みんな前に進んでいる -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
先日のような大量発生は無いけれど、札幌周辺では少なからず連日のように幻想獣の出現は起きているので、軍では使用が始まっている対マリネイラ魔法を、協力してくれている各組織へも広めようと、北海道方面はまず札幌駐屯地に人を集めて伝えることを決めた。
アシルステラ側で伽里奈が作った対レラ魔法というベースがあったので、それを参考に吉祥院の手でサクッと完成させられて、関東では軍だけではなくもう警察への伝授が始まっている。
ただこれは神聖魔法なので、普通の魔術師では使う事が出来ない。
神職の資格を持っている警察関係者は意外と少ないので、ここで協力業者としての寺院系や警備会社の出番となった。
元となる対レラ魔法が2種類しかないので、こちらでも2つしか作られてはいないけれど、以前から行われている試験運用で、軍内ではその効果が確認されているから、札幌でもこのような機会が設けられた。
「ボクはこっちの神聖魔法は使えませんけど」
「元々お前が作ったんだから、吉祥院に聞かされて理解はしてるだろ? あれを説明出来るのは札幌でも殆どいないからな」
教えられる人間が少ないので、集まってくる協力業者も複数人数でやってくることもあって、一人でも多くフォロー出来る人間が必要になる。
当然、霞沙羅の仕事なのでやどりぎ館の管理人として手伝うことはやぶさかでは無い。説明の補助で良ければと、放課後に伽里奈もやって来た。
さて、どのくらいの業者がやって来るのかというと、まずは一ノ瀬と藤井の2人をついでに連れてきてある。寺院の人は後ほどやって来る。
当然、2人は説明会場の椅子に座って貰っているので、この会話は聞こえていない。
「結局向こうでは使っているのか?」
「フラム王国の周辺では魔族が出てませんからねー。でもイリーナの話では、備えのために他の国にある神殿にも伝えているそうですよ。いつ来るか解りませんからねー」
「私はオルガンを弾いていて直接見ていないんだが、魔族は言うほど強かったのか?」
「吉祥院さんが強すぎただけですよ」
「さすがに相手が悪かったか」
本当はとても強い。合体のベースとなる魔術師が平均レベルだったから悪かったいう訳ではなく、過去からずっと人間は魔族に苦しめられてきた。
経験の少ない駆け出しの冒険者が運悪く出会ってしまったら、間違いなく終わりとなるレベルだ。
でもやっぱり、伽里奈とルビィと吉祥院の3人がいるところに、無防備に来てしまったのが最大の失敗だった。偵察でも出して、もう少しリサーチをしていれば、長い戦いになっただろうに。
「機会があれば一度殴ってみたいところだな」
「霞沙羅さんなら一撃で終わると思いますよ」
やがて出席者達が全員揃ったので、霞沙羅の部下達が資料を配り、まずは対マリネイラ魔法の座学が始まった。
こちらでも武器の攻撃力付与と強力な防御壁の2種類だ。
実際に吉祥院が立ち会って、幻想獣相手に何度か試験運用した映像を通して説明していくと、参加者達はその効果に期待するところとなった。
今の所は近接戦闘用の手持ち武器用の魔法となっているけれど、地球側だけあって、弾丸にこめる魔法も開発中のようだがそれは間に合わなかった。
それはともかく、座学が終わると早速外に出て魔法の実習に入った。
良いのか悪いのか、今日は幻想獣の出現が一件しかなかったので、威力の試しようが無いのが残念だけれど、「あの吉祥院様」が作った特化型神聖魔法で、関東の軍隊でも使用が始まっている事もあって、皆信用してくれた。
「さすがにボクは使えないけど、霞沙羅さんのを見てるから」
「ふふん、さすがの伽里奈アーシアも神聖魔法はできないのね?」
「あんたねー」
勿論本気ではないけれど、やっと伽里奈の苦手分野を前にして、一ノ瀬がちょっと上から目線になっている。
寺院一族の娘だから、高校では見せる機会は無いけれど、神聖魔法も当然使える。
「一ノ瀬寺院は太陽神アレイナのところのホウメイ神だったよね?」
「そうよ」
オリジナルとなる対レラ魔法と同じく、各教団向けに基本となる魔術の一部分を修正すれば簡単に対応するように出来ている。
一ノ瀬寺院からは合計8人がやって来ている。伽里奈はもう一度、この神聖魔法についての纏めの説明を伝えると、早速練習をやって貰った。
「特化してるデメリットで、マリネイラ系の相手じゃないと威力が確かめられないのが欠点なんですけどねー」
勿論欠点はオリジナルと同じ。ただ、地球側では幻想獣を相手にする機会が多いので、反逆神レラ系に特化したアシルステラ版よりも活躍の場は多い。
それに信者を相手にしてもマリネイラ系の神聖魔法への防御力が高くなるので、金星の虜と戦う場合にも使える事は大きい。
「吉祥院様が用意して下さった実戦の映像もありますし、この魔術の効果は信じています」
使えない魔法をわざわざ軍を通して伝えるようなことを吉祥院の家がやるわけはない。
周りを見ても、それぞれの組織は無事に発動が確認出来ている。
今は正確な効果の程が解らないけれど、術士としては発動した魔術を見ればある程度は推し量ることが出来る。
「これ結構すごいんじゃない?」
一ノ瀬達も満足しているし、今回の金星接近が終わった後も日々の備えとして使い続けられる神聖魔法だし、今回のこの講習はやって正解だったと思う。
吉祥院も今回の金星接近時期に間に合ってホッとしているだろう。
「この前大変だったから、役に立てばいいね」
「そうね。それと伽里奈君、あの振動弾の魔法って寺院の人にも教えていいのよね?」
「ボクから教えちゃったらもう、ねえ」
他の人には内緒だよ、というワケにはいかないだろう。それに一ノ瀬寺院で2人しか使えないとかそれは勿体ない。
しばらく幻想獣の出現が多い日が続く中で、硬い外皮などを持つ敵がどの程度出てくるかは解らないけれど、備えておく必要性はあるわけで。
「新しい魔法も教わったし、残りの期間も気合いを入れて撃退するわよ」
これからの戦いに気合いの入る一ノ瀬寺院の面々だった。
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