専門家の底力 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
翌日には4人で魔術学院の賢者ルーシーを訪ねた。
ルーシーの方は、霞沙羅達の応対はこれまで大賢者タウが中心となってやっているものだから、自分の方に直接来るとはと驚いていたけれど、最近話題になっている人形の話と解ると快く迎え入れてくれた。
やはり天望の座の一員ともなると、その研究部屋も広くて、置かれている机もルビィのモノとは違って大きくて上質。応接用に使えるスペースも余裕があるから、体の大きな吉祥院でも余裕で座ることが出来た。
若い見た目ながら中身はお婆ちゃんのルーシーの部屋はビンテージな書籍は物品が多く、研究対象となる歴代の人形が棚にずらっと並べられている。
遠隔操作をするモノ、自律可動でパートナー的に使うモノ、呪いに使用するモノなど数十体。人の形をしたモノから動物の形をしたモノまで様々が取りそろえられている。
「おお、これは期待出来そうだな」
そんな部屋の様子に霞沙羅も吉祥院もルーシーが専門家だという事が見て解った。これなら賢者、それもフラム王国のトップクラスのお知恵に期待出来るだろう。
ルビィから昨晩起きた事件の一部始終を説明して、破壊した人形とペンダントを一セット渡した。
「中々古い作りの人形ね。どこかの古道具屋かダンジョンから出てきたモノかしらね。少し調べれば出所も解るかもしれないわね」
「すまないが、私らは余所者だが、こういった人形を利用してある人間を捕まえたい。この目標物に向かっていく特性について、基礎技術を教えて貰いたい」
霞沙羅と吉祥院の作戦としては、結界に閉じこもったアイザックではなく、彼が持っているであろう人形に向かっていく人形を作ろうと発想を変えた。
人形は、吉祥院が破壊したモノと、東戸塚のマンションに残されていた数個がサンプルとしてあるので、その反応を追うような人形を作ろうとしている。
その上で、場所が定かでは無い遠隔地へどう効率的に近づけるかどうか、それを知りたい。
鍛冶の霞沙羅も人形は作ったことがないし、吉祥院も遠くにある人では無い物体を対象とするような呪術の技術があるのなら、教えて貰いたいところだ。
「…アリシアちゃん、パフェが食べたいわ」
「パフェですか? 急に?」
「ちょっと頭が疲れてるのよね」
「まだ午前中ですけど」
ルーシーは先日のクラウディア歓迎の時にいたのでパフェを食べているから気に入ったのだろう。
ただ、パフェと言われてもこの学校には今、必要な食材は無いだろうし、アイスを作ろうにもちょっと時間がかかる。
そこに霞沙羅から肘打ちが入った。
「おい、やどりぎ館にアイスがあるだろ」
「え、あー、はい」
霞沙羅の言うとおり、アリシアはここ最近に作ったアイスを常に冷凍庫にストックしてある。
北海道の外は寒いけれど家の中は温かいからデザートの需要があって、常に在庫を切らさないようにしている。
「お前は今は向こうの人間だ。アレを使って何が悪い」
冷蔵庫のアイスを使えというのだ。
いやまあ、やどりぎ館ならパフェくらいすぐ作れる準備はしている。
今はアシルステラにいるから、アリシアはこっちで作らないといけないと思い込んでしまった。
本当に仕方の無いお婆さんだ。
「じゃあ作って来まーす」
エリアスに回収を頼んで アリシアはパフェを作るためにやどりぎ館に一旦帰ることにした。
その間にルビィは昨晩の説明をして、霞沙羅達はアイザックの人形の仕様を説明しておいた。
* * *
「またでかいの作って来やがったな」
パフェ専用として使っている、背の高いガラスの容器を使って、顔の長さよりも背の高いパフェを作って持って来た。
霞沙羅の言うとおりに日本にある食材を使ったので、先日のパフェとは豪華さが違う。サクサク食感のシリアルも入っている。
アシルステラにも互換品があるフルーツも花びらのように配置して、ウェハースも刺して、上からチョコソースもかけたモリモリ仕様。
「チョコレートはこっちの世界にもあるざんすか?」
「あるんですけどね、高いんですよね。王家か貴族しか口に出来ない贅沢品です。大抵は飲み物として飲んでるんですけど」
「アンナマリーが、キノコの菓子をバリバリ食べていたらビビってたな」
「そこはタケノコにしないとダメだっぺ」
「…この話はやめようぜ」
譲れない戦いが始まるのでお菓子の話はやめた。
「キノコとタケノコは無かったからバトン何とかっていうのをフィーネさんがくれたので、それを刺してますけど」
よく見るとチョコがコーティングされた太い棒状のお菓子がそれぞれに一本ずつ刺さっている。
こっちでこれと同じパフェを作ったら合計で一体いくらになるだろうか。
「あいつはどこに行ったんだよ」
大阪土産である。一般的に売っている通常製品に比べてもバターの香りが強くてリッチな高級品。
「ウィスキーの工場見学に行ったそうですよ」
「余市にもあるだろうに、…あそこは何回も行ってたな」
それはともかく全員分をそれぞれ並べた。
「アーちゃん、スゴイの作って来たナ!」
「アリシアちゃん、想像以上ね!」
日本ならそんなに高価ではない。このくらいのモノなら千円ちょっと出せばお店で食べられるだろう。
やはり向こうの事情を知らないルビィとルーシーが興奮しながら、記録盤の新機能を使って画像を残しつつ、早速食べ始めた。
こんな贅沢なのを食べたことが王妃に知られたら「私にも作れ!」と激怒されそうだ。なので内緒にするつもりだ。
「こんな歳だけど、美味しいモノは美味しいわ」
「あの人は幾つなんざんす」
「90近いです」
「若い姿を選んだんな」
「どこの言葉だよ…。お前の家族もそうだが、私はあれがわからんのだ」
霞沙羅の家系には魔術師がいないから、魔術師、高位の魔術師がその魔力で寿命が長かったり、姿を変えたりという感覚がわからない。
「その年になったら相談にのるじゃんよ」
年齢的には老人のルーシーは「甘い」の塊である大きなパフェーを軽々と食べ終えると、とても満足していた。
「生きてて良かったわ。それじゃあ私から提案しようかしら」
アリシアがいない間にルーシーは霞沙羅達から事情と、アイザックの人形のことを聞いていた。
さすがに地球の魔法を知らないので、吉祥院の方でアシルステラ流に翻訳した設計図を使った。
ルーシーから返ってきた提案書はアシルステラの魔術ではあったけれど、吉祥院はすぐに地球式に変換する事が出来るから問題無い。
それよりもアリシアがいなかったのは30分程度だったけれど、それでちゃんと提案をまとめ上げたルーシーはやはり専門家だと再認識した。
「専門家はすごいな」
この早さ、さすが賢者と呼ばれるだけはある。
「高級なレポート紙を使って貰って、その替わりといっては何でござるが、紙の人形繰術をお裾分けするで候」
吉祥院は術の解説書と和紙で作られたペラペラの人形の束を渡した。
「見た目は頼りなさそうでがんすが、術として成立した際は鉄並に固くなるざます。素材の関係で使い捨てでやんすが」
「あらそうなの、興味があるわね」
術としてはアシルステラにもあるモノだけれど、使うのが紙の人形というのが面白そうだと、ルーシーは興味を覚えた。
一枚一枚が薄いのでかさばらなくていい。これならいつも懐に忍ばせておくことも出来そうだ。それで何かあればババっと展開して、王族や客人などの護衛にも使えるかもしれない。
「私も教えて欲しいのだガ」
「ルビィ女史がルーシー殿を仲介してくれたので用意してござるよ」
もう1セット出してきた。
「おオ」
「ルーちゃんはそれで部屋の整理でもしてね」
「む、そういう使い方もあるカ」
それにはまずテキストを読まなければならない。できるだけ早く。パフェで糖分を摂取したからこの後すぐに、早速始めようと思う。
「じゃあまあボクは紙の製造機でも作るとしようかな」
霞沙羅達は貰ったアドバイスに沿った人形制作のために日本へ帰り、ルビィとルーシーは貰ったテキストの研究を始める事にした。
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