専門家の底力 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
金星の虜集団である「安らぎの園」の捜査は一旦警察に任せて、軍としては主に都市部に現れる幻想獣の警戒と対策に明け暮れる中、それ以後の事も考えなければならないので、アリシア達は久しぶりに、以前にラスタルを襲って霞沙羅に解体されたガーディアンの解析を行っていた。
今日は攻撃用の光線をテーマにしてみたけれど、霞沙羅的には不満が残った。
ラスタルに襲来した時に解っていたことだけれど、やっぱりそこまで威力は高くない。
あの時はそのビジュアルに興味が沸いたけれど、火力は低め。
光線を受けた家は火事になったけれど、騎士達の鎧も楯も一撃で真っ二つになることも無かったので、解っていたけれど、ちょっと残念だった。
「ダンジョンの中で使う事も考えていたのもあるのかモ」
ダンジョン内で簡単に金属の鎧を切り裂くような光線を撃ちまくったら、ダンジョンの壁もただでは済まない。
光線は牽制用で、戦闘スタイルとしては肉弾戦メインだったのだろう。まだまだ探索の途中なので、ひょっとしたらあのダンジョンには高出力タイプのガーディアンも眠っているかもしれない。
先日ラスタルが襲撃される事故があってダンジョン攻略作戦は中止されていたけれど、最近になって再開されたので、今後もガーディアンのバリエーション機が発見される可能性はある。
出てきたら見せて欲しいモノである。
「お待たせしました」
お店の娘さんが注文していたスパゲッティーミートボールを運んできた。酒のあてに頼んだ一品だ。
「普通なのが出てきたな」
「いや、先生方の普通がこちらの世界では非常識なのだガ」
ヒルダはモートレルの町を中心としてパスカール家の領地全体に、騎士団で採用した料理を少しずつ飲食店に開放し始めているので、このお店ではスパゲッティーミートボールが新商品となっている。
周りのテーブルにもボリューミーで珍しいからと、注文したスパゲッティーが置かれているので、人気はあるようだ。
「このシチューは、日本には無い味でありんすな」
シチューだけれど、どちらかというとポトフに近い、野菜とお肉を煮込んだ具だくさんのスープ。味はあっさり目だけれど、これがアリシアの思い出の味。
店主もまたアリシアが注文してくれたのでご機嫌だ。アリシアの思い出の味、というフレーズも更に輝くというモノだ。
「このシチューが元でアーちゃんとレイナードが険悪な仲になったのダ」
「こいつの場合は食い物の恨みは深そうだぜ」
分校のアリシアの部屋で解析を終えて、一旦やどりぎ館で夕食を食べてから、モートレルのとある食堂にやってきた。
霞沙羅が「冒険者気分を味わいたい」と言うので、夕食後にちょっと飲みに来た。
日本人にはあまり美味しくはない、と忠告はしたけれど、まあまあ食べられるようだ。
この人達も軍隊では時々あまり美味しくないモノを口にした経験もあるだろうから、文明レベルの低い世界の庶民の料理くらいは、食べられるモノなのだろう、多分。
そんな事よりも雰囲気が大事だ。
庶民の店だから、町の人、旅人、冒険者、下っ端の騎士団メンバー、力仕事を終えた職人達といった人達がメインの客層。
そこにどこからかやって来た、流れの吟遊詩人が曲を奏でては、チップを貰っているような賑やかな雰囲気。
冒険者は仕事の成功を祝ったり、まだ依頼の途中だったりで、その話の一端が耳に届いているだけでも霞沙羅は楽しそうにしている。
なんだかよく解らない吟遊詩人の曲にもチップを、アリシアから借りた硬貨を投げ入れたりしている。
正直、霞沙羅の方が上手く演奏出来るのだがそうではない。この雰囲気の中で吟遊詩人にチップを投げるムーブが、TRPGのロールプレイのために、キャラシートにある所持金の項目から1だの2だのといった端数をマイナスする行為をしてきた霞沙羅にはいいのだ。
吉祥院については、見た目がごつい腕力自慢の剣士も目をそらして見なかったことにしているが、このお店の雰囲気はとてもいい。
「冒険者っていいよな」
「そうですか」
口は悪いけれど老舗呉服屋兼洋服ブランドを纏める一家のお嬢様であり、二十代前半で軍の大佐という人生のエリートだからこそ、アウトロー的な生活に憧れるのだろう。
フラム王国とザクスン王国の国王だけでなく、セネルムントとギランドルの教皇様に加えて、両国の魔法学院にまでその名が轟くような、正直ここにいる冒険者の誰もが羨ましいと思うような才能を持った人は冒険者には向かないような気がする。
とある冒険者グループの話しを聞いていると、パーティーの神官がギャバン教なので鎮魂の儀に合わせて、ザクスンに移動を始めるらしい。
そこでオルガンを弾くんだよ、この人。
吉祥院のインパクトに妨害されていると思うけれど、霞沙羅も例の戦闘服を着て、見目麗しい姿をしているのでひょっとすると現場で気が付くかもしれない。
「この世界の野外演習がどうなってるのか、参考に参加してみてえな」
「霞沙羅さんはキャンプにも慣れていますし、ヒーちゃんに頼めば喜んで連れて行ってくれると思いますよ」
「騎士団の連中になんか教えろとか、言い出しかねないガ」
「演習だってんなら別にいいぜ。メシは作れねえがな」
「キャンプといえば、アリシア君の、あのミストシャワーの魔法はこっちの、あの辺の魔術師達でも使えるモノなのかい?」
「あれは館の設備を見て作ったので、こっちには無いですよ。その前身になるシャワーの魔法は、ルーちゃんも使えますけど…、あれって誰かに教えた?」
「あれは冒険から帰った時に、纏めて学院に提出してあるから、ラスタルの騎士団では一部で使っていル。女子には特に人気ダ」
温めてお湯にした水の粒を一定エリアに対流させて、体を洗う魔法だ。
これも当時はアリシアのパーティーしか使っていなかったから、仕事上で合流してきた他のパーティー等には喜ばれた。
でも冒険者には殆ど普及していない。水の塊ではなくて、大量の粒にして制御するので、難易度が高いから、余程成績の良い卒業生以外は教わっていない。
「冒険者ってのは、旅の途中の、道中での風呂はどうしてるんだ?」
「普通は入りませんよ。安全を確認して川とか池に飛び込んだり、濡れたタオルで拭くくらいですね」
霞沙羅が横のテーブルにいた冒険者の一人に声をかけても、アリシアと同じ事を言ってきた。
「あれは上流貴族のヒルダがうるさいから作った魔法ダ。…ミストシャワーって何ダ?」
「後で館のを見せてあげるけど、霧状にしたお湯をあびるんだよ。ボクの魔法は日本軍には採用されたんだけど、現場での節水も出来るからねー」
ある一定のエリアを流動的な温水のミストで満たして、それをシャワー代わりに使うという、地球ならではの魔法を以前に作った。
サウナ的なリッラックス効果だけでなく、血行促進やお肌の改善も期待出来る。
「貴族の奥様方に大ウケしそうな魔法じゃないカ」
「軍じゃ符術にして配っているでありんす。折りたたみ式の小さなプールに水を張って札を投げ込むだけでやんすから、訓練やら災害現場で重宝されているざんす」
これも救援に行くレンジャーだけじゃなくて、被災してお風呂に入れなくなった住民にも好評で、とても感謝されている。
「こいつの魔法は大体災害現場に行くよな」
「文明に頼ってませんからねー」
今の日本人は魔術師でも文明ありきの考えを持っているので、不便な場所から来たアリシアの魔法はやっぱり性質が違う。
「アーちゃん、それを教えるのダ」
ルビィなら簡単に習得出来るだろうし、自宅のお風呂で使うのもなかなか良さそうだ。
「やどりぎ館で現物見せるからねー」
賑やかなお店で楽しい時間は過ぎていく。
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