追跡をしようじゃないか -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「確かにリバヒルにはこんな感じで魚介料理はあるけど…、美味しいわね」
ライアはさっきシスティーが見せてくれた料理を思い出した。
魚介類は塩胡椒しか使っていないシンプルな味付けだけれど、なぜかやけに美味しい。多分これは食材の下処理がいつも以上にしっかりしているからだ。
「貝をワインで蒸しただけでこれだぜ」
牡蠣の互換品の貝を鉄板の上に置いて、白ワインをかけて蓋をして蒸したもの。これもシンプルで美味しい。スルっと口に入っていきミルキーな食感の貝の味がいい。
「水がやけに美味しいわね」
美味しい料理を前にしてワインが飲みたいかなー、と思うけれど、適度に冷えた水がなぜか美味しい。ただの水なのにひと味違う。
「肉が、肉が柔らかいゾ!」
「焼く前に果物の絞り汁を入れたタレに漬け込んでるから」
「おいちい」
「おいち」
メリルとライアンはフィーネとエリアスに世話をして貰って満面の笑顔で食事を楽しんでいる。エイリアスもなんだかんだで結構子供の扱いは上手だったりするので、ちゃんと懐かれている。
それにしても二人共が女神にお世話されているとか、そうそう無い状況だ。
「アリシア君達の旅はさぞかし美味しい旅であったのでありましょうな」
タレには定番の醤油などの調味料が無いので、ちょっと味の違うバーベキューだけれど、日本人である吉祥院達の口にも合うようになっている。この辺の調整は本当に巧い。
「こういう会食もいいかもな」
「そうね」
レイナードも楽しそうに話をしながら食事をしている。
料理がワイルドではあるけれど、下ごしらえに手間をかければ、例えば周辺の領主や、王都住まいの将軍であってもいけるだろう。
調理をやっているのをすぐ側で見ながら、出来上がっていくのを待つ。
そして出来たての熱々の料理を食べながら接待するのもいいかもしれないと、ヒルダとレイナードが真剣に考え始めた。
雰囲気的にも開放的で、開けっぴろげての会話が出来そうだ。
デザートとしての、フルーツと生クリームを使ったスイーツもんじゃも作って、最後までワイルドな昼食を楽しむことが出来た。
* * *
食事に続いての鍛錬の方は、さすがにレイナードではとてもついて行けないので、騎士団の方に戻り、エリアスに強固な結界を作って貰っての2対2での鍛錬が行われた。
霞沙羅とハルキスが組んだりと、あまり良く解っていない人間とペアになると新鮮な気持ちで鍛錬が出来ると、楽しいようだ。
「こっちは東洋的な力比べでがんす」
吉祥院とルビィは隅っこの方で向かい合って座っての魔力比べを始めた。
いつもと違ってエリアスが鍛錬用の結界を作る役を引き受けてくれているので、この2人の手が空いているからだ。
吉祥院が提案したのは、両者、属性の無い純粋な魔力の塊を作って、向かい合った真ん中で均衡するように安定させるやり方。
ただ、互いに均衡を壊すように押したり引いたりを繰り返して、押し込まれないように静かな駆け引きをしながらとにかく長い時間均衡を維持する。
「これが続くのカ。なかなか面白そうじゃないカ」
そう言って2人は向かい合って座って、地味な戦いを続けた。
そんな事をしていると、食後にやどりぎ館に帰ったはずのフィーネがぬいぐるみを二つ手にしつつ、モガミとユウトを連れて戻ってきた。
「あれ、どうしたんですか?」
「彼ももうじき最後となるのだし、折角だから伽里奈君が活躍した所がどういう世界なのか、俺も気になったので見に来たよ」
「我はあの赤子共にこれを渡しにきた」
フィーネはアリシアの部屋にあった犬のぬいぐるみを持って来た。さっき食事をしている時に話をしていたら欲しいと言われたのだ。
最初ヒルダは半信半疑だったけれど、結局フィーネとエリアスはメリルとライアンの2人に気に入られていた。
あの黒いドレスと喋り方のせいで変な疑いを向けられていたけれど、母親であるヒルダの目から見ても、乳母として雇いたくなるくらいに子供の扱いは上手かった。こうやって後のフォローもしてくれるくらいだし、あの二人も楽しみに待っているだろうから、ヒルダは家の人間を呼んでフィーネを屋敷に通した。
「ほう、あの吉祥院君と渡り合えるというのは中々じゃないか」
モガミは魔術は知識くらいしか無いから何もしていないけれど、管理人時代には妻のアリサが吉祥院と魔術の練習をする場面を何度か見ている。
その吉祥院の実力はアリサを上回っていると認識していたけれど、体の小さなルビィと大きな吉祥院が単純な魔力の強さでほぼ互角に渡り合っているというのは面白い。
「ルビィですか? 火力だけならこっちの世界でも幾多の賢者を差し置いて、大陸有数の魔術師ですからねー」
「アリサも充分に素晴らしい魔術師なのだが、世の中というものは広いのだな。…世界は違うが」
「しかし向こうはすごいな」
ユウトはこの場所には随分な手練れが集まっているモノだと感心している。
エリアスの結界の中ではアリシア組と霞沙羅組の垣根を取っ払って、くじ引きでペアを決めて2対2で戦っている姿を見ることが出来る。
エリアスの強固な結界があるので完全に余波が阻まれているけれど、中で起きている斬り合いの凄まじさは充分に解る。もし結界が無かったら屋敷どころか軽く町が半壊しているだろう。
それにしても今日はもう何回目なんだろうか。実に楽しそうにやっている。出会ってからそんなに時間が経っているわけでは無いけれど、お互いに強い、というだけで信頼が生まれている。
ああいうのを見せつけられてしまうと
「うーん、我々2人も最後に本気でやらせて貰いたいところだな」
やはり拳士としての血がたぎってくる。ユウトが優勝したというのなら、館を出て行ってからどのくらい強くなったのか知りたい。
「そうですか? じゃあヒーちゃんにちょっと場所を借りてもいいか聞いてみますね」
ヒルダは外で見ている状態だったので、声をかけると
「え、別の世界の英雄さんと武闘大会の優勝者なの?」
「あそこのユウトさんがもう館を退居しちゃうから、最後にあの2人で思いっきり殴り合いたいみたいなんだー。隣にいるモガミさんは前の管理人だから、戦闘スタイルも同じで日々の鍛錬につき合っていたから、思い入れがあるんだよねー」
「まあ、エリアスさんは、問題無いでしょうね」
なんといっても女神である。もう一個結界を作ったところでなんの負担にもならないだろう。
「武器はなんなの?」
「素手、って言いたいけど、トンファーと棍を持って来たみたい。あの2人は当たり前のように『気』を使うから、見るだけで参考になると思うよ」
「あら、それはいいわね」
ヒルダは毎日『気』の鍛錬を続けているくらいハマっているので、それを身につけた達人同士がどう使うのかは是非見たい。アリシアにしても、ユウトが本気で戦うのはこれで見納めになるだろうから、見ることにした。
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