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みんな前に進んでいる -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 クラウディアに用意されたのは学院の敷地内にある寮。寮といっても世間的には賃貸のアパートと同じような設備を持つ部屋だ。


 多少狭いかなという感じはするけれど、書斎と寝室となる部屋が2つある。調理場は共同という設備。


「荷物はどうするの?」

「当日はまた飛行船で来るのよ。お城の騎士の人達がここの騎士団との腕試しのためにやって来ることになっているから、それに同乗させて貰うの」

「その日はまたヒルダも連れてくる事になっているゾ」

「さすがにヒルダと戦えるような騎士はいないけれど、久しぶりに彼女の腕前が見たいわね」

「最近は、色々あってまた腕を上げてるからねー」


 まずアリシアがアシルステラに帰ってきて、霞沙羅や榊と知り合って、ヒルダと渡り合える人間が割と頻繁に会いに来るようになったから、感覚的にも強くなったなと思う。


「あらそうなの。結婚もして、子供も出来て、領主になったっていうのに、まだ強くなろうとしてるの?」

「あれはもう人生のテーマになってるんじゃないかな」

「私ら魔術師がどうこう言えるようなテーマじゃ無いがナ」


 会わせようと思えばルビィがいるのでどうにでもなるけれど、ヒルダの方からリバヒルに行くような事も無いし、同じ世界にいながらも、交通手段なんてものはロクに無いから、冒険者を引退して定住した場所から動かなくなれば、疎遠になるというものだ。


 アリシアが帰ってきて6人、ではなく7人の内、3人が自力で、1人は場所限定とはいえ空間転移が出来る環境となって、顔を合わせることが増えてきたけれど、やっぱりこれは異常なのだ。


「夢だった自分の劇場を手に入れて、こういう分野からは手を引いたと思っていたライアが、最近はまたヒルダ達に張り合おうとしているくらいだからナ」

「地形の条件があるとはいえ、霞沙羅さんを圧倒しちゃったからねー」

「ライアからも聞いたけど、そのカサラっていう人は気になるわね。異世界の英雄さんなのよね?」

「剣士で魔術師という、タイプとしてはアーちゃんと同じ感じなだけに、魔術の話をすると中々面白いゾ。魔装具のことで天望の座も講義をお願いしたくらいダ」

「そうなのね。エルフに会いたいようなら、会ってみるのもいいかもしれないわね」


 さて、こっちの付き合いやすいタイプのエルフはどうなのだろうか。ただ魔術師としては話が合うとは思う。


 雑談をしながらまずは入り口から部屋までの途中にある厨房の方に移動した。


「クリス、こっちの厨房は使えそう?」

「多分何とか」


 共同利用なので、数人が一度に調理が出来る広さはある。設備的には一般家庭レベルのオーソドックスなモノだから、変な設備は無い。国が違っても文明レベルは同じだから、そう変わらないと思う。


 ゆくゆくはアリシアの作った冷蔵箱や調理盤を置きたいところで、そうなったら説明が必要になるだろう。


「なんならしばらくはウチのリューネにレクチャーさせるぞ。アーちゃんはずっとこっちにいるわけじゃないから、生活環境で頼るならこっちで助け船を出そウ」

「まあそうだねー」


 こっちの世界に住んでいないので「ちょっと来て」と言われてもアリシアも対応出来ないことの方が多い。


「それは助かるわね」

「記憶喪失なんだって? それにしてもボクらだってラシーン大陸の全部の場所に行ったわけじゃないから決めつけは良くないけど、こんな見た目の人ってこの世界にいたっけ?」

「確かに、顔の作りが先生の所の人間に寄ってるナ」

「その辺はあんまりつつかないで貰えるかしら。本人もこの状況で言われても困るもの」

「まあそうだけどねー。いつか記憶が戻るといいね」

「え、ええ」


クリスはどこか何かを誤魔化すように視線を迷わせた。


 ここにいる誰もが記憶喪失になんかなったことが無いから、その辺のリアクションは仕方がないのだろうと思うしかない。


 そもそも初対面同士だし、あんまり深く訊いたりすると可哀想なので、今は軽く流す方がいい。


 それにクラウディアと一緒に2年もここにいるわけだから、会話をするタイミングはこれからいくらでもあるだろう。


「ちなみに、アリシアは男よ」

「ええーっ、ホントですか? 男の娘ってホントにいるんですね?」

「え?」


 その言葉ってこっちにあったっけ? 浅くしか漫画とかゲームには触れていないアリシアも、そういう言葉があるのは知っている。


 けれど「男の娘」という言葉はこっちでは聞いたことが無い。当の本人が生まれてから一度もそう言われたことが無いからだ。


「たまにちょっと変なことを言うのよ」

「へー、そういう地域もあるのかな…、言葉なんて人が勝手に作っちゃうモノだし」

「そういやよく解らない魔術書を持っているとか何とカ。持って来るのカ?」

「一応持って来る気だけど、それは私が研究してるから」

「へー、どんなのなんだろ」

「まだ何も解ってないのだけれど、これまでのどれにも似てないのよね」


 この大陸で知られていない魔術とはなんなのだろうか?


 以前に存在した文明の魔法書や石版がダンジョンから発見されることはあるけれど、どれも魔術師が見て、時間をかければ全く解らないというような事はない。


 そうだとしたら画期的な発見だ。


「アリシアも異世界の魔法を習得してきてるんでしょ? タウ様達から聞いたわよ」

「そうなんだけどね、こっちじゃ使えないから。最近は向こうの魔術師の人と意見交換する為にルーちゃんには教えてるんだけど」

「ア、アリシアさんは異世界の人なんですか?」


 クリスが食い付いてきた。


「違うよー、ボクはこの町生まれなんだけど、なんていうか、神様の事業の手伝いで、異世界にある下宿を管理しててね、そこの魔法とか、下宿にいる人の世界の魔法とか、そういうのに触れてるから」

「チキュウとかいう世界の魔術師が2人いて、その人達はアーちゃん経由でアシルステラの魔術も身につけてるんだが、意見交換しようにもまだ私が向こう側の魔術の話が出来ないんダ」

「チキュウ、ですか」

「その下宿に住んでいる霞沙羅さんがエルフ好きだから、クラウディアに会わせたいんだけど」

「なぜかエミリアの事を気に入っていてナ」

「エミリアもその、霞沙羅さんて人なんだけど、気に入っちゃってて」

「エミリアを? エミリアって、あの変わり者のキールくらいにしか気に入られてないでしょ?」


 キール本人が聞いたらがっくりしそうな発言だけれど、実際回りからはそう見られている。


 ただ、あの2人はトラブルの渦中で出会って、2人で協力して命からがら脱出しているという経緯があって、それでお互いを解って、その時の事を感謝をしているという側面もあったりする。


「なんかああいうプライドが高いのがいいみたいで」

「変わり者なのかしら」


 自身もエルフなので、クラウディアも人間との意見の相違というか、種族が持っている美意識の、人間との違いはわかっている。


 エルフからするとその美意識部分をそこまで気にしていないクラウディアの方が変わり者だったりする。


 プライドが無いわけではない。人間のセンスを尊重しているだけだ。


「部屋の方はこんな感じダ」


 ようやく部屋の方にやって来た。


「地元民だから始めて入るけど、こんな感じなんだねー」


 ドアを開けると廊下があって、寝室の入り口である2つのドアがある。書斎は片方の寝室にくっついているというコンパクトな部屋だ。


 室内には食事用のテーブルと椅子を設置出来るスペースはあるけれど、リビングとなるような広い場所は無いので、来客があった場合は、共用スペースとして用意されているサロンを使う事になる。


 これとは別に教員となると個別の研究室が与えられるので、普通は書籍などはそっちに置いて、書斎をクローゼットや所持品の倉庫として使っている人もいたりする。


「私も住んだことは無いガ」


 部屋の案内の後は、共用部の案内を行った。


「アーちゃん的に何か提案するところはあったりするカ?」

「今はどうかなー」

「アリシアはこの施設の管理をしているの?」

「いや、異世界の家屋や設備を勉強して、このところ色々と学院にも提案しているからダ」

「実家の宿には言いたいこともあるけど、ここでの生活は解らないからねー。調理盤を置きたいくらいかなー」

「今後あれは置くと理事会で話題になっているゾ。火災の危険が無くなるからナ」

「そうなんだ。そうなると料理が楽になるけどね。あっと、そろそろ時間だねー」


 クラウディアに国から歓迎の意を示す為に、最近は更に体調が良くなった前王様が食事会にやって来るとかで、参加人数が多いから、適当な頃合いに料理の準備を始めないといけない。


 それもあって、アリシアからいくつかの料理を教えているリューネを借りているくらいだ。


「じゃあまたねー」

「私らは研究室の方に行くことにしよう」


 アリシアは食堂の厨房に、ルビィ達は職員棟の研究室に移動をした。

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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