吉祥院家の剣 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「長い間お世話になりました」
ユウトは最後まで残った荷物を手に持って、裏の扉を開けた。
「ああ、異世界の拳法を学ぶことが出来て俺も世話になった」
最後の日にもモガミが別れのためにやどりぎ館にやってきた。とっくの前に管理人ではなくなっているけれど、この日がくるのをずっと気にしていたそうだ。
「この館はいつもお主を待っておるぞ。酒が飲みたくなった時にでも気軽に扉を開けるが良い。悩むことがあれば相談に来てよいぞ。我が占ってやろう」
「はい、フィーネさんにも色々と支えて貰いましたね」
フィーネの独特な雰囲気とか態度には真面目なユウトからすれば最初は苦手な感じだったけれど、悩んでいれば酒の場を用意してくれたり、トカゲ人間を作って鍛錬に付き合ってくれたり、ふとお金を出していい食材を用意してくれたりと、有無を言わせないその行動に紛れていた厚意には今は感謝しかない。
そういえばあのジムを紹介してくれたのもフィーネだった。
結局ユウトはフィーネの正体を知らされないままだ。でもなんとなく人間では無いと解ってはいる。
エリアスについてもそう。それでもやどりぎ館自体がおかしいのだから、何者であろうとももういい。唐突に「我は神じゃよ」と言われても「そうだったんですか」と受け入れることが出来るだろう。
「ハルキス達も気に入っちゃってますからねー」
「ひとっ風呂あびに来るだけでもいいぜ。ビールならいつも冷えてる」
「ああ、ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
「行ってこい」
もうリュック一つになった荷物を持って、ユウトは帰るべき家へとに戻っていった。
* * *
ここ最近の幻想獣の出現状況といえば、先日の大量発生以降は下り坂の傾向だ。札幌でもめっきり減って、一日に少数出現が二件くらい起こればいいくらい。
関東はそうも言えないけれど、軍が出るほどの事態はここ数日起きていない。
これも霞沙羅の広報活動と、警察や協力業者達、それと軍の迅速な行動の賜物だと言えるだろう。住民はある程度安心を取り戻しているから、良い傾向だ。
伽里奈の方は、どうもあのカナタ達が北海道から手を引いているようなので、事件に関わらなくてもいいと、今はもっぱらトレーニングとして、例の雪で作った幻想獣型ゴーレムでの模擬戦をして貰う程度に留まっている。
実際に体を動かしての鍛錬は、訓練用VRでは味わう事が出来ない緊張感があるから、札幌周辺の駐屯地や基地からも体験させて欲しいと人員が派遣されてきている。
噂を聞きつけて…、というか榊がうっかり「あれはいいぞ」と喋ってしまったので、関東から吉祥院もやって来る事になってしまった。
ゴーレム作成の魔術が衰退しているから、日本人からすれば行動を司る思考回路が魔術的理解するのがに難解な為、異様な動きをする幻想獣型ゴーレムに吉祥院はとても興味を持って、伽里奈が作ってくれたテキストを穴が空くほどに目を通していた。
来年度の教育計画のテーマはこれになるであろう事は必至だ。
「ルーちゃんを呼ぶんですか?」
「横浜大のダンジョンを見て貰いたくてねえ。このところその件で技術の交換をやっていたから、ルビィ女史もこっちの魔術に慣れてきたところだよ。それなら実際に見て貰った方がいいと思ってね」
なので吉祥院はこんな口調だ。
異世界の魔術はある程度習得しないと何が起きているのか解らないけれど、もうルビィは初級レベルの習得が終わっているので、見て貰っても大丈夫だろうということだ。
「やどりぎ館の外に行ったことも無いのに大丈夫かな」
「空霜を起こすついでにシスティーにも来て貰うし、アリシア君もいるじゃないか。行き場所は限定するし繁華街は行かないよ。それにそんなに時間はかけないつもりだよ」
伽里奈は館の仕事があるので、あんまり長く吉祥院には付き合えない。
まあ星雫の剣を起こすといっても、寝起きが悪い空霜を抑える為にシスティーに来て貰うだけだし、ダンジョンも通路と一室しかないからそんなに時間はかからないはず。
「来てくれとはいつも言ってるよ。人目についても大丈夫なように、服はこっちで用意しよう」
「そうなんですか、じゃあ聞いてみますね」
伽里奈が日本に来た時に、同じように横浜を案内して貰ったりはしているので、同じ条件のルビィについても任せても大丈夫だろう。そういう事なので、この後ルビィに連絡を取った。
小樽の町に出たことも無いのに、いきなり日本の首都に行くと聞いて悩んだけれど、話に聞く異世界の学校を見たいのもあったし、伽里奈とシスティーがついてくるというので、結局来る事を決めた。
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