そのどさくさに紛れよう -3-
食事が終わるとフィーネが談話室のテレビを使って、そこにトカゲが見ている映像を映し出して、今のモートレルの状況を説明してくれた。
「こやつらが持つこの杖の効果はまだ暫く続くであろうから、抵抗力のない人間は入るべきでは無い。反撃は終わってからがよいであろう」
「あ、この2人、行方不明の冒険者だね」
若い女性神官と中年の魔法使いが町の中心にある広場に出てきて、女性神官が錫杖を持っている。
「とすると、この子が皇帝の関係者かな?」
詳細な解析はしていないけれど、錫杖を使用できるのは皇帝の血筋のみ。ということなら、その可能性が濃厚だ。
その周辺には霧を避ける障壁を張って、この二人の同士なのだろう、剣士や魔法使いなどが集まっている。そして全員が帝国関係者ですという服装に着替えている。この時のために、町のどこかに潜んでいたか、旅人を装って入ってきていたのだろう。
そういえば色々と事件が続いていたから、モートレルには冒険者が多かった。想像でしかないけれど、潜伏の隠れ蓑にするための、あのゴースト騒動だったのかもと推測する。事件を起こして冒険者ギルドに護衛の仕事が出るように仕向け、仕事を目当てに集まりましたという冒険者を装って、宿屋にでも隠れていたと考えれば合点がいく。
「あと1人は、どこかにいるのね」
「我にはわからん」
「む、無理に探して欲しいとは言いません。まずはお話しを続けて貰えますでしょうか」
「ふむ、町の人間共は死んではおらんよ。眠らされて洗脳中であろう。そしてあの錫杖の活動が終了次第、目覚め始めるのであろうな」
帝国が1日で出来たのは、この洗脳のせいで、100年前と同様に、目が覚めれば皆この錫杖を持った女の子を崇めるようになるという流れだ。
ということで、上手く行けばモートレルが新しい帝国の基礎になるという計画だ。
「この結界がドーム状に城壁を守っておって、外の町の手勢が中には入れんようじゃ」
中と外の町を行き来する門は閉ざされていて、外からも開かないようだ。同じモートレルではあるけれど、中と外の行き来は日中だけ可能で、夜は門を閉じて、その脇にある扉から関係者だけが行き来出来るようにしてある。その扉も開かないようなので、中に入れない。
「外の町には全くの影響はないが、中に入れぬから慌てておるようじゃな」
外の様子もテレビに移るので、フィーネのトカゲは外の町にも配置されている。
「ヒルダさんのお子さんはどうしたんです?」
「今日は2人ともお父様のところに預けてあるの。孫バカがこんなタイミングで役に立つとは思わなかったわ」
「話は以上じゃ。まずはどうするつもりじゃ?」
「お父様のところに連絡に行きたいわ。反撃の計画も練らないとダメね」
とりあえずヒルダが無事である事、何人かも無事である事、中からの攻撃も可能である事を伝えたい。
「攻略の順番としては、結界を破壊し、洗脳を解き、住民を逃がし、外から兵を入れることじゃな。中心のメンバーはせいぜい60名程じゃ。残党といっても、そう数はおらぬようじゃな」
今モートレルで動いている人間が残党であると推定される。錫杖の霧は無差別に効果を発揮するかから、中央広場に作られた障壁の中に固まっていて、数えやすい。
「洗脳した騎士団員と滞在している冒険者を手駒として使うつもりだろうから、それでいいのかもねー」
「帝国の帝都を含めた中心地は一瞬で滅んだという話だから、皇帝を含めた上層部や有能な人間が誰も残っていないのよね」
少なくともモートレルにいる、ヒルダの元で日々訓練を積んでいる騎士団組織をまるまる一つ手駒と出来たのなら、相当な戦力にはなる。なんなら町に滞在している冒険者だって使えばいい。
「しかし、町の住民が邪魔、という言い方は悪いのだが、洗脳から解けた瞬間に果たして無事に逃げられるかどうか」
レイナードの発した『邪魔』という言い方はある意味間違っていない。急に正気に戻ったばかりの人間が、斬り合いが始まっている中を果たして逃げることが出来るのか、レイナードはそれを心配している。何とか被害を減らして町を奪還したいと考えるのは当然だ。
「そのくらいのことは我がやってやろう。このトカゲ共を使い、強制的に追い払おうではないか」
「どうするのです?」
「このようにじゃな」
レイナードの問いに対してフィーネは、人目につかない場所に配置していた1体のトカゲを巨大化させる。さながら翼のないドラゴンのような状態になった。地球で言うところの恐竜の姿だ。
「ククク、これで追いかけ回してやろう」
すぐに元のトカゲに戻す。確かにこんなのに追いかけ回されたら、洗脳など関係なく一般市民は逃げるだろう。
「わ、わかりました」
「結界は頑丈そうだし私が壊して、そのまま洗脳も解くわ」
あのエリアスがアシルステラの人間のために自分から動いたことに伽里奈は驚いた。
確かに強固な作りの結界だ。あれをどうにかしないと外からの増援が入れない。それにこの町全員の洗脳を解けるような神聖魔法を使うには、今のところ伽里奈か古代神聖王国の巫女という事になっているエリアスくらいしかいない。
「エリアスなら大規模の解呪が出来るね」
伽里奈はエリアスの意思を尊重した。今ここでダメとは言えない。今度は女神として、ほんのちょっと人間に力を貸して欲しい。
「え、エリアス1人じゃ危ないじゃないか」
いずれ城壁の上にも見張りが配置されるだろう。60人しかいないのでそこまで人は割けないだろうが、エリアスの正体を知らないアンナマリーにとっては危険極まりなく見えてしまう。
「では我々3人で守るか」
女性騎士隊の3人なら大丈夫だろう、という考えだ。見張りがどう配置されるかは解らないが一ヶ所に固まるわけではないだろう。なら各個撃破していけばいい。
「私は専用の魔剣ロックバスターを取りに行きたいわね。屋敷の地下に置いてあるのよ」
「確かにあれがあれば心強いな」
そこにはヒルダとレイナードと、フロイトが行く事が決まった。
「じゃあヒルダさんが剣を取りにいっている間、ボクが揺動してようか?」
「君が1人でかい?」
「伽里奈、いくらお前が強いといっても」
霞沙羅は伽里奈も強いと言っていたけれど、ヒルダ達が剣を取ってくるまでの陽動で、1人で暴れ回って無事なほど強いとは思えない。
「あのさ、内緒にしてたけど大量のスケルトン消したの、ボクだよ。三人の前で「浄化の匣」使った剣士がいたでしょ?」
「あれ、お前だったのか?」
「カリナ君、あんなに強かったのかい」
「スケルトンを一発で消しちゃったの、カリナ君なんだ」
「それに「破山」の二つ名のある私の剣を全部受けきったでしょ。彼の強さはハンパじゃないわよ」
アリシアだしね、と心の中で付け加える。
「私もすぐに合流するわ。それに上手く行けばルビィの力も借りられるから、カリナ君とルビィの2人ならどうとでもなるでしょ」
「我のトカゲも多少は援護してやってもよいぞ」
「ルビィ君は来れるのか?」
「そろそろ連絡が…」
というところで、鏡に連絡が入った。王都側の結果が出たのだろう。
「ヒルダの件だから、私1人なら独自に動いてよいとのことダ」
おお、魔女戦争の英雄が2人も揃うのかと期待感が膨れ上がってくる。魔術戦闘にかけてならルビィは大陸有数の戦力だ。相手側にも魔術師がいるようだが、束になろうが力負けすることはない。
「そんなに王都は大変なの?」
「料理好きの少年カ。それもあるが、原因も叩かねばならン。一度編成した兵というものも早々割けないしナ」
「ルビィはこの子と組んで、ちょっと揺動しててくれる? 今ロックバスターを持っていないのよ」
「この少年はそんなに強いのカ?」
「私が保証するわよ。この後お父様の屋敷で顔合わせしましょう。先に行っててくれる?」
この後ルビィにも事情を説明するのかと、伽里奈はちょっとドキッとする。でもこうなっては仕方がない。王都も大変な事になっているみたいだし、ルビィが出てきてくれるだけでもかなりの戦力になる。
「何というか、希望が湧いてきたな」
「そうですな。こんな大きな戦いは久しぶりです。私も皆様のことを守りますぞ」
「我々女性3人も、町の騎士団の名にかけて踏ん張るぞ」
「おー」
「はい」
アンナマリーにとっては初めての大きな戦いになるが、この国の英雄様が2人もいるのだと思えば勝ち目のない戦いでは無い。
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