吉祥院家の剣 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「この大学というのは広すぎじゃないカ?」
横浜大にやってきて、その広さにルビィは驚いていた。
ラスタルの魔法学院は日本とは町の造りが違うから、その結構建物と建物が密集しているけれど、こちらはその間に木が植えられていたり、学生向けの憩いの場があったりと余裕のある作りになっている。
「中学、高校、大学、大学院の四つの施設が集まってるからねー」
魔術師とその業界を目指している生徒が主に集まるので、通学している人数は普通の大学に比べると少ないけれど、研究施設や演習施設があるから、広めの国立大学とほぼ同等の広さはある。
「ラスタルの学院は、王都の壁の中にあるから場所が限られちゃうしねー。こっちの世界はずっと昔に作った文化財みたいな町以外は壁が無いから」
今の横浜の町が形成される前に土地をふんだんに確保しているというのもある。今この規模の大学を作るとなると山を切り開くか、埋め立て地を作らないとダメだろう。
「これを見るとアーちゃんが学院に何かを置こうとしているのも解るナ」
「あれはモートレル用だから…」
モートレルはラスタルより町は狭いから、相対的に魔法学院分校は狭くなる。
でも地方都市で生徒の質は低いけれど、魔術を学びたいという考えは同じ。
小樽校のこともあって、せめて気楽に使える魔術の練習場所くらいは用意したいと思ったわけだ。
この前タウ達に迂闊に喋ってしまって、一旦学院預かりになってしまったから、黙って作って設置してしまえば良かったかなと思っている。
「それはともかくダンジョンを見て貰うでやんす」
今は建築にも手を出しているから、何か参考になるモノは無いかと周りの建物に対してキョロキョロと視線を動かしているルビィを連れて、ダンジョンの前にやってきた。
「入り口を覆う建屋があったほうがいいのでハ?」
「急に作ったからだっぺ。中も通路と一部屋しか無いのでこれからもっと研究でざんすな。ただこう目立っているおかげで窃盗団が引っかかってくれたんダス」
「作ったそばからもう窃盗事件ガ?」
「窃盗が行われる事が解っていて、適当に入れておいた魔工具の一つが彼らのターゲットだったでござるよ」
「うーむ、作ったばかりのダンジョンでその窃盗団が捕まったというのは、さすがキッショウインさんとカサラ先生が手がけただけはあル」
「じゃあ中に入るでやんす」
早速ダンジョンの中を案内することにした。
「このカードが鍵というのが面白いナ」
入り口の開閉がカードな事にルビィは反応した。アシルステラでこんなものを使うダンジョンはない。
「ここから先も何枚か使っていくでありんす」
ルビィはカードをかざした箇所を触って、何かに納得して、中に入っていった。
「もう【無限回廊】も反映させていル。入り口が開いてしまえば相手も油断するだろうナ」
「どういう事?」
「あのカード、違うのを使っても入り口が開くようになっていタ。ただカードが間違っていると【無限回廊】が解除されないから、侵入者はいきなり積ム」
「えーそうだったの?」
伽里奈が入り口に戻って、さっきのカードスロットを触ると、確かにルビィの言ったとおりの仕掛けになっていた。
その名の通り、設定された範囲の通路が無限に続く空間に囚われてしまう。一度入り込んでしまうと戻る事も出来ない。
「いやなダンジョンだなー」
「これもあって大学関係者には嘘の順番を教えておいたでありんす。誰かが内通者の可能性が捨てきれなかったんダスよ」
関係者から中に入りたいという希望があった時は、吉祥院が案内していたので順番が嘘だという事がバレることはなかった。吉祥院と霞沙羅が作ったうえによく解っていない魔術なので、それ以外の人間が勝手に入るというのがはばかられていたからこそのトリックだ。
勿論、事件の後はちゃんと正しいカードを教えてある。
「初心者にしてはなかなか面白い作り方をするものダ。この辺はさすがキッショウインさんというところカ」
ルビィが見ても、狭いながらも基本的な建造部分は教科書通りに動いている。形は整っていてもまだ精製した岩壁が安定していないので、拡張なりをするにはまだ時間はかかりそうではあるけれど、これと
いって間違いを指摘するような箇所は無い。
作る時に伽里奈がついていたという事もあるけれど、霞沙羅と吉祥院の2人はちゃんとこのダンジョン作成魔術を理解していると解る。伽里奈が教えるのが上手かったのか、2人の能力が高いからなのか。
ただ、伽里奈がかなりの信頼を得ているのだなとは感じる。
「とにかくこのカードが面白イ」
早速ルビィはカードの魔術基盤を空中投影させて、どういう構造なのかを調べ始めた。カードそのものの作り方については、伽里奈が冷凍箱で使っているから、アシルステラでも作れるだろう。学院に帰ったらそれを参考にする事に決めた。
「気になる点があったら、後でアリシア君に資料を持って行って貰うでガンスよ」
「そうか、よろしく頼みまス」
とりあえず、一通りの仕掛けを説明して貰い、ルビィは訊くべき事のメモをとって、ダンジョンを出た。
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