そのどさくさに紛れよう -4-
外の町へはエリアスが運んでくれた。転移位置の調整は伽里奈の方で行い、ルハードの屋敷に直接飛び込んだ。
「うおお、ヒルダじゃないか!」
先に転移で到着していたルビィを含め、数名が会議をしているところにいきなりヒルダが現れたものだから、父親のルハードは思わず剣に手が伸びた。
「すみません。私は中にいる事になっているから、町中に姿を現さない方がいいと思いまして」
「そ、そうか。しかし無事で何よりだ、我が娘よ」
「うーむ、私でも解析不能な結界が張られているというのに、よく無事だったナ」
久しぶりなルビィの姿がある。相変わらず背は低く、ややくすんだ銀髪で、いつものちょっと眠そうな顔を見ることが出来た。
「とりあえず今の私の状況から説明します」
ヒルダは今どこにいて、どういう人間が匿ってくれているのかを説明する。とにもかくにも、中は全滅だと思っていたから、娘を含めて戦力がいるだけでも儲けものだ。
「町の人間は死んではいません。眠らされて洗脳中とのことです。錫杖からの強力な魔力が充満している中に飛び込めるのは私とルビィとこの少年だけなので、例え結界を破壊出来たとしても、他の兵達は中では使えません。錫杖が止まるまでは入らない方がいいと思います」
「彼か。先日お前と長時間斬り合いをした」
「匿名でしたが、先日のスケルトン騒ぎでも大活躍したんですよ」
「そうなのか。そのような人間がこのモートレルにおったとは」
ルビィもその話を聞いて伽里奈のことを値踏みし始める。それにしてもどこかで見た剣を持っている。男と聞いていたが、好んで着ている服装もおかしい。とても既視感がある。
「ルビィ、彼のことは後で説明するわ」
「そうなのカ?」
親友のヒルダが説明する、と言っているのでルビィはこれ以上伽里奈を詮索するのはやめた。
「それでこの状況をどう打開するつもりだ」
「それは今説明します」
ヒルダは館にいる戦力の説明と、先程立てた作戦を伝え始めた。
そんな中、伽里奈はこの屋敷内部を探知しつつ、妙な人間がいないか探し始めた。ここが奪還作戦の基地になるのは向こうも解っているから、例えば情報を流そうとしている者はいないかという事だが、いた。
気が付かれないように出入り口のドアまで歩いて行く。この壁の向こうに微かな魔工具の反応があり、それを持って立っている人間がいる。
伽里奈は息を整えて、右手に生命エネルギー「気」を集中し始める。これは入居者のユウトに習った戦闘術だ。本来は防具を無視して打撃を与えるモノだが、今回は壁を破壊しないように、その向こう側に攻撃を通す技として使用する。
「掌顯破、通し」
平手を壁に当てると、気が壁を通り抜け、その向こうにいる人間を爆発的な衝撃が襲った。
体が宙を舞い、反対側の壁に盛大にぶつかり、あり得ない場所からの猛烈な打撃に訳もわからず気を失った。
「な、何があった」
廊下から大きな音がしたので、ルハードは驚いたが
「壁の向こうに中の話を聞いている人がいましたよ」
伽里奈がドアを開けると、この部屋を守っていたはずの兵が1人、床に突っ伏した姿で倒れていて、もう1人いた兵士が、相方がいきなり宙を舞ったので驚いている。
「む、こいつが持っているのハ」
ルビィも動き、男の横に転がっている小さなお皿のような形をした道具を拾い上げた。
「魔力は微弱だが、音を拡大する術式が仕掛けられているナ」
「な、なんだと。しかしこいつはこの舘の守りを任せている…、なにっ!」
ルハードが男の顔を確認すると、全く知らない人間であった。
「あ、最後の1人だ。こんな所にいたのかー」
探していた3人の冒険者、その最後の1人だ。これは間違いなく、中にいる2人の仲間だ。
「拘束しろ、すぐに尋問する!」
この後、本物の警備兵は屋敷の外に縛られて転がされているのが見つかった。
* * *
尋問の前に、ヒルダは部屋を1つ借りて、3人で集まることにした。この後ルビィはこの伽里奈と一緒に行動することになるのだ。もうバラしてもいいだろう。
「それでこいつは誰なんダ。妙に強いのは今解っタ」
「アーちゃんよ」
ヒルダにそう告げられて、ギョッとして伽里奈の顔を見ると、さっきまで茶髪だった髪がいつの間にか赤くなっていた。
「髪型は当時とは違うけど、3年ちょっとぶりだねー、ルーちゃん」
伽里奈が剣を抜くと、見覚えのある、アリシアの愛剣だ。
「う、お、なんでこんなタイミングで出てくるんダ?」
「私も一週間前にようやく教えて貰ったのよ。よく考えたらこんな性格の人間は1人しかいないわよね」
少女の姿をして、女性服を着こなして、中身はどっちつかずで、料理上手で妙に強い。アリシアならあの冷蔵符術も作れるわけだとルビィも納得してしまう。
「エリアス…、女神様に【認識阻害】の奇跡をかけて貰ってたからね。あれは断定するまでは人間には解けないから」
「また説明お願い」
「はいはい」
伽里奈はまたもや魔女の話から、自分の愚痴、そしてこの3年間の話をして説明した。
「いやー、まだこっちに本格的に帰ろうかどうか悩んでたから」
「ななな、異世界で女神と暮らしていたとカ。魔女が女神で、世界が滅びかけてたとカ」
「ルーちゃんにはオリエンス神から説明があるよ。それから、この事件の後にボクが帰ってきたのが国中にばれるから、残りの3人にもね。あの天空魔城に辿り着いた人間にだけ説明してくれるって」
「ウガー、全員とニアミスしてたのに黙っているとカー」
「だって貴族になりたくないし、人間のせいで女神様は精神を病んじゃうし、こっちの世界には帰りにくいんだもん。ボクにはボクの生活が出来たんだから」
「うう、それを言われると、アーちゃんには旅の目的が無かっタ。てっきり私と一緒に学院に帰るのかと思っていタ」
「とりあえず今度たっぷり料理を作って貰って説明して貰いましょう。今はモートレルを奪還するのよ」
「相変わらずの腹ぺこキャラだナ。仕方ない、ヒルダに免じて今は無視するカ」
とか言いつつ、ルビィは伽里奈にビンタをした。そして抱きしめてきた。
「あー、久しぶりのアーちゃんダ」
「ごめんねー。何かありそうな状況だから、ヒーちゃんにはボクがいることは黙って貰っててねー」
「確かにアーちゃんは切り札として取っておいた方がいいだろウ。話によるとシスティーもいるようだしナ」
「あとルーちゃんには言っておくけど、あの王者の錫杖ね、この世界の道具じゃないよ。だから賢者様でも中身が解らなかったんだ。術式が全然違うし動かないから、こっちの人がどんなに研究してもダメだよ」
「な、なんでそんな事が解ル?」
「先代の管理人さんがいる世界の魔術だからだよ。それを変換して、この世界で発動するように細工されてると思う。とりあえずあの錫杖は取り返して、ボクと、入居者の霞沙羅さんていう人で調べるよ。中身が解れば今後は対策出来るからねー」
まずはあの錫杖が手元になければどうにもならない。霞沙羅が協力してくれれば解るだろうし、このことは前の管理人にも伝えなければならない。
「ヒルダ様、あの者の尋問を開始しております」
ドアの外からここの兵士に声をかけられる。話をしている間に無理矢理起こして尋問を始めていたようだ。
「今行くわ」
「じゃあルーちゃん、名前はカリナでお願いするよ。なんならボクの名字を言えばいいから」
「わ、解っタ」
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