは自分達のファンだという榊にライブ会場で声をかけて欲しい、と言ったらしく、じゃあここで声をかけてあげてよとなった。
榊の方には遠目という事もあってまだ気が付いていないので、運気アップを目指す企画内容なだけに、そのスタートには丁度いいとのことだった。
「良かったじゃないですか。なんか家でソワソワしてたんですよ」
「伽里奈君はフィーネさんにお弁当を渡すんじゃなかったの?」
「そうなんですけどねー、撮影しているあっちが先でしょう」
霞沙羅が近づいていくと、番組アシスタントのモデル2人が「お久しぶりです」と盛り上がって、同じく寄ってきた榊がフードをあげるとバンドマンが「え、いきなり、嘘でしょ?」と盛り上がった。
しかもさっきスタッフが緊急で軍に連絡をしていたので、仕込みでは無いのを見てしまっている。
榊からは正式に「バンドのファンでライブにも行っていて、この番組も最初から撮って録画保存してます」と聞くと、場は盛り上がった。
バンドマンは榊よりも何歳か年上。
でもあの厄災戦での活躍を見て、その強さに惚れ込んでいて、霞沙羅と違って露出が少ないのをやきもきしていたのだそうだ。
それで一度でも会えないかと思っていたとの事。
「榊さん、良かったなー」
こっちに来る前からこの番組のことを気にしていたから、バンドマンの近くに行けてよかった。番組の邪魔になるどころか、ちゃんと企画の趣旨に合致したサプライズになった。
ひょっとするとこれを見越して邪龍神様が現場で会話を誘導した可能性はあるが。
伽里奈の方は目立つことなくフィーネに弁当を渡し、榊はちゃっかり持って来ていたバンドのグッズであるタオルにサインを貰った。
それを見た、さっき意地悪そうな顔をしていたディレクターはハプニングシーンが成功したことと、いいシーンが取れたことに満足していた。
番組側は通行人扱いで英雄2人が出てくれたのでいきなり取れ高が多い展開となり、出演の条件としての軍が求めるようなPR映像も収録した。
「あんなに機嫌の良さを顔に出した榊はあんまり見たことがないな」
「ハルキスとかを紹介してもあんな顔はしていませんしね」
「あれはあれで喜んでるんだぜ」
そうでなければ自分の歓迎会に追加で呼ばないだろう。カテゴリーが違うだけ。
結局、出演者達がロケバスに乗ってラッキースポットに向かうところを見送るシーンまで撮ってから、3人は余市に向かって歩き始めた。
後日の放送を見たら、フィーネに渡したお弁当がなぜかロケバス内でのシーンで話題になって、事務所の年始からのインタビュー記事も被せて、思ってもみない取れ高を稼いでいた。
フィーネは皆で食べるために多めに用意させたんだろうけれど、これも織り込み済みだろう。
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