吉祥院家の剣 -3-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
鎌倉市の、観光地でもない昔からの閑静な住宅エリアに吉祥院家の本宅がある。
割と古くからの住民が多い地域だけれど、吉祥院の家はかなり古くて、それ故に土地も広い。
「異世界人の私にも解るゾ。これはなかなか趣のある住宅ダ」
一階建ての広い木造建築の本宅と、小さな別棟が幾つかと倉まである。
庭は池のある庭園になっていて、芝生は切り揃えられているし、余計な雑草も生えていないことから、植栽に金がかかっていそうなことはルビィでも解る。
背後は山で、すぐに森になっているけれど、そこも吉祥院の敷地だったりする。古木も多いので、木材を使った魔工具や杖などの魔装具のいい材料となっているとか。
広い芝生だけのエリアがあって、ここに結界を張って魔術の実験などが出来るようにもなっていたり、同様の使い方をするお堂もある。
「木造建築でもここまで芸術的な作りになるのカ。あの屋根の上の細かいのはなんだ?」
「瓦という、このくらいの焼き物を敷き詰めているダス。隅っこには鬼瓦という、魔除け的な意味のある造形物もついてありんす」
怒りに満ちた表情をした、オーガのような顔を象った焼き物が設置されている。造形は素晴らしく、今に聞いた物が震え上がりそうなほどの雄叫びを上げそうだ。
「ガーゴイルみたいなものカ?」
「その発想はなかったでやんす。家に寄りつく邪気を払うおまじないでありんすよ」
それ以外にも、ここの家の鬼瓦は本当に結界を張ったりするけれど、ガーゴイルのように戦闘を行うという考えは、さすがの吉祥院にも無かった。
「試しにその方向で作ってみるでありんすか。不審者に向けて目から光線くらいは出してもいいじゃんか」
「いえ、やめた方が…」
どうせ止めても作るんだろう。ひょっとすると大学のダンジョンに仕掛けるつもりだろうか。
「では早々に空霜を起こすでやんす」
空霜は本宅では無く、彼女のために専用に作られた一軒の離れに住んでいる。
引き戸を開けて寝室に入ると、畳の上に全長三メートルくらいの三叉槍、トライデントが無造作に転がっていた。
「こんな扱いでいいのカ?」
「私も最初の頃は人間の手持ちサイズになって霞沙羅さんの家で刀掛けの上で横になっていたんですよ」
「システィー、お前もカ」
「ルビィ女史よ、この畳というモノは寝っ転がってもいい場所でやんすから。ウチの国ではこの畳の上に敷き布団を敷いて寝るのでありんす。だから靴を脱いで貰っているダスよ」
「そ、そうなのカ。変わった床だと思ったラ。アーちゃんのあの館とは違うのカ」
「あそこは色んな様式の世界から人が来るから、この国の作り方にはなってないんだー」
吉祥院は転がっていた空霜を掴むと
「空霜、出番だよ」
そう声をかけると、トライデントがブルブルと震え始めたので、システィーが吉祥院から奪い取った。
「これ何回目ですかね?」
「三回目だったかな」
暴れようとする空霜をシスティーが動かないように両腕でがっちりと抑えつける。
ルビィが見ても結構力を入れて掴んでいるのが解る。
強大な力を持つシスティーがこれだから、寝起きの悪さもほどほどにして欲しいものだ。システィーが来るまでは家の人間が何人か集まって、魔力で押さえていた。
「システィーの時はどうだったんダ?」
「一年くらい休んでたけど、ボクらが見つけた時と同じで、特に何も無かったよ」
「まったく貴方は、毎回毎回迷惑を考えなさい」
しばらくすると振動が止まって、システィーが手を離すと、身長160くらいの羽織袴姿の女性に姿を変えた。
「よく寝た」
切り揃えた黒髪をポニーテールにして、一見すると若い美少年の侍のような見た目をしている。
「ふぁ~あ、ウチ、そろそろ出番か?」
空霜は大きなアクビをした。
「マリネイラがこっちを向いてる季節だから。キミが必要だよ」
「そうか、ではまたやるとするか」
「これが異世界の星雫の剣カ。見たところ槍のようだがアーちゃんと違って魔術師の吉祥院さんはどう使うのダ?」
「ふむ、システィーの知り合いという事は、アリシアと同じ大地の者か」
「ボクの冒険者仲間だよー」
「チトセと互角くらいはありそうだな」
この空霜も吉祥院の家にいるから、一族の人間を名前で呼ぶ。家にいて「吉祥院」なんて呼んだら全員が振り返ってしまう。こればかりは止めようがない。
「ワタシは指示したり、青の剣のような槍を持って操作するくらいでありんす。上に乗って攻撃するようなことはあんまりやって無いダスが、場合によるっぺ」
「それで、今から出撃か? それもいい」
「今日はただ起こしただけだっぺ。ちょっと前に結構広域で幻想獣が出るような事があったから、今後に向けて備えておきたくてね」
「そうか、では散歩でもしてくるか」
「何かあったら呼びつけるでやんすよ」
「へいへーい」
羽織袴姿のまま、空霜は出掛けていった。
古い服だけれど、ここは鎌倉という事もあってマッチしているから、時々観光客から写真を求められることもあるくらいだ。
「では私は帰りますね」
「助かるでござるよ。人間の身であれの寝起きを抑えつけるのも結構大変でね」
今回も無事に家が壊れることもなく、役目を終えたシスティーは帰っていった。
「なぜか家の事をやっているシスティーと違って、戦闘用に星雫の剣を呼び出すとは、結構大変な世界だったりするのカ?」
「人の望みだったり想像だったりを具現化してくれちゃう神様の力が強くなってるから、恐怖から生み出される幻想獣が良く出るようになってるんだよー」
「期間的には三週間くらいだけどね。アリシア君の力を借りる場面もあったりするから、それも悪くてね」
「今日は大丈夫なのカ?」
「今の所はね。何かあれば連絡が来るから、と言いつつ、今から行く横浜では何件かリアルタイムで起きてるじゃん」
軍の専用アプリを見ると、大学周辺ではないけれど、今日も横浜市内では騒動が起きている。
「キッショウインさんは行かなくていいのカ?」
「ワタシら3人は余程のことが無いと呼ばれないだっちゃ。それにいろいろと組織間のテリトリーというものがありましてな、今は軍の出番じゃないだっぺ」
いつもは勝手に首を突っ込んでいるだけだ。
空霜を起こすという目的は終わり、今日は軍からの連絡が無いので、庭でルビィによる地球の魔術の具合を試した後に、予定通りに横浜大に行くことにした。
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